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1-1.ある平日の正午にて

 季節は十一月。

 ゆるやかに年末が迫る中、多くの人が労働に勤しむ平日。 

 中心街の教会の鐘が、正午を告げた。


 ここは、ヴェルメル連邦共和国のツェニート河川港。

 内陸部ながら国内最大の港であり、周辺には倉庫街が軒を連ねる。

 コンテナクレーンが忙しなく動き回り、色とりどりのコンテナが吊り上げられては陸から船へ、船から陸へ。


 アリステラ大陸を縦断する国際河川のおかげで、南部のセルキオ連邦とレヒトシュタート帝国はもちろん、反対側の海まで行ける。


 河川整備は国際事業として、数多くの国が参加。

 結果的に輸送時間の大幅な短縮と、これまでは不可能だった生鮮品の輸送を実現した。

 まさに、物流の大動脈ともいえるだろう。


 河川港周辺にはヴェルメル沿岸警備隊や、同盟国ベイツリーの海軍基地も存在。

 基地内には、とある騒動を収束させた『国際傭兵組織』──IMO(アイエムオー)の支部がある。



 河川港の旅客ターミナルは、多くの人で賑わっていた。

 雑踏(ざっとう)の中、頭ふたつ抜きん出た赤毛。その巨躯(きょく)に、通り過ぎる人々が振り返る。


 男の名は、IMO総司令官フレイム・ストレングス。

 炎のような赤毛に、割れた顎と黄色い目はライオンを思わせる。


 待合室のベンチにどっかりと座れば、隣のカップルが逃げていく。

 壁のような体格と悪人顔のせいで、一般人は決して近づかない。


 そんな悲しき男ストレングスに「お待たせ」と、近づく男がいた。


 男は「はい」と、ペーパーカップを渡す。

 アーモンドアイは、ウルトラマリンのような深い青。


「お前は紅茶か? ガキだな、シキ」

 ストレングスは鼻で笑い、コーヒーを飲んだ。


「うっさいな、俺は紅茶派なんだよ」と、シキは口を尖らせる。

 コーヒーは飲める。カフェオレ限定だが。


 ベンチに並んで座り、サンドイッチを頬張る二人。

 (はた)から見ても、親子には見えない。


「その髪色は、どのくらいもつ?」

 ストレングスは、三口でサンドイッチを平らげた。


「一ヶ月かな。向こうは日差しがきついから、もっと短いかも」

 自身の髪を触り、シキは首を振った。

 『風の気象兵器』の証である銀髪は、今は真っ黒だ。


「『嫌だ』と喚いていた割には、随分と準備がいいじゃないか」


「『どんな任務であっても従います』でしょ? 行ってきてやるよ」


「偉そうに。クソガキめ」

 ストレングは毒づき、二個目のサンドイッチを平らげる。


「……皆は今頃、巡洋艦の美味い飯でも食ってるんだろうなぁ」

 遠くを見るシキの目には、仲間たちの顔が浮かんでいるのだろう。 


 その時、館内アナウンスが鳴り響く。


「高速船『ヴェレ』。十二時三十分発、デースペル大陸行きのお客様は──」


「時間だ」と、シキは腕時計を見た。

 サンドイッチを完食し、紅茶を飲み干した。


「いいか。目立つ行動は控えろよ」

 ストレングスは、空のカップを差し出す。ゴミを入れろ。との意思表示だ。


「わかってるって」


「まぁ、お前のことだ。言ったところで無駄か」


「善処はします」

 トランクを掴み「行ってきます」と、シキは力のない敬礼。

 手を振り、待合室を出て行った。


「……やっぱりガキだな」

 部下もとい義理の孫を見送り、ストレングスは(きびす)を返した。

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