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瑠璃姫  作者: 唯畏
1章〈見廻り組騒乱編〉
19/40

19 陽太の誕生日

新キャラ陽太くん、登場です。


陽太は家に帰る道で、うんざりとする光景に出くわした。


「今日は誕生日ね」


「もう、七歳か。早いもんだな」


「うへへ、父上、木刀を買ってくれるのでしょう? 楽しみですッ」


楽しそうに笑う親子。

両親に手を繋がれて真ん中でにこにこと笑みを浮かべる少年。


かつての自分を見ているようだと思った。


両親から愛され、いつも一緒にいて、それが幸せなことだとすら考えることもない普通の子供だった。


かつての僕もこうして誰かの心に影を落としていたのかもしれない。

幸せな光景に傷つく人間はいる。


(はぁ、時間ってのは恐ろしいな。家に帰るのが憂鬱だなんて)



「ただいま」


「あら、おかえり陽太。遅かったわね」


母親のほくほくとした笑顔に迎えられ、家を見渡す。


「ちっ、あいつは?」


「お仕事よ。まったく、父親のことをあいつだなんてやめなさい」


またか。


町で見かけたあの少年が頭に浮かぶ。


(僕だって、今日誕生日なのに)


どうしようもない感情を閉じ込めたまま、陽太は自室に向かった。


「ちょっと、陽太」


止めようとする母親の声は、耳に届かない。


バタン


扉をしめ、自室にこもると、より虚しさを感じる。


あいつが今の職場で働きはじめてすぐの頃に買った家。

西洋建築の大きな家で、家族三人で暮らすにはもったいないほどだ。


(いや、ほんとに、もったいないっつうか、こんな家要らなかったのに……)


陽太のため息が部屋に沈んでいく。


あいつが五年前から働き始めたお屋敷は安心院家っていう有名な権力者のところらしい。

最初はだんだんと豪華になっていく食事とか、大きな家とか、嬉しくってたまらなかったけど、少しずつ理解した。


金が増えていくたびに、何かが消えていく。


三人で手を繋いで心からの笑顔を浮かべられた日々はもう無くなったのだと。



「陽太、出てきなさい。話がある」


いつの間にか眠っていたらしい僕はあいつのノックと声で目を覚ました。


久々に帰ってきたと思ったら一体なんなんだ。


ガチャッ


「なんだよ」


扉を少しだけ開けて、ムスッと答える。


「飛鳥様がお前に会いたいと言っている。今すぐ来なさい」


「はぁ? 飛鳥って誰だよ」


バチンッ


(は?)


衝撃に何が起きたのか一瞬では理解できない。


僕は今、こいつに頬をぶたれたのか、?


「安心院家当主である飛鳥様になんて無礼なっ!」


こんなに怒ったのは初めて見た。


じわりと滲みそうになる涙をぐっとこらえる。


何が安心院家当主だ、ふざけるな。

そいつが元凶じゃねぇか。


陽太にとっては安心院家当主が幸せを壊した張本人。


それなのに、こいつにとっては息子である僕よりずっと大切なわけか。


くそッ、なんなんだよ。


馬鹿みたいだ。


誕生日くらいはあの頃みたいに三人で過ごせるかもなんて。


心のどこかで願ってしまっていたらしい。

襲われた絶望に心が黒く塗りつぶされる。


「いいか、もう一度言うぞ。飛鳥様がお前に会いたいと言っている。来なさい」


「なんで、僕が行かなきゃいけないんだ」


「いい加減にしろ、陽太。この家を買えたのが誰のおかげだと思っている。仕事がなくなって路頭に迷いそうになった私たちを飛鳥様が救ってくださったんだ」


何が救ってくださっただ。


「飛鳥様を怒らせたら私は安心院家で働けなくなる。そうしたら、もうお前たちを養えないんだ。わかるだろ? もう陽太も13歳。いつまでも子供みたいにわめくんじゃない」


ああ、確かにもう子供じゃない。


どんなにわめいてもこいつがあの頃みたいに戻ることはないのだと、諦めを抱くことができる。期待を捨てられる。


陽太は大人しく安心院飛鳥に会いに行くことにした。

もう期待なんかしない。わめくだけ無駄だから。


父親に連れられ、訪れた安心院家は想像の何倍も大きくて、入るのをためらいそうになる。


だが、父親の冷めた目に見つめられ、陽太は足を踏み入れた。


金の壁に真っ赤な絨毯。


ギラギラしていて、正直、気持ち悪い。


当主の部屋に向かってしばらく歩いていると、中庭横の通路に差し掛かる。

涼やかな風が頬にあたって、中庭に目を向ければ、ギラギラしている屋敷から一転、中庭は清楚で美しい。色とりどりの花もどこかこじんまりとしていて、ずっと見ていたくなるような景色だった。


目を向けたまま歩いていると、中庭の椅子にボーッと座っている男の人が目に入った。

薄そうな着物。格好からして高貴な感じはまるでしないけれど、一体誰なのだろう。

天をあおいでいたその人は、ふとこちらに目を向ける。


目が合った。


さっきまでボーッとしてたのに、よく見ると、常人とどこか違う雰囲気で怖い。


その人は頭をガシガシ掻いたあと、そろりと立ち上がり、こちらに歩いてきた。


「総助さん」


父親がこの人をそう呼ぶ。


「よぉ、このガキは?」


「私の息子です」


「ふーん」


聞いたわりには興味がないみたいに相槌を打つ。


「で? 何でこんなところに連れてきてんだ?」


「飛鳥様が私の息子に興味を持ったようで、お会いになりたいとの仰せです」


「へぇ、」


しばらく沈黙したあと、かがんで目線を合わせてきた。


「お前、安心院飛鳥に会いてぇの?」


会いてぇか、だと?

そんなわけねぇだろうが。


「会いたくなんかない」


小さな呟きに父親がぐっと睨んだのがわかる。

だが、驚くことにこの総助という男はフッと笑って、頭をガシガシ撫でてきた。


な、なんなんだ、。


男は屈めていた体を伸ばすと、


「じゃ、飛鳥になんか会わなくていい。ちょっと俺と話そうぜ。退屈してたんだ」


ふわっと笑った男は、どこか華やかで、陽太はついじっと眺めてしまった。

お読みいただき、ありがとうございました。

毎日16時に投稿していますので、よろしくお願いします!


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その他拙作として

『白鷺のゆく道〜一味の冒険と穏やかな日常〜』も連載中です。

https://ncode.syosetu.com/n8094gb/


これからも唯畏(ゆい)をよろしくお願いします。

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