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アフターストーリー①

主人公以外のサブキャラクターの後日談ショートストーリーです。今回はパメラ視点です。

私は幼い頃に両親を亡くし、祖父母の下で育った。

その間、ずっと二人の兄たちに守られてきた。

時には、村のよく理解できないような考えで、ノーランと離れ離れになったりした。

それでも、私はこの村で蠟人形師として生計を立てていくことを決めた。


ノーランの罪が冤罪であることがようやく明るみになり、私達家族には少しずつ日常が戻りつつあった。

そして、余裕が生まれたからか、いつしか、余計なことを考えてしまうようになった。


ノーランと共に、城から村に戻ってきたハンクを見て、初恋の思い出が蘇ってしまったのだ。もちろん、この15年間全く会っていなかったわけではない。

ただ、村人の目を避けるため、物資を渡すだけなど会っても、要件を終わらせて、さっさと解散してしまっていたので、そんな気持ちにならなかっただけだ。

あの頃は、日常会話すら、ままならなかった。


もう、私とハンクの関係は友達以下に成り下がってしまったかもしれない。

流石に、二十六歳になった自分は、十一歳の頃にハンクに振舞っていた態度を行えるわけがなかった。かつて自分が行っていた言動を今、改めて思い出すと赤面ものだ。


とはいえ、ハンクを見ると、やっぱりカッコイイと思ってしまう。

今は教鞭を振るっているようだが、女子生徒にはモテているとオーウェンから聞いたし、同僚の女性たちからもデートのお誘いがあったりするなんて話を聞くと、数日いやな妄想でぐるぐるしてしまうのだ。


昔は、家で遊ぼうなどノーラン経由で毎週なにがしか会うきっかけはあったし、無知ならではの積極性もあった。

蠟人形師の私と教師のハンクはもう会う機会はほとんどなかった。


最後に会ったのは、天体観測の時だろうか。

15年越しに叶った約束。私はハンクと久しぶりに話した。

内心ドキドキしていたが、内容は至って他愛もない会話。

次の会う約束などすることなど到底できなかった。


私は何もできなかったという虚しい気持ちを蝋人形作りで誤魔化す。

こういう時は、無心になるしかない。

この村は狭い。子供の時なら、可愛らしいじゃれあいでも、大人になったらそうはいかない。


祭り用の蝋人形作りや展示準備が一区切り、つき、久しぶりに自由に創作ができる時間が作れた。


(……だからって、これはないでしょう!)


無心で作っていたのは、ハンクの蠟人形だった。我ながら、最高にキモい。

その蝋人形は想い(執念や情念も込まれていそうだ)が込められているせいか、等身大の大作となっていた。


「パメラちゃん、いるかい?庭にね、オレンジがなったからお裾分けしにきたんだけど。」


この情念の塊といえる大作をどうしようかと考えていると、近所のおばあちゃんが工房に尋ねてきた。


「……あらまあ。」


そして、隠す間もなく、あっさり私の想い人の蝋人形の像を見られてしまう。

おばあちゃんの反応に、私は顔に熱が集まるのを感じた。


「これは、あそこの学校で先生をやっているハンクくんだっけ。パメラちゃんは相変わらず、凄いなあ。本物かと思ったわ。次の祭りの展示物かい?」


おばあちゃんはしげしげとその蠟人形を見て、感嘆の声を上げる。


「そ、そうなの!……あ、オレンジありがとう!とっても、美味しそう。」


私はオレンジを受け取りながら、そう言うしかなかった。祭りやオーダー以外で、自分のプライベート作品として、作りましたとは、とても言えなかった。


「ハンクくんも喜ぶわ、きっと。それに外から来たお客さんも凄いと思うよ。」


おばあちゃんは本心からそう言っているようで屈託のない笑みを私に見せる。

こういう笑みや褒められることに私は弱い。


ふと、私はこの蠟人形を祭りに出して、ハンクの人気がさらに上がったらどうしようと、そんなどうしようもないことを考えていた。


「これから、町内会の人にもオレンジ配りに行くんだ。その時にパメラちゃんの次回作の話しとくわ!こりゃ、みんな喜ぶわ。」


「えっ……待って……」


おばあちゃんは私の制止の声も聞かず、老人とは思えないスピードで工房を後にした。


数日後、あれよあれよとこの大作は次回の蠟人形祭の目玉の展示品になってしまった。

私の気持ちを知っているオーウェンやイーノク、ミアあたりはニヤニヤして揶揄ってきそう。

……ノーランとレイラも生暖かい目で見守ってきそう。

それは、それで気恥ずかしくて、嫌だ。

少し先の未来を想像し、私は羞恥で誰もいない工房の作業場で呻いてしまう。


「……パメラ、いる?」


声にならない叫びをあげながら、作業場でうずくまっていると、今一番聞きたいような聞きたくない、心がかき乱される声が聞こえた。


「ハ、ハンク。どうして、ここに。」


声のした方に向かうと、ハンクは工房の入り口で、こちらの様子を伺っていた。

すると、ハンクの後ろからひょっこりおばあちゃんが満面の笑顔で現れた。

まさか。いや、いずれはハンクにもハンクの像を作って展示されることは伝わると思ったが……

おばあちゃんの表情は、好奇の色で満ちていた。

おおかた、私が子供時代にハンクのことが好きだとかいう情報を仕入れたのだろう。

どうして、年配の人はこういう気の回し方をするのだろう。

ありがたいような、なんだか複雑な気持ちになる。


「ええと、おばあさんから聞いたよ。僕の蠟人形を作ってくれたとか。」


はにかんでそう告げたハンクに私の鼓動が高鳴るのを感じる。


「すんごい大作だったからさ。ハンクくんには祭りの前にちゃんと見てもらった方が良いかなって思ってさあ。」


おばあさんは満面の笑みでそう言う。

きっと、おせっかいな部分はあるけれど、悪気はないのだろう。


「あ、う、うん……」


私はハンクに対する感情を隠すように、踵を返し、例の蠟人形がある場所に案内する。

久しぶりの思いがけないハンクの登場。

私はふと自分の姿が気になってしまう。

まさか、会うと思わなかったから、よれよれの作業着で髪型も変かもしれない。


「これ……」


「凄いね。本物よりかっこよくしてくれたね?」


「そんなことないよ。」


ハンクのそんな冗談めかした言葉に私はどう返して良いか戸惑ってしまう。

そして、おばあちゃんは空気を読んでいるのか、読んでいないのか、ついてきておらず、二人きりだ。


……これは、きっとチャンスだ。

このまま、ずっと引きずるよりは当たって砕けるくらいの気持ちで想いを伝える必要がある。


「……昔からハンクのこと好きだったから、昔から今までのこと思い出しながら作ったの。」


キモいかな、引かれてないかな。

私はそんなことを思いながら、ちらりとハンクの表情を伺う。

ハンクは少し顔を赤らめながら、微笑んだ。


「嬉しいよ、そんな風に思っていてくれて。」


私の胸の高鳴りは最高潮に達する。

あれ、これ告白したことになるのかな。そしたら、今から返事されるのかな。

私はそんなことを考え、頭はパンク寸前だった。


「……今度、映画でも観にいかない?少し遠出してさ。」


これは、期待してよいのだろうか。

私は突然の急展開に、声が出ず、ただ首を縦に振った。

ハンクはそんな私を見て、また微笑むのだった。



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