4-4.恋バナ?
意外と、世界は狭いものだ。
「へぇ」と、シキは身を乗り出した。
「ペルフェは俺の三つ上で、姉貴みたいな存在。兄貴たちも、俺を可愛がってくれて──」
遠くを見るアルバの目は、キラキラと輝く。
今の幸せを知っているからこそ、過去を引きずらずに生きているのだろう。
「ご両親は、俺を調理師の学校にも行かせてくれて、仕事も紹介してくれたんです」
料理が好きなんですよ。とアルバは微笑む。
「養子になるか? って言われたんですけど、断りました」
「そうだよねぇ。きょうだいになったら、結婚できなくなるもんねぇ」
うんうんと頷き、シキは青年の心情を察する。
「そ、そうですね! ……でも、あいつは修道女になっちまった。あろうことか、聖衛兵にもっ!」
テーブルに拳を落とし、アルバは苦悶の表情。
修道女になるということは、神と結婚するということ。
「でも。よそから来た野郎どもは、そんなの関係ないでしょ?」
「まぁ……そうだね」と、シキは言葉を濁す。
アルバはストーカー予備軍だ。今のところは、まだ健全だが。
ペルフェが修道女でなければ、聖衛兵にならなければ。
もはや、たらればの話になってしまう。彼女のことは諦めた方がいい。
とも言えず、シキは腕を組んだ。
「とりあえず、俺から言えることは一つ……」
半目で、人差し指を立てる。
「ペルフェに告白しろ」
「はぁ!? あいつは修道女だって──」
「まぁ聞け」と、シキは遮った。
「振られるにしても、先手を打っておけってこと。お前を『男』として意識させるんだ」
「意識……?」
「ペルフェにとって、お前は弟分なんだろ? だから、まずはその認識を取り払う。そして『お前のことが、一人の男として心配なんだ』って言ってやれ」
これは効くぞ。とシキは、大きく頷く。
「恥ずかしすぎて、言えるわけないでしょ!」
「じゃあ、いつまでも幼馴染のままだよ?」
アルバに顔を近づけ、シキは声を低くした。
「幼馴染だからって、いつかは自分に振り向いてくれると、思わない方がいいよ?」
これは実体験である。もっともシキは、幼馴染の間を裂いた立場だが。
「それに、聖衛兵はいつでも除隊できるし、修道女だって還俗できる。さしたる問題じゃないね」
「そう、かな……」
後押しに勇気づけられたのか、アルバの頬が緩む。
「いいか? お前の恋敵は、俺でもよその男でもない。『神』だ、神に勝て」
「神? 不敬じゃないですか! それに、どうやって勝てば……」
「まぁ、勝つのは難しいだろうなぁ。でも──」
顎をさすり、シキは視線を落とす。
「もしかすると、勝てるかもしれないよ?」
「え? 本当ですか?」
噛みつきそうな勢いで、アルバは身を乗り出す。
「まだ確証はないけどな。……よし」
何かを決意したように、シキは視線を上げた。
「俺が、お前らの間を取り持ってやるよ。なんか面白そうだし」
「面白そう? 冷やかしなら結構ですよ」と、アルバは眉間にしわを寄せる。
「からかってる訳じゃない。……お前を見てると、思い出すんだ」
頬杖をつき、シキは目を細めた。
「最期まで自分の気持ちを伝えられなかった、不器用な男のことをな」
だから、助けたくなるんだよ。と呟く口元は、どこか寂しそうだ。
「告白は無理強いしない。お前の覚悟が決まったらでいい」
「はぁ……。とにかく、頼りにしてますよ」
先ほどまでの、敵意剥き出しの目つきと態度はどこへやら。
すっかり懐柔されたアルバは、ただの好青年に変化していた。
第二章 探求 完