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瑠璃姫  作者: 唯畏
1章〈見廻り組騒乱編〉
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01 晋悟の頼み

新作です。

ほのぼの日常と、ときどき騒乱を描いた、侍や忍びが出てくる物語です。

よろしくお願いします!


団子を食べながら、街ゆく人を眺めていても、総助にはなんの感慨も浮かばない。

いつもと同じ光景をただその瞳に写すだけであった。


総助――といえばここいらではかなり名の知れた男だ。

剣豪とか、人斬りとか、いろんな言い方がされるが、いささか戦いに酔いすぎる傾向のある男として、警戒されている。


「やっぱりここか。いつもいつもそんなに団子を食べていたら、飽きそうなものだけどね」


そんな総助に恐れることなく声をかけるのは、刀鍛冶の晋悟。この二人は昔馴染みで、腐れ縁、もはや親友の域である。


茶屋の外椅子にすわり、ただ街を眺めていただけのつもりが、もう10本近い団子を食していたことに、総助は、またか、とため息をついた。


その様子に晋悟も苦笑いを浮かべ、隣に座る。


「なぁ、晋悟」


「うん?」


「刀、折れたんだわ、昨日」


「またか。乱暴に振り回しすぎなんじゃないの?」


「軟弱な刀が悪い」


とかく強者との戦いを求めて、夜な夜な刀を振りまくっている総助はその戦いについてこれない刀に嫌気がさしていた。


かといって、金はなく、買えるのはなまくら刀のみ。ゆえに、鬱憤はたまる一方で、その発散のために刀を振ればまた同じことを繰り返し、負の連鎖は止めどない。


だからもはや日中は脱け殻のように団子屋に居座るのが総助の常となってしまった。


晋悟もそれをよく理解している。

だてに親友はやってない。


晋悟は、この街、いや、この国にすべからく名を轟かせた刀匠――光善の、その孫である。才をいかんなく継承し、亡くなった祖父の刀鍛冶屋を受け継いだ。


初めはただの七光りではないかと、うろんな視線を向けられた彼も、確かな実力が認められ、ようやく鍛冶屋も軌道に乗った。


しかしながら、最高品質の刀を、それに見合ったお金で売ることを理念としている晋悟の刀は、総助には手が出せない。


こうして遠回しに刀を要求しても、晋悟はそれに応じはしない。


わかってはいたことだが、総助は天を仰いだ。


「ふふ、いい加減仕事したら? 総助の腕なら護衛だろうが、暗殺だろうが、お手のものでしょう?」


「俺は指図されるのは嫌いなんだよ」


「ははっ、まあ知ってるけどさ。ちょっと頼みたい仕事があったんだけどやっぱりダメか」


「ばぁか。晋悟の頼みならやるに決まってんだろ」


「ふふ、ありがと」


「ちっ、」


どうも晋悟の手の平で転がされたような気がして、総助は舌打ちを漏らした。


実際、晋悟は指図は嫌うが頼みは断らないという総助の難儀な性格をよくわかっている。




「瑠璃晶?」


「うん、今度作る刀にどうしても使いたい素材なんだけど、盗まれたんだよ、昨晩、うちの鍛冶屋からね」


「晋悟が盗まれるとはな」


「お客さんからここいらに最近盗賊団が出ていることを聞いていたんだ。どうも血生臭い連中のようだし、神聖な鍛冶屋で斬りあいをするのはどうにも気が引けてね」


「なるほど、あえて盗むのを見逃したわけか」


穏やかに見えて、その実、敵には容赦しないのが晋悟という男だ。ゆえに、晋悟が盗みを許したことが不思議だったが、単純な思考の総助とは違って、理知的で計算して動くことのできる晋悟は、敵がもっとも嫌がるやり方で追い詰める。


そういえば、そうだった。


雑魚の血で鍛冶屋を汚すなんて、晋悟が許すわけはない。

完璧に、自らは害を被らずに、敵を叩き潰す。それが晋悟のやり方だった。


そのことを思い出し、ほんの少し盗賊に同情すると同時に複雑な気持ちになった。

総助は晋悟のその性質を高く評価しているが、もっとも嫌がるに自分が選ばれていることがなんとも釈然としなかったのだ。


「で、そいつらの場所は」


「丘の上の教会跡地」


「……」


沈黙が空気を冷やす。

街ゆく人の声は、総助には欠片も聞こえなくなった。


あそこは、あの教会は―――


「なんなら彼女の刀を持っていくかい?」


冷えきった心が今度は沸き立つようだ。


「ふざけんな、、あいつの刀を使うくらいなら一生なまくらでいい」


「……そう、」


いまだ総助を縛るのは、かつての教会での光景。

彼女と刃を交えた記憶。


「くそっ」


吐き出すように声をだし、総助は刀をもって歩きだす。


椅子の下に無造作においていたなまくらを剥き出しで、だ。


(うわぁ、鞘にも納めず、、そんなんだから街の人に恐れられちゃうんだよ。というか、あの刀、許せないくらいおんぼろだなぁ)


晋悟は心中穏やかでなかったが、あのおんぼろでも総助が勝つことだけはわかっているので、なにも言わなかった。


椅子に座ったまま、歩きゆく背中を眺める。


(いい加減、未来に向かって歩き出さなきゃね。)


―――過去の枷はなまくら刀より厄介だ。

お読みいただき、ありがとうございました。

毎日16時に投稿していますので、よろしくお願いします!


ブックマークと広告下の☆☆☆☆☆押していただけると励みになります(^^)


その他拙作として

『白鷺のゆく道〜一味の冒険と穏やかな日常〜』も連載中です。

https://ncode.syosetu.com/n8094gb/


これからも唯畏(ゆい)をよろしくお願いします。

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