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瑠璃姫  作者: 唯畏
1章〈見廻り組騒乱編〉
21/40

21 動き出す武虎


あれ以来、毎日のように見廻り組反隊長派閥との会合に参加している総助は、睦実の人望のなさをひしひしと感じていた。


日に日に隊士が増えていくのだ。


(おいおい、睦実を嫌ってるやつ多すぎだろ)


そして、ついに―――


その日、総助が到着すると、いつもと違って浮き足立つ様子の隊士達が目に入った。


どうしたのかと、みんなの視線の先を辿ると、穏やかな笑みを浮かべる大男が座っているのが見えた。


「副長殿が味方なら何も怖いことはない」

「正義は我らの手にあり」

「強いだけが取り柄の男などもう要らぬ」

「もう勝ったも同然だ」


ざわめきを注意深く聞けば、その大男の人望の厚さが伺えた。


見廻り組副長、司馬武虎―――


「みなさん、落ち着いてください。隊長殿が相手なのですから、警戒はいくらしてもしたりないでしょう」


部下にも敬語を貫き、物腰柔らかな男。


総助は武虎と関わりを持ったことはない。


あ、


目があった。

武虎の驚いた顔に、総助も驚く。


笑顔以外を初めて見た気がしたからだ。


「おー、総助! 見よ、遂に副長が我らの熱意に応えてくださったのだ。これで計画の成功率はうんと高まった」


「我ら反隊長を掲げてはいるが、武虎殿を隊長にしたいがゆえに参加しているものも多かったのだ。これで士気もぐっとあがるぞ」


総助を取り囲み、嬉しそうに報告する隊士達。 

武虎はその情景が信じられなかった。


(この前まで人斬り総助を蔑んでいた隊士達がいつの間にこんな、、むしろ彼を慕っているかのように)


「ああ、お前らよかったな。浮かれてしくじるなよ?」


「もちろんだとも!」


人斬り総助も柔らかい笑みで応えている。


武虎は人斬り総助と関わりを持ったことはない。


それは、自分が関わることを隊長殿が好まないだろうという思いがひとつ、もうひとつは、刀鍛冶の晋悟が傾倒している男に下手に関わるのは面倒ごとの予感しかしなかったからだ。


だが、ずっと興味はあった。


見廻り組隊長と国一番と名高い刀鍛冶、これだけ厄介な人たちを虜にする人斬り総助とは一体何者なのだろうか、と。



武虎は立ち上がり、総助に近づく。


彼に話しかけていた者達が、遠慮して離れていった。


「初めましてですね。総助殿。見廻り組で副長を務めている司馬武虎と申します」


総助は笑顔を向けはしなかった。

無視をして、端に座る。


「お、おい、総助? 副長とは馬が合わないのか?」

「総助、副長のなにが気に入らねぇんだ? 頼むから機嫌直してくれよ」


総助に何人もが声をかける。

責める言葉は誰も吐かない。気遣うように、だ。


「あ、副長、気を悪くしないでください。総助は情緒不安定なところあるけど、悪いやつじゃねぇんです」

「総助が失礼な態度なのは誰にでもだから、べつに副長を嫌ってるわけじゃないと思うので」


隊長と晋悟殿の二人だけじゃない。

周りがみんな変えられていく。


不思議だ。

何をどうやったらこんな……。





「隊長殿、今日初めて人斬り総助に会いましたよ」


「……なぜ」


睦実は謹慎の間、毎日、武虎の家を訪れるようにしていた。兼近に現状を知らないのはどうのこうのと責められて、それを受け止めた結果だった。


いつも『特に問題はありませんでした』との報告を受けるだけなので、今日もそのつもりだったのだが、まさか武虎から総助の名が出るとは。


干渉はしないと言っていたのに、なぜ。


「そう睨まないでください。成り行きで会ってしまっただけですよ。それに、どうやら私は嫌われているらしい。一言も話してはいただけませんでした」


だとしたら、なぜ私にそれを話す?


睦実は武虎を理解できない。


初めて会ったときからずっと―――。


睦実には子供の頃から剣の才があった。

師匠に負けたのもはじめのうちだけ、少ししたらもう負けなしになっていた。


智弥のように柔軟にはやれない。

総助のように人の輪の中心にはなれない。


それでも、剣の腕だけは誰にも負けない。


それは、睦実の矜持で、だからこそ、見廻り組隊長という地位にこだわりがある。


剣の才一本で町を守り兄を守れる地位だから。


問題は副長に誰を据えるかだった。


5年前、隊長になることが決まった睦実には副長を選ぶ権利があったが、任せたいと思える人材はいなかった。


そんなとき町で武虎を拾ったのだ。


流浪人だった武虎は金銭を盗まれ一文無しになって地べたに座り込んでいた――。


「おい、こんなところで何をしている」


顔をあげた武虎はにこりと笑って


「お金、すられてしまって。行くあてがないんです」


困ったように、それでいてどこか楽しそうに。


変なやつだな、が第一印象。


そのあと、金をすったやつらを捕まえて、金を取り返してやったら


「ははっ、ただの流浪人のためにここまで動いてくださるなんて、真面目な方ですね」


笑って、でもなぜか眼は笑ってなくて。


掴めないやつだな、がそれからの印象。


でも、こいつだと思った。


理屈じゃないからうまいこと説明はできない。


でも、副長はこいつしかいないって思った。



「隊長殿、どうかされましたか。何か考え込んでいらっしゃるようでしたが」


「ああ、いや、武虎と初めて会ったときのことを思い出していた。掴めないやつだなと思い、だが、副長にするならこいつがいいと」


「見廻り組に入ってから、何年も隊長殿がずっと副長の座を空けたままにしていることが不思議だったのですが、会ったときにはもう私に任せるつもりだったんですか」


「ああ、」


「ふふ、隊長殿も物好きですね。私のこと苦手でしょう?」


確かにそうだ。

掴めない、読めない武虎のことが睦実は苦手だ。


それでも、いや、


「だからこそかもな。私が間違った道に進もうとしたとき、武虎なら止められるだろう」


掴めない、読めない、というのはつまり、そういうことだ。


「ふふ、なら気を付けてくださいね。間違えないように」


「……ああ」


まただ、また眼が笑ってない。

お読みいただき、ありがとうございました。

毎日16時に投稿していますので、よろしくお願いします!


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その他拙作として

『白鷺のゆく道〜一味の冒険と穏やかな日常〜』も連載中です。

https://ncode.syosetu.com/n8094gb/


これからも唯畏(ゆい)をよろしくお願いします。

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