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瑠璃姫  作者: 唯畏
1章〈見廻り組騒乱編〉
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11 見廻り組副長


刀を納めに来たという理由で訪問してきた晋悟。

武虎は当然、それが目的でないことに気がついている。


(隊長殿が畏れる晋悟殿、さて、目的はやはり人斬り総助でしょうか)


温かいお茶をすすりながら、武虎は笑みを浮かべた。


そして、昨晩のことを思い起こす――睦実が家を訪ねてきたときのことを。


.。o○


ガララッ


玄関の扉を叩く音がして、なにごとかと扉を開けると、そこには白い隊服に血を浴びた睦実が立っていた。


峰打ちで済ませることが多い睦実が血を浴びるのは珍しいことだ。


それに、頬を見ると、斬られた跡まで見受けられる。


あの隊長が頬とはいえ斬られるなんて、隊士達が知ったら大騒ぎすることだろう。


強さひとつで見廻り組をまとめている人だからな。


「どうぞ、あがってください。お茶くらい召し上がっていかれるでしょう?」


「ああ、すまない」


応接間に通し、座卓を挟んで向かい合う。

睦実は武虎が出したお茶を飲みつつ、言葉を探しているようだった。


こういうときはただ静かに言葉を待つのが、武虎の常だ。睦実は自らの調子を崩されることを好まないから。


しばらく経って、お茶を飲み終わりそうになった頃、ようやく意を決したように、睦実が顔をあげた。


「武虎、、その、私は安心院飛鳥の怒りを買って、しばらく謹慎することになった。すまないが、しばらくの間、見廻り組のことを任せたい」


睦実が安心院飛鳥の怒りを買うのはこれが初めてではない。ゆえに、武虎としても特に驚きはしないが、それだけなら睦実が話すのをここまで躊躇った理由が説明できない。


「また何か無茶をされたのですか。詳しい話を伺いましょう」


落ち着き払ってお茶をすする武虎に、睦実はおずおずと語り出した。


「先ほど安心院家の娘が誘拐された。娘はなんとか取り返したものの、犯人は取り逃がしてしまってな。ひと月ほど謹慎するようにとのお達しだ。安心院飛鳥の圧力に上は何も言えないから仕方ない。犯人を取り逃がしたのも事実だから、今回は大人しく従うことにする」


娘を取り戻したのに、犯人を取り逃がした?


視線を下に申し訳なさそうにする睦実に武虎は笑みを浮かべた。

いつもまっすぐ目を見て話す睦実が、視線をそらすなど理由はひとつしか思い浮かばない。


「人斬り総助ですか」


睦実のからだがビクッと震える。

恐る恐ると視線をあげた睦実と目が合った。


「なぜ」


「隊長殿がそのような顔をする相手はふたりしかいませんから。構いませんよ、隊長殿。見廻り組の件は承知しました。謹慎されている間のことはお任せください」


「ああ、頼む。それと、」


「人斬り総助のことも私が干渉する気はありませんよ」


喰い気味で断りをいれた武虎に、心底安心したような様子で、睦実は頷いた。


こんな言葉に安心するなんて、この素直さこそが睦実の美徳であり、欠点だろう。


(いつか足を掬われなければいいですね)


武虎の冷めた思考は睦実には届かない。


.。o○


(ふむ、隊長殿といい、晋悟殿といい、人斬り総助に傾倒しすぎではありませんかね)


武虎は内心で首をかしげた。


人斬り総助のなにがそんなに人を惹き付けるのだろう。



そんな武虎の内心を知らない晋悟は、彼の影の薄さについて考えていた。


これまで武虎についてはただの客という認識で、それ以上の興味を抱いたことはなかった。しかし、今回派閥争いにおいて、反睦実派の者たちが武虎を担ぎ上げようとしているという噂を聞き、晋悟はようやく気がついた―――副長に登りつめるほどの人を何一つ警戒してこなかった自分の愚かさに。


隊長である佐条睦実は類い稀な剣の腕を持ち、容姿端麗。この町の誰もが知る有名人で、恨みを抱いている人間も多い。良くも悪くも目立つ存在だ。


それに比べて、司馬武虎はどうだ?


見廻り組において隊員からの信頼が厚いことは間違いないのだが、武虎の派閥といったものはこれまで認知できなかった。私生活においても、独り身で、近しい存在というのが見当たらない。


副長なのだから剣の腕は確かなのだろうが、その実、どんなふうに刀を振るうのか見たことはない。


それは武虎が刀を抜く場面が少ないからとも言えるだろう。頻繁に誰かに襲われる睦実とは違って、武虎が襲われたなどという話を晋悟は聞いたことがない。


もっと言えば、町の人のほとんどは武虎を知らないだろう。


どうも朧気でつかみどころがないのだ。


でかい図体とその地位からすれば、この影の薄さは不釣り合いだ。狙ってとしか考えられない。


にもかかわらず、彼が副長を務めて然るべきだと当たり前に認識させられていたことも含めて、油断ならない相手に思えた。


だからこそ、晋悟はここで武虎の真意をつかんでおきたいのだ。

安心院飛鳥と司馬武虎、ふたりともが敵だというのなら、さすがに手に負えない。総助を撤退させる必要がある。


睦実が犠牲になるのはやむなしだ。


晋悟はそんな考えを巡らせていた。


お互い思うところはあるものの、表面上は笑顔を崩さない。端から見れば、朗らかに語り合う友人のように見えたことだろう。


「相も変わらず、見廻り組の活躍は華々しいようで。昨晩も、拐かされた女性を隊長さんが取り返したそうですね。私の刀がそのお役にたてているとは、嬉しいことです」


「ええ、活躍のほとんどは隊長殿ですね。最近は一人で見廻りをしていることも多いようで、屯所ではなかなか見かけないのですが」


「では、実質、見廻り組を動かしているのは副長である武虎殿なわけですか」


「はは、そうでもありません。下の者が活発に各々の判断で動いております」


「それではうまく統率がとれないのでは?」


「はは、そうですね。しかし、町を守りたいという思いはみな同じ。であれば、なんの問題もございません」


いまいち読みきれない。

派閥争いは下の者たちが勝手にやっていることで、自分は関係していない、と言いたいのか。


「その証拠に今日は私も隊長殿も非番ですからね」


「え、、睦実殿もお休みを? あの方は休みもせずに働き通しの印象でしたが」


「はは、その通りなんですがね。昨日の一件で犯人を取り逃がしたがために、上からこってりと絞られたそうで、謹慎の意味も含めてしばらく休むのだそうですよ」


睦実が? 犯人を取り逃がした?


そんなあり得ないことを可能にする人なんて、、、総助の顔が浮かび、晋悟は苦笑する。


(どうやら、事態は思わぬ方へ動いているみたいだ)

お読みいただき、ありがとうございました。

毎日16時に投稿していますので、よろしくお願いします!


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その他拙作として

『白鷺のゆく道〜一味の冒険と穏やかな日常〜』も連載中です。

https://ncode.syosetu.com/n8094gb/


これからも唯畏(ゆい)をよろしくお願いします。

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