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21話

ひとしきり赤子のように泣きじゃくった私はようやく落ち着くことができた。

そして、ミアだけではなく、エマも、まるで天からの声のように、意識空間を介せず、魂の状態でもパメラ達とコミュニケーションが取れることが分かった。

おそらく、パメラ達に限らず、村の人々とも対話可能だろう。

しかし、この天の声を説明するのは厄介だ。

面倒事が起こる前に、早急にあるべき場所に魂を移すことにした。


エマは、混乱しているようだったが、これから行うこと全てに反論をすることはなかった。


ミアの魂はノーランが管理しているミアの魂に戻すことですぐに話がついた。

問題はエマと私だ。

私の魂が依り代に移るか、消滅しない限り、エマの身体を操る主導権は私が握ったままになってしまう。


「……私が作るよ。その……レイラの依り代。」


パメラがそう申し出た。

まだ、レイラという存在に慣れていないのだろう、たどたどしく私の名前を呼んだ。


「蝋人形で作るよ。レイラ自身が自分の外見を説明するのが難しければ、オーウェンにも補足してもらう。オーウェンは魂に触れたから、客観的な印象も知っているだろうし。」


原作では描写のなかった蝋人形がまさかここで活かされるとは。

これで私は私自身の意志を確信した。私はこの世界で生きていきたいのだ。


パメラは早速作業に取り掛かると言って、部屋を後にした。

オーウェンと私は、ノーラン達のいる城に行くことにした。

勇者と魔王どちらに先に説明すべきか、というよりは、現在魂をあるべき場所に帰せるのはミアだけなのだ。


「ケイシー達を混乱させるといけない。とりあえず、事が荒立たないうちに、瞬間移動で城に向かおう。幸い、今は深夜だ。私達の行動に気付く可能性はほとんどないだろう。」


オーウェンの言葉に私は頷いた。

久しぶりのノーラン達との再会に私は妙に緊張感を覚える。

でも、そんなことは言っていられない。

ようやく、ミアを自由にさせることができるのだ。

私はオーウェンに身を委ね、工房から城へテレポートをした。


瞬間移動した先は城内の廊下と思われる場所だった。


「何者だ……って、オーウェンと……お前は……」


自分達がいる現在位置を確認しようとすると、背後から警戒した声が聞こえた。

振り向くと、そこには、剣を構えた大柄な男性がいた。声や背丈は変わっているけれど、面影が残っており、すぐにその男性がイーノクということが分かる。


「勇者のところのヒーラーじゃねえか。オーウェン、どういうつもりだ?」


イーノクは怪訝そうにオーウェンに尋ねる。

疑問に思うのも当然だ。急に勇者の仲間を城内に連れ込んだら動揺するだろう。


「ついに、見つけたんだ。ミアの魂を。」


オーウェンはそう言って、私の背中に軽く触れ、私の身体にミアの魂があることを告げる。

イーノクはしばらく、オーウェンの言葉をかみ砕けなかったのか、あっけにとられていた。


「……ほ、本当なのか。こ、こいつの中にミアが……」


イーノクは信じられないようなものを見る目でこちらを凝視した。


「ただ、少し説明が難しい点があってだな……とりあえず、難しい説明はノーランとハンクにも伝えたい。二人はどこにいる?」


「ああ、ハンクならそこの突き当りの部屋にいるよ。俺達二人で晩酌していたんだ。俺は外にある実を取りに行っていたから……」


確かにイーノクは心なしか頬が赤くなっており、アルコールの影響か、やや乱暴に実を採ったのだろう。

実を採った際に服が汚れたのだろう。

ところどころ、土と葉っぱが身体に付着している。


「ノーランは相変わらず自室にいる。」


イーノクは顔を伏せてそうオーウェンの質問に答えた。


「……そうか。ノーランは相変わらず自室に引きこもっているのか。仕方ない、ハンクを呼んで、みんなでノーランの自室前に集まり、説明をする。」


