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アフターストーリー②

主人公以外のサブキャラクターの後日談ショートストーリーです。今回はエマ視点です。

私は昔、いじめられていた。

引っ込み思案で、何もできず、自分は無力だと思った。

だから、誰かの役に立ちたいと、サポートできるようにとヒーラーを目指した。


友達もまともにいなかった私は、毎日余暇時間は図書館で回復魔法の勉強に注力した。

きっと、私の人生を価値のあるものにするには、誰かの支えになるしかない。

そう思ったから。


(あ……また、あの人だ。)


たまに、図書館で見つけるブロンドヘアの少年。

夕陽に反射して、キラキラと髪が輝いている……気がした。

近所で、ちょっとした有名人の彼。

それが、ケイシーだった。


私はケイシーのことを前から知っていた。

でも、私にとってケイシーは天上人のような存在だった。

畏れ多くて、近づくことすらできない。

それでも、たまに図書館でケイシーを見かけると、ついつい本越しにケイシーを目で追ってしまっていた。


だから、あの時もケイシーの異変に気が付いた。

鍛錬後だったのだろうか、怪我をした状態で、ケイシーは図書館にやってきた。

その怪我を治療することなく、本を読んでいた。

心なしか怪我のせいなのかいつもより元気がなかった。


後から知ったが、その時のケイシーは行方不明だった姉の遺骨が見つかり、姉と望まぬ再会を果たしたばかりだったらしい。そして、過去の痛みを思い出し、放心していたらしい。


私は、ケイシーの憂いを帯びた表情を見て、なけなしの勇気を振り絞り、ケイシーに回復魔法をかけさせてほしいと申し出た。


ケイシーはその時、どこか放心しているような状態で、突然の私の申し出にも抵抗せず、身を委ねてくれた。

そして、初めて、私は誰かのために魔法を使った。


無事、回復魔法は成功し、ケイシーは力のない声でお礼を言った。

いつものキラキラと輝く少年ではなかった。


「……ありがとう。」


「いえ……あの、もし何かあったら私でよければ助けになります。私、あなたのことを知っています。ここでは評判の人気者ですから。私の力なんて必要ないかもしれない。それでも、誰かに頼りたいときは私でよければ声かけてください。」


人見知りの私が勇気を振り絞って声かけたからか、変なスイッチが入ってしまい、ケイシーに対し、饒舌をふるってしまった。

変なことを口走ってしまったかもしれない。

でも、目の前のケイシーは、今にも消えてしまいそうだったから。


私がそう言うと、ケイシーは少し微笑んで、もう一度、ありがとう、と言ってくれた。

私はその時のケイシーの儚げな笑みが忘れられなかった。


それから、私とケイシーは会えば挨拶するような仲になった。

でも、それを偶然、同級生の女の子達に見られてしまった。

きっと、良く思わなかったのだろう。

私は、学校帰りに彼女達が作った異空間に閉じ込められてしまった。


私は回復魔法の勉強に特化しすぎて、剣術やここから脱出する術を持っていなかった。

こんなところで、私は死んでしまうのか、そう思った。

やっと、生きがいを見つけられそうだったのに。


真っ暗な暗闇で永遠と思える時間を泣きながら過ごしていると、急に光が差した。

そして、光の先に居たのはケイシーだった。


偶然、私を閉じ込めたことを自慢げに話していた女の子達の話を聞き、問い詰めて、駆け付けてくれたらしい。


あの時、私はケイシーが絵本に出てくるような白馬の王子様はこういう人のことを言うのだと思った。

……あの時から、私にとってケイシーは勇気と希望の象徴になったのだ。


あれから、数年。

姉殺しの犯人は、操られていた部分もあるが、仲間だと思っていたジルであったことが分かった。そして、ケイシーは、あの時のように、また元気がなかった。


クラウスは、村の再生プロジェクトに参加すると言って、このパーティは事実上解散になってしまっていた。


私が巻き込まれた不思議な出来事はケイシーと私に少しの距離を生んでしまった。

ようやく、現実世界でも声が伝えられるようになった時、ケイシーは私の言葉に懐疑的だった。

どうも、ケイシーはそれを後悔しているようだった。


「……エマ、君が望むことをするといい。無理に俺についてくる必要はない。」


ケイシーは力なくそう言った。

たかが数年、されど数年。私はケイシーの傍にいたのだ。

……それが本心でないことくらい分かる。


「私はいつまでもあなたと共にいきます……最期まで。」


私はケイシーの服の裾を少し掴んでそう言った。

ケイシーはしばらく、私が掴んでいる裾の方を見た。

そして、その裾を掴んでいる手を握った。


「……ありがとう。」


少し困ったような、嬉しいような、複数の感情が入り混じっているのだろう。

ケイシーは複雑そうな表情をした後、いつものように笑ってみせた。


私は『勇者』を好きになったのではない。

私と同じ人間で、紆余曲折しながら、結局人を助ける道を選んだ優しい『ケイシー』。

困難にぶつかっても、前進しつづける『ケイシー』。


そんな『ケイシー』を好きになったのだ。

私を絶望という暗闇から救ってくれた『あなた』だから、ついていくのだ。


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