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瑠璃姫  作者: 唯畏
1章〈見廻り組騒乱編〉
38/40

38 折れない刀


「って名前のついた刀なのか!?」


刀の美しさと名前の相性の良さにうっとりして大切なことに気づくのが遅れた。名があるということは込められた祈りがあるってことか。


「込めた祈りは不屈。総助のために作った絶対に折れない刀だ」


「絶対に折れない、、」


それが本当ならすごいことだ。でも、そんなことあるはずないとも思う。


俺が使った刀はことごとく折れるのだから。


「疑うなんてひどいなぁ。この俺の刀鍛冶としての腕は超一流なんだから」


それは知ってる。でも、本当に?


「刀を折れないようにするには、刃を硬くするのではなくうなりをいかにやわらかくするかが大切なんだ。その刀を作るのに、総助が盗賊団から奪い返してくれた瑠璃晶を使ってるんだけど、瑠璃晶は海の結晶とも呼ばれていて、流れる水のしなやかさを持つ。だから、とにかくやわらかくどんな衝撃も受けてくれる」


あのとき教会で見た瑠璃晶、言われてみればたしかにその青だ。


「総助は俺の頼みを聞いて、見廻り組隊長を護り抜いてくれた。これはその働きに見合った正当な報酬だ。それに、そもそも材料である瑠璃晶を奪い返してくれたのは総助なんだから受け取って」


、、もしかして、最初からこのつもりで。

どこからが晋悟の筋書きだったのかと総助は身を震わせる。


でも、これが晋悟からの純粋な好意なのだとわかっているから、素直に嬉しいとも思う。


「いいのか?」


「いいもなにも、総助のために打った刀だ。総助以外にはうまく扱えないよ。すごく重いし」


その重みを噛み締めながら刀身を鞘に収めると、飛鳥の刀を腰から外し、瑠璃姫を腰にさげた。


これまでどんな刀を持っても感じなかった胸の高鳴りに、総助は自分がどんな感情を抱いているのかすらわからない。喜びなのか、それとも恐れなのか。


それでも、これまでとは違った毎日が始まるのだという予感だけは確かにあった。


.。o○


晋悟から瑠璃姫を受け取った翌日、総助は安心院家を訪れていた。


「それで? 私の刀を折ったあげく、そんな刀を下げてくるとは」


不機嫌な空気を隠すことなく撒き散らしている飛鳥に、今回ばかりは仕方ないと息を吐く。


安心院家の家宝とまで言っていた飛鳥の刀を折ったのは事実。金でどうにかできるものならまだしも、亡くなった光善さんが打って、晋悟にも直せないという貴重なもの。そもそも、飛鳥は光善さんとは友人として親しくしていた記憶がある。友人との大切な思い出も含まれていたに違いない。


飛鳥は俺が現れて、折れた刀を渡した途端、近くにあった物という物を俺に投げつけてきた。書類や万年筆はいいが、ティーカップと壺は流石に危ないので避けさせてもらったが。


避けたのも気に入らなかったのだろう。

殺気立った鋭い目つきに拍車がかかった。


「刀を折ってすまなかった」


「お前は何もわかっていない。ここまで私を苛立たせるなど、許されざることだ」


「悪かった」


頭を下げると、はぁという深いため息が聞こえる。

顔を上げてみると、飛鳥は殺気を沈めて、呆れたように頬杖をついていた。


「刀が折れるのはわかっていたから、怒ってない」


嘘つけよ。さっきまで怒ってたじゃねぇか。


「光善の孫にもらったとかいうその刀、見せてみろ」


怒りを沈めた今の飛鳥となら普通に会話ができそうだ。

瑠璃姫を腰から外し、飛鳥が前に出した手に鞘ごと乗せる。


飛鳥は鞘の端から端までじっくりと眺め、刀を抜くと刀身の裏表を確認する。そして、刀の真っ直ぐさを見るためか柄の端を目の近くに持ってきて、目を細めた。


ひと通り見終えたようで、刀身を鞘に戻すと俺に返した。


飛鳥がどう感じたのか、答えが聞きたくてじっと見つめてみる。


「いい刀だ。使われている鉄も最上級、練りこまれているのは瑠璃晶だろう。希少価値が高く、めったに出回らない代物だ。柄は純銀。加工が難しく、刀に使われることはめったにない」


「瑠璃晶を使ってるから、柔らかく力を受け流し、絶対に折れない刀が作れたと晋悟が」


「瑠璃晶なんて混ぜたら下手をすれば脆くなるだけ。腕がなければ絶対に作れない。あの空っぽによくこんな刀が作れたものだ」


「空っぽって晋悟のことか」


「ああ、奴の作る刀はいつも空っぽだろう」


飛鳥の言うことがわからないわけではない。

晋悟自身も同じようなことを言っていたことがあった。

刀に魂を込めてない、とかなんとか。


「だが、その刀は間違いなく最上級。売れば、大きめの屋敷が土地ごと買えるほどの財産となるだろう。総助以外にはうまく扱えない刀だとしても、その身の美しさだけで十分な評価を得る」


飛鳥がここまで言うほどの刀なのか。

高家の主らしく、飛鳥のものを見る目は確かだ。


それなのに飛鳥の屋敷の装飾が滅茶苦茶なのは、単に飛鳥の趣味がそうだからだと言わざるを得ない。


「光善の孫から今回の件の正当な報酬として渡されただと? 笑わせる。それが正当な報酬なわけがあるまい」


ま、そういうことだよな。

過分な報酬だ。



総助が帰ったあとの安心院家―――


いつにも増して不機嫌な飛鳥に、屋敷中がピリピリとしていた。


総助は勘違いをしていたが、飛鳥が苛立っているのは総助が刀を折ったからではない。光善の孫からもらった刀を嬉々として下げてきたからだ。


(この私に喧嘩を売るとはいい度胸だ)


総助は、怪我の間は安心院家に居座っても、結局戻って光善の孫の隣に落ち着く。飛鳥が貸した刀は折れて、光善の孫があげた刀は折れない。


これほど気分がいいことはなかろうな。

この私に対して、自分のほうが優位だとほくそ笑んでいるのだ、あの刀鍛冶は。


だいたい私が遣っていた盗賊団に瑠璃晶の情報をわざと漏らし、盗ませた上で総助に奪い返すよう頼み、蹂躙してくれた。見廻り組の一件も、あやつ自身が動いてどうにかできたくせに、あえて総助に頼んで、。

全ては刀を正当な報酬として受け取ってもらうため。そして、自らの存在のありがたみを植え付けるため。


安心院飛鳥にはどうにもできないことを、自分ならなんとかできるのだという主張。

総助を自分に縛り付けておくための、演出。


本当に気に入らない。


売られた喧嘩は買ってやろう。今度挨拶に行かなくてはな。


充血せんばかりに燃える瞳。

パリン、、また壺が割れた。

お読みいただき、ありがとうございました。

毎日16時に投稿していますので、よろしくお願いします!


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その他拙作として

『白鷺のゆく道〜一味の冒険と穏やかな日常〜』も連載中です。

https://ncode.syosetu.com/n8094gb/


これからも唯畏(ゆい)をよろしくお願いします。

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