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瑠璃姫  作者: 唯畏
1章〈見廻り組騒乱編〉
26/40

26 始まった反乱


睦実の師である忠臣と二人。

睦実がおそらく事が起こる日だと予想した例の日を迎えていた。


「当主様、」


「私は兄として、ただ弟を信じるだけだよ」


「、、はい」


外が見えない屋敷の真ん中で、密偵からの連絡を待つ。

それがどうか悲しい知らせではないようにと願って、1秒が永遠に感じられるような、拷問のようなときを過ごす。


そばに控える忠臣は、いつも堂々と静かなのだが、今日ばかりは心配が隠せないらしい。睦実を孫のように思い、特に可愛がってきたのだ。本当は私のことなど放り出して、助けに行きたいことだろう。


ガララッ


「当主様!」


その拷問なるときを打ち破るかのごとく、勢い良くふすまが開けられ、臣下が顔を出した。


その焦った顔に不安をいだきつつ、密偵ではないから別件だろうと頭を働かせる。


「何事か」


「表に人斬り総助が。すでに多くの者が倒れています」


人斬り総助―――たしかここ最近、安心院飛鳥の屋敷への出入りが目撃されていた男だ。町では有名な人斬りで、見廻り組でさえ対処しあぐねている存在だとか。


なるほど、睦実が見廻り組の謀反を対処している間に私のことを殺してしまおうという算段か。たしかに、それなら睦実が私を助けてしまう心配がない。


安心院飛鳥もいよいよ本気で私の首を取りに来たわけか。


「護衛部隊の者たちを全員、人斬りへの対処に向かわせなさい。私の護衛は一人で十分」


「はっ、承知いたしました」


ガララッ、


「当主様、」


「私はここで亡くなることになるだろう。しかし、睦実の兄として、佐条家の当主として、みっともない姿だけは晒さない。最後まで、生にしがみつかせてもらう」


「何をおっしゃいます。この身に変えてでも、必ずお守りいたします」


「いや、あなたには私亡き後も睦実を支えてもらわねばならない。どうか、その身を大切に」


「そんなこと」


キンキン、キーン


ああ゛あーーー


んあっ、、


ギャーー


(これは、、)


だんだんと近づくその音は護衛部隊の者たちが散りゆく音で、智弥の死が近づく音でもあった。


思った以上に早い。


もう一度だけでも睦実の顔を見たかったが、それももう叶わぬか。


せめて、睦実が勝つまでは持ちこたえたいものだが。



―――その頃、道場では、睦実が隊士たちと相対していた。


「これはどういうことだ、兼近」


道場に入るなり、見廻り組の隊士たちに囲まれ、刀を向けられた。


その奥で指示を出す眼鏡の男は、見廻り組の参謀役である兼近だ。


道場に誘ってきたのが彼である以上、間違いなく謀反に加担しているとはわかっていたが、実際に目の当たりにするとどうしようもない切なさがこみ上げる。


「白々しい真似はよしてくださいよ、隊長。謹慎中だというのに、見廻り組の隊服を着て、真剣を下げてきたのは、今日こういうことになるとわかっていたからでしょう。我々謀反人を殺めに来ましたか」


たしかに、その通りだ。


「隊長には情報が漏れないように徹底したはずなんですが、一体どこから漏れたんでしょうね」


兼近はメガネをぐいっと上げて、悔しさをにじませる。


「お前の統制はよくできている。実際、私のもとに一切情報は漏れて来なかった」


「では、なぜ」


「空気が変わった。町で見た隊士たちの気配が如実に語っていた」


「そんなことで」


「そんなこと? 実戦経験の殆どない貴様にはわからないかもしれないが、気配はすべてを物語る。私が見廻り組の中で誰よりも下手人を取り押さえるのはなぜだと思う。わかるからだ。相手の放つ気配で、何を考え、次にどう動こうとしているかが」


私に刀を向けてきている隊士たちが揺れる。

侍であれば、私の言葉の意味も、私との力量差も理解できるだろう。


「見廻り組の隊長はただ人望があるだけのやつにも、優しいだけのやつにも務まらん。刀一本で誰であっても斬り伏せられる強さと、真実を見抜ける目を持たなければな」


「隊長、僕は自分が隊長になりたいなんて思ってはいません。誰であっても斬り伏せられる強さと真実を見抜ける目を持ってる人間なら他にいる。僕は司馬武虎を見廻り組の隊長にする」


やはり、武虎か。


「そうか、悪くない判断だ。なれば、力をもって、私は示そう」


左手でつば付近の鞘を持ち、右手で柄を握る。

抜刀術の構えをすると、皆が一歩後退した。


この道場のどこかにいるのだろう。

私が副長に据えた、読めないあの男が。


ならば、押し通るまで。


「副長のもとには行かせません。みな、構え!」


「「「はっ」」」


闘気みなぎる隊士たち。悪くない目をしている。




構える睦実を前に、兼近は冷や汗を流していた。


隊長が抜刀術を使うのは、強敵と認めた相手にのみだと聞いたことがある。参謀役の僕は実践の場に出ることがほとんどなく、目にしたことはなかったが、見た者達はあまりの速さに見えなかったとみな囃し立てていた。


隊士たちはその恐ろしさを知っているからこそ、構える刀が震えている者もいる。なんとか踏ん張って、無理して、、隊長に挑むということがいかなことか、兼近は初めて正確に理解できた気がした。


「かかれ!!」


僕のこの合図がどれだけ酷なものか。


一斉に振りかぶる隊士たち、


だが、


1歩踏み出した彼らは次の瞬間には崩れ落ちた。


バラララ、ガシャーン


いくつもの刀が床に落ちる音が響く。


見えなかった。


速すぎて、何も見えなかった。


ただ、隊長が抜いたらしい刀を鞘に戻すのだけが見えた。


化け物か。


勝てるとしたら、副長だけだ。

早く副長の元へ行こう。


いや、ほんとうに、副長は勝てるのか、、?


副長が勝つ未来すらも欠片も想像できなくなって、兼近はとうとう考えることを放棄した。恐怖に頭を支配されれば、どんな賢者もただの愚者になり果てる。


それでも、過去の自分が組み立てた作戦だけは兼近の頭に鮮明に残っていて、兼近は今の自分が過去の自分に命令されて動いているような、不思議な体験を感じていた。


「副長! 佐条睦実に勝つのは無理です。第二計画に移行します」


気がつけば、副長の前でそう叫んでいた。


「ふふ、懸命な判断ですね。やはり私が見込んだ優秀な参謀殿です」


副長の朗らかな笑みをどこか遠くに感じながら、脈打つ心臓が少しでも静かになるよう、ぎゅっと胸を掴んだ。


お読みいただき、ありがとうございました。

毎日16時に投稿していますので、よろしくお願いします!


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その他拙作として

『白鷺のゆく道〜一味の冒険と穏やかな日常〜』も連載中です。

https://ncode.syosetu.com/n8094gb/


これからも唯畏(ゆい)をよろしくお願いします。

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