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1話

ミアは剣サバの脇役中の脇役だ。


見た目はかなり美人だが、高飛車な物言いで、いつも彼女は仕事場であるバーで色んな人の悪評を広めていた。


剣サバでは、彼女から魔王の悪評や弱点など、様々な嘘か真実か分からないような情報を仕入れて、勇者のパーティや強化を考えたものだった。


魔王と彼女は、幼少期、家が近所で、優秀な魔王にプライドをズタズタにされ、一方的に嫌っていた……というキャラクター設定だった。


「見た目からして小学校高学年か、中学生……くらいかな?」


姿見で自分の姿を見ながら、そう呟く。


ゲーム登場時は、二十八歳だったはずだ。


姿見に写るミアの姿は、幼く、あどけなさが残る少女だった。


私は、はっとして、庭に出る。


そこには、回想スチルで見た魔王達の家族が住む家があった。


……ここに居れば、魔王にいつでも会える!


そう思い、魔王の家の様子を伺おうとした時、急に足に力が入らなくなり、私は足から崩れ落ちた。


身体が思うように動かない。

呪いか何かなのだろうか?洞窟に向かった時も急に身体が鉛のように動かなくなったことを思い出した。


……やはり、また駄目なのか。

魔王に会うと、私は抗えない何かに襲われてしまう。


脇役キャラでも駄目なのか……


すると、ミアの母親らしき人が駆け寄る。


「ミア!すごい熱じゃない。庭になんて出たら駄目でしょう?」


ミアの父親らしき人も来て、ミアを寝室に運ぶ。


……なんだ、熱か。

今度は死なずにいたい。


私は……今度こそ、何かを成し遂げたい。

ゆりかごのように揺られながら、父親に抱きかかえられ、寝室に向かう中、私はそんなことを考えていた。



しばらくの暗闇の中を漂っていると、少女の大声で目覚めたような感覚に陥った。

「ちょっと、アンタ!何、呑気にしているのよ。」


「……ミア?」


「そうよ、アンタが身体を乗っ取った哀れな女の子よ。」


大声の主は、先程、姿見で見たままの少女だ。

ゲームと変わらない口調で喋っている。


「ここは?」


「知らないわよ。私はアンタに身体を乗っ取られてから、ずっとここに居るし。そこに窓があるでしょ。窓からアンタの視点……まぁ元々はアタシの視点で物事が見られるのよ。」


ミアは窓というが、モニターのようなものが、何もない空間にぽっかりと穴が空いているかのようにそこに在る。


ここは、意識空間のようなものだろうか。

これまでは、キャラクターと話すことなんてなかったのに……


「まぁ、アンタがさっさと良いように使って殺しちゃったものね。アンタが殺した三人はアンタと話す間もなく魂ごと消えちゃったからね。」


ミアは私を嘲笑うようにそう告げた。


「……ミア、私の考えていることわかるの?それに、三人を殺したって……」


「え、無自覚なの?アハハ、シリアルキラーってこういう奴のこと言うんだ。怖ぁい。」


心臓の音がやけにうるさい。


殺した?私が?


ミアはそんな私の気持ちを知ってか知らずか、話を続ける。


「アンタのゲームの世界?……って何だか知らないけど、要するにアタシ達のいる世界のパラレルワールドみたいなところがあるってことでしょ?そこで、アタシの近所に住む感じの悪いガキが魔王になると。それを阻止するためにアンタは三人もの尊い命を犠牲にしたってわけ。」


そうか、この世界にはゲームがないのか、感じの悪いガキってミアもガキじゃん、とか、くだらないことが脳裏を過ぎる。


思わず、余計なことを考えて、現実逃避をしたくなっているほど、頭が混乱する。


ミアは心を読んだのか、「悪かったわね、ガキで。」と吐き捨てるように言った。


「みんな、人生がこんな風に終わるなんて思っていなかったわよ、きっと。……アンタが最初に乗っ取ったリアという女は月に一度来る孫の成長を楽しみにしていた。次に乗っ取ったローガンは頭も良く、将来を期待されていた。三番目に乗っ取った女はリリアーナ。もうすぐ同棲していた恋人と結婚を予定していたの、可哀想よね。」


