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1-2.修道女のお願い

「そうだ! 明日って、お時間ありますか?」

 礼拝堂を出たところで、ペルフェが思い出したように振り返った。


「え? あぁ……」と、シキは視線を天井へ。

 明日の昼頃に電話しろ。というストレングスの声が蘇る。


「……大丈夫です、ありますよ」

 どうせ、すでに調べはついているだろう。

 前倒しで電話しよう。と考えを切り替えた。


「それはよかった! 実は、手伝っていただきたいことがあるんです!」

 両手を合わせ、ペルフェは勢いよくシキに迫る。


「手伝い? なんですか?」


「郊外の難民キャンプに行くんです。炊き出しをする予定なのですが、人が集まらなくて」


「大変ですね、それなら手伝いますよ」と、シキは即答。

 これは暁光(ぎょうこう)。ついでに難民の動向も探れる。


「ありがとうございます!」

 ぱぁっと表情が明るくなり、ペルフェは上機嫌だ。


「詳細は、明日の朝にお話ししますね! おやすみなさい!」

 礼拝堂の前で別れると、早足で談話室へ。

 他の修道女に、ウキウキで話す顔が想像できる。


「……調子狂うな」

 その背を見送り、シキは歩き出した。


『手玉に取られているようだな?』

 脳内に響くのは、アネモスの愉快そうな声。


『あの子、距離が近すぎる。その上、純粋そうだし』

 心配だわ。と呟く、シキの心情は親心そのもの。

 階段を上がりつつ、ルームキーを取り出した。


『それで、何か掴めたか?』


『彼女は、残渣(ざんさ)の存在に気づいていない。ってことぐらいかな』

 目や表情筋、手の動きさえも注視していたが、不審な仕草は見られなかった。


『では、やはり「物」を知らずに所持しているとみて、間違いないな』

 客室に戻ったと同時に、シキの胸から光の球体が飛び出す。


 光が消え、そこには一人の老人──アネモスがいた。

 銀色の長髪に(ひげ)、灰色のローブにT字杖という身なりは、おとぎ話の魔法使いを彷彿(ほうふつ)とさせる。


「仕事柄、ピアスはしないだろうし、ブレスレットや指輪も着けていない。きっと、ネックレスかアンクレットかな。いずれにせよ、外す頻度は少ない。こっそり拝借はできないね」

 ベッドに座り、シキはあぐらを組んだ。客室なら、声に出しての会話が行える。


「ふむ、今回は手強いな」

 アネモスは腕を組み、険しい表情で唸った。


「……あのさ、ひとつ聞いていい?」


「なんだ?」


「残渣が『物』に宿るっていうのは、俺も知ってるんだけど。そもそも、なんで宿っちゃったの?」


「そういえば、お前さんには話したことがなかったか。……いい機会だ」

 話そう。と呟き、アネモスは深呼吸。


「エザフォスは力を剥奪され、意識も自我もない核のみの存在となった。厄介なことに、完全な破壊は不可能だった」


「なんで?」


「核を砕けば破片となって飛び散り、大地のエネルギーを吸収し何度でも復活する」


「……スニエークが、氷点下の地なら何度でも再生する。みたいな感じ?」

 先の戦いを思い出し、シキは顎に手を当てた。


 大地には限りがない。谷の底はもちろん、深海の底にもある。

 つまり、エザフォスの再生には、気温や天候の制約がないということ。

 同時に、大気がある限り、アネモス本人も不死ということだ。


「さよう。だから、物に封じておく他なかったのだ。……そして私は──」

 そこまで言うと、アネモスの声色が落ちた。

 まるで、話すことをためらうように。


「……私はエザフォスの核を指輪に封じ、人間に渡した」

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