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1-2.辞令は突然に

──ザミルザーニ事変。

 皇帝崩御(ほうぎょ)から始まった国内の混乱及び他国への侵略行為は、一人の女がきっかけだった。

 後妻──スニエークは私利私欲のために、国内外を引っ掻き回した。

 その最期は、実にみじめなもの。


 反旗を(ひるがえ)したザミルザーニ軍と属国ビエール軍に包囲され、抵抗虚しく自決を迎えた。

 これが、一般人が知る事変の内容。


 実は、スニエークは人間ではない。

 主人である『氷の気象兵器』を乗っ取った眷属(けんぞく)で、自身が生き続けるために、氷点下の世界を作り出そうとしていた。

 こんな話、誰が信じるだろうか。


 たとえ、にわかには信じられない内容だとしても。

 被害国である、クローネ公国の次期大公シュッツェ・ネイガウスは、一部のマスコミに真相を話した。


 ゴシップ好きのマスコミでさえ、世間への真相公表は控えた。

 あまりにも現実離れした内容のため、世界が混乱するかもしれない。

 あるいは陰謀論だと、非難される懸念もあった。

 

 嘘偽りなく真相を公表したシュッツェだが、話さなかったこともある。

 IMOの正体と、誰がスニエークを止めたかを──。


 IMOのボスは『炎の気象兵器』。関連組織にも『水の気象兵器』が所属。

 さらには、IMO隊員にも『風の気象兵器』がいるなどと、口が裂けても言えない。

 気象兵器一人で、一国の軍事力に匹敵する。そんなことが公になれば、新たな争いの火種になりかねない。


 シュッツェの機転により、真実は隠された。

 こうしてIMOは『ただの傭兵組織』として、活動を続けるのだった。


 

 時は、クローネ奪還直後に遡る。

 任務完了の打ち上げが終わり、さぁベイツリーに帰ろうかという時──。


「お前には、今からデースペル大陸に行ってもらう」

 ストレングが差し出したのは、一枚の乗船券。


「は?」

 片付けの手を止め、シキの口は半開き。 


「次の任務だ」


「待て待て。昨日、仕事が終わったばかりなんだけど?」


「だから何だ」と、ストレングスは椅子に座る。


「あれだけのデカい仕事が終わって、休みもないの?」


「ない」


「じゃあ、なんで俺だけ?」


「まぁ座れ」

 向かいの椅子を顎で指し、ストレングスは足を組む。


「この時期、デースペルでは何がある?」

 

「はぁ? えーと──」

 椅子に渋々座ると、シキは視線を泳がせた。


「……あ、ガウダ連邦の首脳サミット?」


「そうだ。お前には、その警備に行ってもらう」


「だったら、もっと人が必要だろ。俺一人っておかしくない?」

 軽い苛立ちを見せ、シキはなおも食い下がる。


「他の隊員たちは、すでに現地入りしている。何しろ、サミットは明日で終わりだ。クローネの件が延びたら、見送ろうと思っていたんだが杞憂(きゆう)だったな。今から向かっても間に合うだろう」


「はぁ? もう終わるんだったら、行かなくてもいいだろ。何で俺が──」

 不満をこぼすも、シキは何かを閃いたらしい。 


「……もしかして、警備以外の仕事か?」


「やっと気づいたか」と、ストレングスはしたり顔。


「数ヶ月前から、デースペルに来る難民が増えたらしい。偶然にもサミットが近い。あとはわかるな?」


「……サミットの襲撃を企むテロ組織がいて、難民を装ってデースペルに入った。とか?」

 姿勢を正し、シキは顎に手を当てた。


「国境警備の獣人(ガウダ人)連中も同じ考えだ。しかし難民の数が多すぎて、テロリストとの判別がつかん。面倒だから、尻尾を出したところをとっ捕まえるって算段だ」


「そんな適当でいいの? 何かあってからじゃ遅くない?」

 頬を掻きつつ、シキは苦笑。


「どうせ、人間の首脳が目当てだろう。同族さえ守れれば、人間が死のうが街が破壊されようが、ガウダ人にはどうでもいいことだ」


「冷たいねぇ」


「ガウダ人の国で人間を受け入れてやっているだけ、ありがたいと思え」

 ストレングスは、懐から四つ折りの紙を取り出す。

 デースペル東部の拡大地図だ。


「サミットが終われば帰れる。楽な任務じゃないか」


「……何事もなければね」

 地図を受け取り、シキは椅子にもたれる。

 悟ったような、抵抗を諦めたような表情だ。


「理解したらさっさと準備しろ。旅客ターミナルに行くぞ」

 悪人顔で笑うと、ストレングは立ち上がった。

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