天翔けろ塵を超えて
戦闘開始だよやったね
草一つない荒野。仮想世界ガイアにおいて、未開拓データエリアとして処理されている都市部から極限まで離れた場所だろう。まだ正確な場所を確認していないため推測になってしまう。戦術人形=安土は辺り一面荒れた地を駆けつつ例の奴らを待っていた。そんな中改めて状況を頭の中で整理する。
(さっきからとんでもないこと続きで頭ん中がごちゃごちゃだ…。冷静に考えるといろいろとツッコミだらけな状況だなこりゃ…。
今のところ気になる情報は…そもそもなぜ俺にバグの処理を依頼するのか。単なるバグの処理ならその道のプロに頼めばいい。なのにわざわざ俺に頼み込むのは何かしらの理由があるはずだ…。それと、あの時グレイは確かに貴方々と言った。つまり俺以外にもここに呼ばれた奴らがいるはずだ。でもあそこに俺とグレイ以外の人がいる雰囲気はなかった。
(っとまあいったんこんな感じか…。もう少し精査するのはこれが終わってからにしよう。)
状況整理を終了するとともに安土は臨戦態勢に入った。目の前には荒野を埋め尽くさんとする大量のスラッシュ。人間大のサイズの四面体に3対の細い足を備えたそれらは一斉に安土の体に視線を寄せる。すると当然頭の中に声が響いてきた。
「安土様!私です!グレイです!今回は初戦闘ということもあり私がオペレーションを行います!まずは…」
グレイがしゃべっている中、じりじりと距離を詰めてきたスラッシュの一体が安土に襲い掛かる。先ほどの移動である程度この機体の動かし方は理解できたので体をよじり簡単に避けることができた。攻撃を外したスラッシュに拳を叩き込もうと思ったが、何かしら適切な処理方法があるかもしれないので我慢する。
「すごい…ですね…!普通の人なら戦術人形と意識との同期ズレでなかなか思うように動かせないんですけど、初戦闘、ましてや訓練も行っていないのにその身のこなしができるのは才能の域です!」
「世辞は後ででいいから、さっき言ってた戦闘技能とやらの使い方を教えてくれ。この数じゃあ拳でちまちま殴ってるんじゃあキリがない」
お世辞じゃないのに、というふうに口をむすっと曲げるグレイをよそにスラッシュ相手に視線をそらさない安土。
「では、スラッシュが怯んでいる間に説明しちゃいますね。戦術人形には3つの〈スキル〉をセットすることが出来ます。現在の機体でセットされているのは、〈釘打ち〉、〈炸裂弾幕〉、〈瞬足〉。どれも基本的なスキルですので扱いやすいと思います。使用映像をご覧下さい。」
そう言うと視界の右上にそれぞれのスキルの使用例が映像で出力される。
「スキルを使用したい場合対応した構え、またはスキルの使用を強く念じれば使用可能です。出したい時に出せるので暴発の心配はありません。」
グレイの説明を聞きながらスキル映像を見る
「なるほど…じゃあこれは…そうかこうやって…よし。」
スキルの扱い、動きを全て理解した安土は瞬足の構えをとる。
「掃討戦と行こうかっ!」
戦術人形の脚裏のスラスターが眩い閃光を放つ。
戦闘開始と言ったな。あれは嘘だ。