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1-1.天空の王・大地の帝

【ここまでのあらすじ】

大仕事を終えた余韻に浸る間もなく、シキはデースペル大陸へ。

『サミットを狙うテロ組織がいるかも』という曖昧な任務だったが、サミットは何事もなく終了した。

しばらくは任地に留まり、調査を続けることに。

そこで出会ったのは『地の気象兵器』の気配を持つ、修道女ペルフェ。

禁忌の力は破壊する必要があり、任務内容を『力の破壊』に変更。

ペルフェは調査対象となった。

 ミウルギアを描いた宗教画には、高頻度で一人の騎士が描かれる。

 純白の甲冑に身を包み、純白の翼で天を()ける騎士。

 あるいは、白き竜の姿で描かれることも。


 騎士の名を、アネモス・ドラコーン。

 天精(てんせい)天王(てんおう)天竜(てんりゅう)、風の気象兵器。

 彼の呼び名は、多岐に渡る。

 清風を呼び暗雲を払い、ミウルギアの光を地上へもたらす存在だ。


 アネモスには兄──エザフォス・ドラコーンがいた。

 漆黒の甲冑に身を包み、強靭な脚で地を駆ける騎士。あるいは、黒き竜が。

 地精(ちせい)地帝(ちてい)地竜(ちりゅう)、地の気象兵器。

 兄もまた、多くの二つ名を持っていた。 


 しかし、兄はこう呼ばれることが多い。

 『反逆の気象兵器・エザフォス』と──。



 祈りの時間が終わり、礼拝堂に静寂が戻る。

 蝋燭(ろうそく)の炎が不規則に明暗し、修道女たちの影がゆらゆらと揺れた。


 夕食後の礼拝に、見学者としてシキは参加した。

 聖書の詩篇を読み、神に一日の感謝と明日への祈りを捧げる。

 讃美歌と結びの言葉で締め、礼拝は終了。


 意外にも、修道女の一日は忙しい。

 一日の始まりは礼拝。午前と午後は、祈りを捧げつつ奉仕活動。

 それは畑仕事だったり、困窮者への炊き出しだったり裁縫だったり。


 夕食後も礼拝。くつろげるのは夜だけだ。

 しかし、朝が早いので、修道女は早寝早起き。

 

 これでは、ペルフェに接触する機会がない。

 残渣(ざんさ)の正体を突き止めるには、時間がかかりそうだ。


「礼拝、どうでしたか?」

 シキが思案に耽っていると、ペルフェが声をかけてきた。

 これはチャンスである。


「厳かでいいですね。……俺、今まで礼拝に行ったことがなかったんですよ」

 引き留めて出方を探ろうと、シキは口を開いた。


「そうなんですか?」と、ペルフェはベンチに座る。


「だから、ちょっと意外でした。礼拝は神を讃えるだけでなく、己と向き合う時間でもあるんだなって」

 口八丁は、シキの得意技である。


「その通りです! 一日の行いを振り返り、明日への学びに変えていく。そうやって、心の成長を続けるんです」

 ペルフェは両手を叩くと、嬉しそうに祭壇を見た。


「自分一人では難しくとも、主がともにいてくだされば乗り越えられます」


「……確かに、心が強い人ばかりではないですからね」

 かつてのシキも、そうだった。

 他者と違うのは『神』ではなく『力』を欲したこと。


「……そういえば。聖地の礼拝堂で、フレスコ画を見ました。フレスコ画には『二柱の騎士』とありましたが、修道院の宗教画は白い騎士だけが描かれていますよね。やっぱり、()()()()がきっかけですか?」

 話を『地の気象兵器』方面へ持っていくため、シキは無知を装う。


「えぇ、約五百前に起こったとされる『大震災』。その後、修道院の絵は全て描き換えられました」


 それは、エザフォスが引き起こした大厄災。

 大地を割り火山を起こし、高波を呼んだ。

 

 アリステラは瞬く間に荒廃し、その影響はサクスムにまで及んだ。

 圧倒的な力を前に、人々はエザフォスに従う他なかった。

 しかし、アネモス率いる解放軍によって打ち倒され、アリステラは復興を遂げた。


「気象兵器誕生のきっかけか……」と、シキは呟く。


 大厄災の最中、アネモスはエザフォスの奇襲を受け致命傷を負う。

 しかし、その際に火と水の剥奪に成功した。アネモスは雷と氷を、エザフォスは火と水を司っていたのだ。

 

 雷と氷、奪った火と水を切り離し、戦力にと四人の獣人(ガウダ人)に与えた。

 これが、気象兵器の始まりである。


「エザフォスは、大罪人として処刑されました。……実は聖衛兵(せいえいへい)の紋章も、元は二柱の竜だったんですよ? 本当の名前は、カエルム()フムス()聖衛兵でしたし」


「へぇ。そんな歴史があったんですね」

 勉強になります。とシキは、大きく頷く。


「ちなみに、聖衛兵の発案者もお二人です。……主の守護者が罪人というのは、残念でなりませんが」


「確かに、複雑な心境ですね」

 ミウルギアの像を見つめたあと、シキは視線を落とす。

 これ以上、収穫はなさそうだ。と考えつつ、腕時計を見た。


「すみません、引き留めてしまって」


「いえ、私が声をかけたのがきっかけですから」

 礼拝堂、閉めますね。とペルフェも立ち上がった。

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