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23話

【※ジル視点です。】


こんな村、大嫌いだ。

両親とも病に侵され、十分に働くことができなかった。

そして、兄が両親の代わりに働いた。

貧しい暮らしが嫌だったわけではない。家族が嫌いだったわけではない。


嫌だったのは村の対応だ。

両親の病気はあまり知られておらず、頭の固い村人は両親の病気を理解せず、疎んだ。

病に侵され、両親が働くことができないため、肩書がないからか、ひどくいじめられた。


それは、学業と両立しながら働いていた優秀で優しく、将来有望な兄もそうであった。

兄の労働環境はずさんなもので、兄は過労死してしまった。両親も心労が募ったのだろう、兄が亡くなった後、すぐ後を追うように亡くなった。

俺は、独りになった。


家族を死に追いやった村を憎んだ。

この村は呪われている。魔王が棲む村。

そんなおかしな考えが浸透している浅薄な村。

バカみたいな思想のある村に一矢報いてやりたかった。


この世の理不尽を誰かのせいにしてしまいたい。

俺の不幸は村のせいだ。

いっそ、魔王という存在を利用して、村を破滅に導いてやろう。


その時、俺はある“声”が聞こえた。まるで、それは共鳴したようだった。



【※主人公視点です】


『ジルの村に対する憎悪が私の現実世界への憎悪とリンクしたの』


“声”がそう言った。


『ああ……聞いてないかもね。今は魔獣の処理で手一杯か』


ジルに乗り移ったのか、私達が魔獣に襲われているのを傍観しながら、そう言った。

声の言う通り、悠長に返事をしている余裕はなかった。

魔王側とか勇者側とか関係なく、襲われる。


「ジル!目を覚ませ!」


ケイシーがそう声を上げる。


「……うるさい……」


据わった目でジルが小さな声で呟く。


「そんなことをしても、幸せにはなれない……っ!ジルがしていることはジルが嫌いだと思っている村と同じことだ!誰かのせいにして逃避しても変わらない!」


クラウスの言葉に私の胸がズシリと重くなる。


「……うるさい……」


ケイシーは魔獣を倒している間に別の魔獣に襲われる。

回避できないと思ったその時、ノーランがケイシーを助けた。


「……あんた……」


「俺は村に敵意はない。悪意もない。もちろん、君達にもだ。」


ノーランの言葉にケイシーはぐっと押し黙る。

ノーランは気にせず、周りの魔獣を倒していく。


「……ジル、もうやめよう。俺達、間違っていた。憎しみ合うのはもうやめよう……」


ケイシーはジルの方に向かう。

どこからか魔獣が出現するが、ケイシーはそれをあっという間に倒す。


「過去は変えられない。俺もジルも“君”も前に進むしかないんだ。」


ケイシーが見ているのはジルだったが、ジルを通して、“もう1人の私”に対しても伝えているのだと思った。


「どんなに辛い状況でも未来を変えるには、現在を生きなきゃいけない。自分が変わらなきゃ、周りは変わらない。前に進もう!」


ケイシーはジルの肩を掴んで、言い聞かせる。

ケイシーの背後に魔獣が襲い掛かるも、クラウスがそれを退治する。


「独りで全部なんとかする必要はない。俺達、仲間じゃないか。時には、何かを選ばなければいけないし、見送り、諦めなければならない時もある。一人でできない時にはみんなで力を合わせてみればよい。」


ジルの暗い目に光が戻ってくるような気がした。

そして、同時に二人の言葉が私の腹にすとんと落ちた。


『………!?これは……』


ジルの身体から、黒い靄のようなものが、内から押し出されるように出てきた。

“声”にとっては、意図しない物だったのだろう。

そして、その靄はどんどん薄くなる。


『……なんで……私とあなたはリンクしていたはずなのに……』


その言葉を最後に、黒い靄が霧散し、“声”が消えた。

おそらく、私の考え方が変わり、今までの葛藤がなくなった。

それによってもう一人の私の考えと合わなくなり、力を失ってしまったのだろう。


もう一人の私が消えた以上、シナリオに無理やり軌道修正するような圧力はなくなるはずだ。終わったのだ。


魔獣は消え、ジルはもう魔獣を放とうとはしなかった。

ケイシーもノーランを敵対する気をなくしたようだ。

廊下には嵐が去ったような、どこか安心感を伴う静けさに包まれた。


それから、ジルは街の警察に事情聴取されることになった。

ただ、蝋人形祭の直後で観光客が残っていた影響や街の警察が捜査をしたことにより、魔王と呼ばれたノーランは犯人ではない、ということが外部にも広がった。


そして、ついに、魔王のせいにしていた村の一部の権力者の不祥事や村の悪しき慣習が明るみになり、律する機会となった。


ノーランによる被害がないことが明るみになった以上、村はノーランを迫害するような真似はもうできないだろう。


ジルの兄の過労死も明るみになり、情状酌量の余地があると思われるかもしれない。

“私”は罪に問われることはなかった。でも、私はこのシナリオを作った原作者としての十字架を背負っていく。


そして、エマはあるべき姿に戻った。

パメラの準備が出来たのだ。

オーウェンの術により、現実世界で、姿見などで見た自分よりも心なしか美化されている気がする私の蝋人形に私の魂を移した。


私の魂が抜けて、無事、身体を取り戻したエマはケイシーに抱きしめられ、安堵からか涙をぽろぽろと流していた。


「こんにちは、レイラ。」


私が目を覚ますと、ノーランが私を安心させるように優しい笑みで私を迎えてくれた。

蝋で作られた身体は思ったよりも私に馴染んだ。

パメラが魔法をかけて、関節も魂と共鳴して動けるようにしたらしい。


私はレイラとしてこの村で生活することを決めた。

この道が正解かどうか分からない。

でも、自分の人生は自分で決めるもの。

誰にも左右される必要はないのだ。

今度こそ、自分が自分らしくいられるように。

自分が自分を誇れるような生き方をしたい。

この世界で、自分と周りを幸せにできるような人になれるように頑張る。


それが、私の七回目の人生の目標だ。

この人生の幕は上がったばかりだ。

これから紡いでいく未来が私にとっても、“あなた”にとっても明るい未来でありますように。



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