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アフターストーリー③

主人公以外のサブキャラクターの後日談ショートストーリーです。今回はミア視点です。

こちらでアフターストーリーも完結です。後日談含め、最後までお付き合いいただきありがとうございました!

アタシは十二歳の頃から15年以上もの間、意識空間という意味の分からない世界で過ごしてきた。


血の繋がっていない家族との接し方に戸惑っていた十二歳の少女だったアタシは、ある日突然、意識空間に閉じ込められた。

そして、次に目を覚まし、身体を自分の思うままに操れるようになったのは、二十八歳の頃だった。


身体が戻った当初は、人間としての日常に苦労した。

まるで赤子のようだった。現実世界で、手足を動かす方法から習得しなおした。


家族は私が戻ってきたことを涙しながら喜んでくれた。

自分が養女だからとどこか距離を置いていたが、この人達はちゃんとアタシのことを実の娘として接してくれた。それを自分の身体と意識が合致した状態で初めて実感した。


この15年間は無駄だとは思わないし、時間や人生を犠牲にしたとは思わない。

確かに、最初は、アタシはレイラに身体を“奪われた”と思った。

そして、濁流のように流れてくるレイラの記憶。

レイラは半分記憶喪失の状況で、困惑した表情を浮かべていた。

アタシは最初から知っていた。全ての元凶はコイツなのだと。

だから、最初、アタシはレイラに対して、辛辣な態度を取っていた。


でも、15年間、意識空間でレイラと人生を歩んで、レイラの人となりを知った。

そして、当初見たレイラの過去の出来事を当てはめ、レイラは悪人ではないと判断したのだ。


あの経験がなければ、アタシはレイラの記憶の通り、燻ぶっていたかもしれない。

現に、レイラに会う前のアタシは慣れない環境、自分で課した養女としての良い娘としてのプレッシャーに押しつぶされそうになっていたのだから。

傍観者になって、気がついた。

アタシが見ている世界は思ったより小さかったのだと。

もっと人生には可能性がある、世界は広いものだと、レイラとの邂逅で気が付いたのだ。


それに、長年の意識空間での生活とレイラの過去を全て共有してしまったからか、変に物事を達観して見るようになってしまった。

レイラと共に複数の人生を見て、人一倍生きることに、夢を追い続けることに貪欲になった。


余談をさせてほしい。

エマの身体に乗り移ってから、アタシは、ここはエマの世界だからと最初様子見をしていた。レイラが現実空間で活動している時、この不思議な空間で二人きりだった。


第一印象のエマは震えっぱなしの、かよわいウサギのようだった。

対人経験が少ないのか、特に女性に対して恐怖感を覚えているのが見てとれた。

終始、ビクビクと怯えているエマに対して、どうしたものかと思ったものだ。

ただ、ここは年上の自分がなんとかしなければならないのだろうと思った。


そして、ふと、これはバーテンダーとして必要なスキルなのではないかと思った。

レイラの記憶や知識から辿ると、バーテンダーは客が居心地悪そうにしていたら、盛り上げたり、さりげなく話題を出して、雰囲気を和らげるものなのではないのだろうか。


もちろん、バーテンダーに対するイメージや思い込み、偏った知識はあるだろう。

でも、アタシはこれが理想のバーテンダーになるための第一歩だと思った。

だから、アタシはエマにこの空間を少しでも良いものだと思ってもらうよう、笑顔でコミュニケーションを図った。


エマは、様子見をしていたため無口だった女が急に気さくに話し始めたので、不審がっていた。

しかし、段々とアタシに悪意がないことが分かったからか、徐々に心を許してくれたようで、エマの表情から笑顔が増えていった。


エマ曰くアタシは『普段日常では関わらない明るくてサバサバしているお姉さん』とのことだった。

褒められているのかよく分からなかったが、当初より懐いている様子を見て、褒め言葉として受け取っておくことにした。


話を戻そう。アタシは意識空間での経験で意欲的になった。

トークだけではない、美味しいお酒やおつまみ、お客様がどうしたら喜ぶかを考えた。

ついには、フレアバーテンディングというバーテンダーならではのパフォーマンスにも手を出し始めてしまった。


そして、アルバイトとして働いていたバーで実力とガッツを認められ、晴れて正規のバーテンダーとして働くことができるようになった。


不思議な空間で培った個性的な人生観とトーク力、そして胆力。

時には、アクロバティックなアクションで場を盛り上げた。

最近では、アタシを目当てで来てくれるお客様も増えて嬉しいこと尽くめだ。


アタシはこの人生が楽しくて仕方ない。

レイラとの出会いが人生を変えた。幸せは自分で掴むものだと気が付いた。

自分の誇りは自分の努力と成功体験で積み重ねるものだと感じた。

今のアタシは自分が見ても、レイラの記憶を見たアタシと違って、きっと恥ずかしくない存在だ。


今でも、レイラとエマとは定期的に女子会をしている。

大抵、二人の話題は、好きな人の話だ。

……アタシには、一体、いつになったら、そういう存在が現れるのやら。


ここは、レイラの描いたシナリオにはない現実。

不思議な縁に感謝をしながら、アタシは、今をこうやって生きている。


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