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22話

オーウェンの術により、ミアは15年ぶり、いや15年以上、操作できていなかった身体を動かすことができるようになった。


術が終わった後、ゆっくり目を開けたミア。

第一声は「髪が重い」だった。

確かに、15年間切られなかった髪は異常なほど伸びている。


「ミア……」


「そういえば、アンタと意識空間以外で会うのは初めてよね。」


ミアはケロッとした表情でそう言った。

ミアが私に対して、人形のようなぎこちない動きで手を差し出す。

私がそれを掴むと、ミアは原作では見たことのない快活な笑みを浮かべた。

ミアの手の温もりで、私はぽろぽろと涙をこぼしてしまった。


「アンタって涙もろいの?もう、アンタの心は読めないけれど、大方アタシが元の身体に戻って感極まって泣いているんでしょう。」


「……うん。」


「ほら、辛気臭い顔しないで、このシナリオを変えるんでしょう。一度乗った船よ。大船だろうが、泥船だろうが、最後までついていくわよ。」


そう言って、ミアは、バシッと背中を叩かれる。

私はどれだけ、ミアに救われるのだろうか……


ふと、ミアは鏡で自分自身を見る。

そして、髪にあるリボンの存在に気が付き、そのリボンに愛おしそうに触れる。


「……ちゃんと残してくれていたのね。ありがとう。」


ミアは私とノーラン達に対して、そう言った。


その瞬間、大きな物音が廊下から響き渡る。

何事かと、ハンクとイーノクはすぐ廊下に向かって、飛び出す。


誰かと言い争っている声が聞こえる。


『ケイシー達です!』


エマの声が響く。

……なぜ、ケイシー達が城に?

ゲーム上、ワープできる術を持っていない設定だったのに。


私とオーウェン、ノーランはその様子を見に行こうとする。

ミアも様子を見に行こうとしたが、その場で躓き、転んでしまう。

上手く身体がコントロールできないのと、軽く束ねてあるものの長い髪が歩行を邪魔しているようだった。


「アタシのことは気にしなくていいから、見てきなさい。エマの大切な人達でしょう。」


私はミアにそう言われて、頷き、ノーランとオーウェンと共に、廊下に出る。


「……エマ。やっぱり、ここに居た。」


そこには、ケイシーとジル、クラウスが立っていた。

ケイシーはいつもと様子が違い、狂気に近い何かを感じた。


「これが噂の魔王様か。怖いねえ……にしても、まさか、ネオが魔王側の人間なんてね。声や姿は誤魔化していたみたいだけど、もう俺達は知っているよ。俺達の大切なお姫様なんだ。返してもらうよ。」


ジルはそう言って、ノーラン達に飛びかかろうとする。

すると、魔獣が一斉にノーラン達とケイシー達の間に出現し、遮られる。


「こんな大量の魔獣、城に戻していたのか?森の中にはいなかったのに、夜は来ないと思って油断したか?」


ジルは一旦体制を整えるために引いた。

三人はこの真夜中に迷うこともなく、この城に辿り着いたのか!

よく見ると、三人はところどころ傷ついている。


「……エマ、どうして君はここにいるんだ?……ネオに連れ去られたのか?」


ケイシーは仲間を疑うような性格ではない。

異常事態に、よほど、精神的に追い詰められているのだろう。


『違います!ケイシー、誤解です!』


私が何か答える前に、エマはそう答えた。

ケイシー達は、私が口を動かしていないのに、廊下中にスピーカーのように響き渡る声に動揺する。


「なんだ……これは。」


ケイシーは一瞬困惑した表情を浮かべる。そして、ノーランを睨む。


「魔王!お前の術か!?」


『違います!エマです。私の身体には別の方が入っていて、それを解決するために、ここに来る必要があったんです。』


エマの響き渡る声に動揺するケイシー。


「エマ、君の意志でこんな危険な場所に?そうせざるを得ない“何か”はなんだ?……誰かが君を支配しているのか?」


『確かに、私の身体には別の方の魂が宿っております。この村に来てすぐ、私はその方に意識を奪われました。でも、私はその方を恨んだりなどしておりません。もうすぐ、その方の魂も離れ、元の私に戻ります。そして、その方の行動を通して知ったのですが、どうやらケイシーやジルを傷つけたものは魔王ではなく、別の者が干渉して発生した事象の可能性が高いようです。』


エマの言葉にしばらくケイシーは驚き、言葉を失っていた。

そして、絞り出すように言葉を紡いだ。


「エマ、君は、本気でそう思っているのか……?」


ストックホルム症候群にでも思っているのか、魔王を睨み続けるケイシー。

エマの声にも懐疑的だ。


「ケイシー、ジル、落ち着け。エマの声が本物であれ、そうでないにあれ、一旦詳細の話を聞くのも選択肢としては良いと思うが。」


3人の中で冷静に状況を静観していたクラウスが二人を制止する。


「……」


ケイシー達は無言になった。

それを肯定と捉えた私は本日3回目の説明をする。


「……にわかには信じがたい。」


「……そんな御伽噺あってたまるか。」


ケイシーは半信半疑でジルは吐き捨てるようにそう言った。クラウスは何も言わない。ポーカーフェイスが故に、判断に迷っているのか、信じているのか、疑っているのか、それすら分からない。


「じゃあ、私しか知らない話をしましょうか。ケイシー、年の離れた姉の名前はエミリ。エマと似ているのよね。雰囲気や考え方、名前もそう。あなたは姉とエマをどこか重ねていた。第一印象はそうだったはず。ジル、あなたは女好きだけれど、本当は対人関係が苦手よね。裏表のある人たちをたくさん見てきたから。クラウス、あなたは、近所の病院にボランティアに積極的に参加し、戦闘や呪術によって苦しむ人を見て、多くの人を幸せにしたいと思った。」


本当は、こんな場所で言うべきものではないかもしれない。

それでも、信じてもらうには言うしかない。

ゲームでは書かれていないキャラクターの裏設定。


3人はどうしてそれを、と困惑した表情を浮かべている。


「“声”に侵されて、魔王の隠れ蓑に一連の被害を巻き起こしている。エマはもうじきに解放する。元々、エマの身体に乗り移ったのは故意なものではないの……ネオが見つけてくれたから、もうじき私はエマの身体から離れるわ。危害を加える気はない。ただ、無罪の人を冤罪にして、糾弾するのは違うと思うの。だから、協力して、どうすればよいか考えて、一緒に解決しましょう。」


私がそう言って、ケイシーが何か言おうと口を開いた瞬間だった。


「……少なくとも魔獣の主は分かったよ。」


今まで黙っていたノーランがそう言った。

そして、ゆっくりと魔獣の主を指さした。


「君だろう。」


それは、ジルだった。


「何、戯言を……ジルがそんなことをするわけないだろう。」


動揺を隠せずにいるケイシーはノーランを睨みながら、剣を構えた。


「そうだよ、証拠はあるのか?」


ジルもそう言って、睨み返した。


「証拠……君達に見せる術はない。でも、俺は魔力が誰のものか分かる。」


魔王は最強のラスボスという設定だった。

何の魔法で攻撃されるのか予測することができ、やっかいなラスボスとして作り上げたのだ。

これは原作と変わらないようだった。


『ああ、そっか……そういう設定だったわね。忘れていたわ。』


ジルが喋っている。

でも、ジルの口から紡がれた声は女の声……あの“声”だった。

ふわりとどこからか花の香りがしてくる。

酩酊感を覚える花の香り。


「……ジル、お前……」


ケイシーはジルの方を向く。

ジルは見たこともないような不敵な笑みを浮かべていた。


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