オーウェンがそう言うと、イーノクはこの状況をまだ咀嚼しきれていなそうだったが、頷き、私達の横を通り、ハンクの元に向かう。

イーノクが横切った瞬間、少しの風と共に、ふわっとアルコールの香りがした。

自分が作者だと思い出しても、いまだに、ここが空想の世界なんて信じられない。

だって、今でもこんなに香りを、風を、感じているのに。


……違う、ここは空想の世界ではない。もう、ここが現実の世界なのだ。

私は事実を思い出してから、二つの考えに葛藤していた。

作者としての自分と、今この世界で生きる自分に。


しばらくして、怪訝そうな表情を浮かべたハンクが部屋から出てきた。


「……君がミアなのか?」


「ええっと……」


きっと、二人が想定している“ミア”ではあるのだろうが、厳密にいえば、“ミア”ではないのだ。


「詳しい説明はノーランの自室で、らしいぞ。俺も訳が分からん。」


イーノクは説明前から早々に思考を手放したらしい。

肩を竦め、後は私達に委ねるといった形なのだろう。


「ノーラン、起きているか?オーウェンと……あと、お客様がきている。」


ハンクがノーランの自室に繋がる扉を軽くノックし、そう告げる。

ハンクもこの状況が理解できず、私のことをどう説明すればよいのか分からないのが、伝わってくる。それはそうだ。何も説明せず、いきなり突撃してきたのだから。


「……起きているよ……客?」


少しの物音と共にノーランの怪訝そうな声が聞こえる。

久しぶりのノーラン。声変わりしているが、それがノーランのものだと私は直感的に分かった。


「ノーラン、私だ。ついに見つけたんだ。ミアの魂。」


オーウェンがそう言うと、ガタっと物音が聞こえた。

動揺して何かを落としたのだろう。


「……本当?」


ノーランの声色が変わる。自分のオーウェンが嘘を吐くわけがない。

それでも、聞かずにはいられなかったのだろう。

オーウェンは、真剣なノーランの声に、どう答えるべきか少し考え込み、ゆっくりと言葉を選びながら説明を始めた。


「ただ、なんといえばよいか……私も先程知ったんだが、ノーラン達が仲良くなった頃のミアは別人の魂が宿っていたんだ。そして、今いる隣の少女、エマ……勇者のパーティに居るヒーラーの中に、ミアの魂と途中からミアの身体でノーラン達に接していた別の魂、2つの魂が取りついているみたいなんだ。」


「……つまり、僕達が感じていたミアの性格が変わったような違和感は、別の魂が入っていて、僕達と打ち解けあった時の彼女は、別人ってこと?」


オーウェンの端的な話にハンクは理解に苦労しているのか顔を顰めて、オーウェンにそう尋ねる。


「そのようだね。私は別の魂に乗り移ったミアしか知らないから分からないが、ノーラン達が、過去、ミアを見て、急に別人のようになったと感じたのは、本当に別人になったからだろう。」


「じゃあ、今この女の人格も人格が変わった後のミア……別の魂が操っているってことか?」


イーノクが私を見て、そう尋ねる。

私はゆっくりと頷く。ミアとしてではなく、レイラとして答える。


「そうだよ、イーノク。剣術がだいぶ上達したんだね。さっき、剣を構えていた時の姿勢、様になっていたよ。学校に行っていた時に、朝練していたもんね。ハンクも大人になったんだね。森で見た魔法、凄かった。学校の時はどちらかといえば、学術的なものに興味があるイメージだったのに、あんな魔法も使えるようになったんだね。」


イーノクとハンクは、まだ信じられないというように驚愕したように、目を見張る。

私は手をノーランがいる自室の部屋の扉に触れ、ノーランに話しかける。


「ノーラン、クッキー作りしようって言ったとき、不思議がっていたのを今でも覚えている。あの時から、私はミアの身体を借りてしまっていたの。天体観測の約束、今でも忘れていない。出来れば、みんなで天体観測の約束を果たしたいと今でも思っている。」


