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1-3.残渣の行方

 人間は弱い。自然界に放り出されれば、一週間ともたずに死ぬ。

 獣人(ガウダ人)のような鋭い爪牙(そうが)や、ヒレや翼も持たない。

 かといって、竜人(パライ人)のような長命さもない。


 だが、獣が恐れる火を扱い、溶かした金属を武器や移動手段に変えた。

 あるいは、病や怪我を治す研究で、平均寿命を大いに引き上げた。


 全ては、戦争に勝つため。

 遺伝子を残すことが獣の営みなら、争いで文明を発展させることが人間の営み。


──智を得た愚者。

 ガウダ人の、人間への蔑称(べっしょう)

 

 諸刃の剣だからこそ、気象兵器に人間は選ばれなかった。

 しかし、ある二人の男を除いては──。



 意外な展開に、シキはハッと顔を上げた。

「なんで人間に渡したの? パライ人じゃなかったの?」と、身を乗り出す。


「パライ人は、力を持つことを固辞した。ガウダ人だけに力を与えては、不平を持たれる。だから、何の力もないエザフォスの核を、公平と信頼の証にと渡したのだ。一部の人間は、私とともに戦ってくれたからな」


「それって詐欺じゃない? 怒らなかった?」


「私は『力』ではなく『使命』を与えた。この指輪を守ることこそ、最高の(ほまれ)であり王に相応しいと。……この時、私はミウルギアの名を持ち出した。人の心を掴むには、最も効果的だったのだ」

 窓に反射したアネモスの顔は、どこか苦しそうだ。


「確かに、神の従者がそんなこと言ったら信じるよなぁ」

 シキはベッドに寝転がり、あくびを一つ。


「時の流れとともに指輪の価値は(すた)れ、いつしか小貴族の手に渡った。忘れ去られた時を見計らい、私は回収するつもりだったのだ。しかし、ある事件が起きた」

 一人掛けのソファに座り、アネモスは目を伏せる。


「指輪を納めていた宝物庫が、盗賊に荒らされたのだ。指輪は奪われ、一時は行方知れずとなった。私は気象兵器と眷属(けんぞく)を総動員し、盗賊を見つけた」


「こわ……」と、シキは引いた様子。

 盗賊のその後は、想像に難くない。


「指輪は戻った。しかし、封じたはずの核が小さくなっていた。なぜかというと、指輪を納めていた箱には他の装飾品や骨董品も入れられていた」

 あとはわかるな? とアネモスは目を開く。


「……その宝物たちに、エザフォスの力が分散した?」


「その通り。すでに売り払われた物も多数あり、正確な数は不明のまま。それでも、地道に回収した。幸いなことに分散された残渣(ざんさ)は非常に弱く、目立った被害はなかった」

 T字杖のグリップをさすり、アネモスはソファにもたれた。


「回収しきったと思っていたが、まだ残っていたとは……」


「……まぁ、これで最後かも知れないし。俺は穏便に済ませたい。外堀から固めていくよ」

 ベッドから起き上がり、シキは荷物を漁る。

 取り出したのは、サクスムのガイドブック。散策に必要そうだったため、結局買った。


「そうしてくれ。下手をすれば、IMOの信用に関わるからな」


「とりあえず、明日から動こう。まずは、ペルフェに近づいて信頼を得ないと。炊き出しでも何でもやるさ」

 

「お前さんなら、うまくやれるだろう。……厄介ごとばかり押し付けてすまない」

 神妙な顔つきで、アネモスは頭を下げる。

 

 神と同列に扱われる存在だが、傲慢さは微塵もない。

 それは優しく、謙虚な老人だ。


「いいって。……なんでもかんでも、自分のせいにしない方がいいよ?」

 弟って、しっかり者なんだね。とシキは笑う。


「……私の悪い癖だ。これだけ歳を重ねては、もう治らんよ。しかし──」

 ありがとう。と微笑(ほほえ)むと、アネモスは光の球体となって消えた。

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