扉越しにノーランの気配を感じる。


「……三人にもちゃんと私が誰か伝えさせてほしい。私はレイラ。ここはゲームの世界で、私はこのゲームを作ったゲーム制作者。あなたを魔王に仕立て上げたシナリオを作ったのは私。ここに居るみんなは私が作ったゲームのキャラクター。きっと、みんな苦労もたくさんあったし、理不尽な思いをしたと思う。それは、私が描いたシナリオのせい……本当にごめんなさい。でも、今はみんなのを空想の世界のキャラクターなんて思っていない。私が作ってしまった理不尽を変えたいと思う。ミアとエマの魂を元の身体に、そしてノーラン達が理不尽な目に遭っているのを私の力で変えたいと思っているの。だから、お願い。わがままかもしれないけれど、私にそのチャンスをください。」


その後、私は先程、オーウェンとパメラにも話した内容を改めて説明した。

私がなぜ、この世界に来たのか、どんなシナリオを描いたのか、現時点での状況を全て話した。

もう、誰かの仮面を借りて、演じたりしない。

それは、全ての人に対して、迷惑なことだっただろうし、無責任なことだっただろう。

嘘偽りなく、レイラとして接しようと思ったから。


すると、少し沈黙した後、かちゃりと扉が開く音がした。

扉の先には、大人になり、そして原作の時よりもやつれたノーランが立っていた。

しばらく、私を凝視していた。そして、一瞬ふっと頬を緩めて笑った気がした。


「……姿形は違うけれど、俺が探し求めていたのは君だったんだね。」


射貫くような目つき。青い瞳は私を捉えていた。

そして、ノーランは私に覆い被るように抱きしめた。


「嫌ったりなんてしないよ。それに、嫌な人生ではなかった。もちろん、辛いこともあったけれど、君やオーウェン、パメラ、ハンク、イーノク……みんながいたからね。事情は分かったよ。一緒に幸せになろう、レイラ。」


まるで、その言葉はプロポーズのようで、ノーランのことが人間として、異性として、好きな私は反射的に顔が赤くなる。


……ダメだ。


自分を律しなければと私はぎゅっと目を瞑った。

そして、私が自分の邪念を払おうとしていると、ノーランははっとして、身体を離した。

ノーランの今の行動は、とっさに感情に身を任せてとった行動だったのかもしれない。

きっと、自分の能力のことを思い出したのだろう、ノーランは一歩後ずさり、私達と距離を置こうとした。


「……ありがとう、ノーラン。」


イーノクもハンクも私の事情に関して、大きく反論はなかった。

思い当たる節や私の存在がイレギュラーだったからだろう。


「……イーノク、まだ“声”は聞こえる?」


私がそう尋ねると、イーノクは私からこのタイミングで話題を振られると思っていなかったようで、少し驚いた表情をした。


「いや……この城に来てからはほとんどないな。」


「声……俺も洞窟で聞いた以来、ないな。」


ノーランがあの洞窟に行っていたのは、シナリオ通りにしなければという私の裏の感情が引き起こしたのか。

そして、ノーラン達がこんな目に遭っていると思うと胸が痛む。


「質問ばかりでごめんなさい。念のために確認させて。魔獣はシナリオには出現する予定はなかったの。おそらく、私の裏の感情である“声”が影響している可能性が高い。でも、一連の状況を整理すると、“声”は人間の脳内に囁く、意識をコントロールするしか術がないみたいなの。だから、魔獣とか現実でシナリオにない物体を出現させる力はないはず。魔獣の意識を操作できる可能性は多少あるけれど、誰かが魔獣を作り、放っている可能性の方が高い。心当たりはない?」


四人は首を振る。心当たりはないようだ。


「ノーランはあの一件から何も人を傷つけるような事故は起こしていないよ。」


オーウェンがそう補足した。

村にいる誰かには違いないのだろうが、それが分からない。

私の預かり知らぬところで、何かが起こっている。シナリオ通りに、魔王を倒そうとしている。

それは、きっと私の“声”が影響しているのだろうけれど、まだ私はその“声”をコントロールできない。

シナリオが大きく変わっている。きっと、何かがある。私は嫌な胸騒ぎがした。


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