ミアは左手を眺め、まるでそこに婚約指輪があるように眺める。はじめは、ミアが彼女たちを哀れみ、悼んでいると思ったが、そうではない。


ミアは、それを私に告げることで罪悪感を刺激しようとしているのだ。ウフフ、とまだあどけなさの残る声でミアは嗤う。


ミアの思惑通り、彼女達のことを知り、さらに胸のあたりに鉛でもあるかのようにズシリと重い何かを感じる。


「私、どうしてこんなことになっているのか、分からないの。ミア、貴女の身体もどう返せば良いか分からない。」


「まぁ、悪人はしらばっくれるわよね。」


ミアはわざとらしく溜息を吐く。


「本当なの!」


すると、ミアは面白いおもちゃでも見つけたかのように、好奇心旺盛な目でこちらを見つめる。


どうやら、身体を今すぐにでも返してほしいといった切迫感はないようだ。


「あら、失礼ね。アタシだってアタシの身体に戻れるなら戻りたいわ。ずっとふわふわしていて、変な感じなのよ、ここ。」


確かに、これこそまるで夢の中のような、地に足がついていないような感覚だ。


「もしかして……さっきまでのは現実?」


「さあ?アタシにとっては、窓の先が現実。そして、ここは異空間。そう思っているけど?」


ミアは四角い枠を触る。


どうやら、この枠が彼女が言っていた窓なのだろう。

触っても触感としては何も感じない。でも、ここから出られないとなぜか理解できてしまった。


……これは一体、どういうことだろう?

元の世界の私はどうなっているのだろう。

どうして、ここに来たのか……分からない。


「都合の良い記憶喪失ね……ねぇ、アンタ、元に戻る方法を知らないなら、迷惑料として、アタシの願い、叶えてよ。」


困惑していると、ミアが私の肩に手をかけ、耳にミアの顔を近づけ、囁く。

ミアは私の心の声を読みながら、淡々と自分のペースで話を進める。


「願いって?」


「もう分かっていると思うけど、アタシ、アンタの記憶を今のアンタ以上に知っているの。アンタに身体を乗っ取られた時、今まで覚えた色んなことよりも多くの情報がアタシの脳内を駆け巡った……」


だから、三人のことも知っていたのか。

もしかして、元の世界の私のことも?

私は背筋がぞくりとした。嫌悪感に似た何かが全身を走る。


「……まぁ、ある程度はね。分からないことも多いけど、アンタの記憶にあったアタシは煙草の匂いが充満した寂れたバーで日々酒を煽りながら、村人達の悪口を言って、何の生きがいもなく、つまらない人生を送っていたわ。」


ミアは私の心の声を読み取って、そう返した。

言葉を少し濁されたと感じたのは気のせいだろうか?


私の記憶もビジョンとして、ミアに共有されるのか。

ミアは目を伏せて、淡々と話を続ける。


「もうすでにアタシはこの村がつまらなくて仕方がない。アンタの記憶にあるアタシもこの先、何十年生きていても何も楽しみを見つけていない。そんな顔をしていたわ。だから、ここで身体を乗っ取られたことも転機だと思うことにしたの。」


ミアは私を見つめる。

その瞳はどこか期待の色を含んでいるような気がした。


「犠牲にした三人のことは残念だけど、罪滅ぼしも兼ねて、アタシの迷惑料としても、アンタにはやってもらいたい……アタシを幸せにしてよ、この世界では。」


「……幸せにする?」


「この村、アンタも知っているでしょ?森がほとんどを占めていて、娯楽も何もない。唯一の娯楽は、村の中での噂話。アタシはこんな村が嫌でつまらなくて仕方がなかった。でも、つまらないと分かっていながら、大人のアタシはここに居続けた。そんなの、アタシは嫌なの!」


ゲームでは少ししか出ないキャラクター。

そんなキャラクターでも、内にそんな感情を秘めていたとは知らなかった。


ましてや、まだ十代前半の彼女がそんな思いを持っていたことも。

だって、彼女は「ゲームのキャラクター」に過ぎないと思っていたから。


「アンタはアタシにとって唯一の刺激。この先、どうなるか分からないもの。だから、アンタがアンタの記憶にあるアタシよりも幸せに、刺激のある楽しい未来に導いてよ。それを約束してくれるなら、アタシ、アンタに協力するし、身体も貸してあげる。」


不思議と私は気持ちが高揚することに気がついた。

何だろう、ここに来て、いや、もっと前から……私はこんな風に言ってもらうことを期待していた気がする。


「このアタシの身体を借りるのだから、それくらい保証してくれないと、ねえ?」


「……わかった。」


気がつけば、私はそう返事をしていた。

すると、ミアは無邪気に笑った。


「よし、交渉成立!じゃあ、まずはこの村について教えるわよ。アンタの知っている地図、大まかなエリアだけで、どこに何があるか全く分かってないんだもの。」


ミアの教えにより、この村の地理や人間関係、そして魔王になる少年のことを教えてもらった。


こうして、私はミアの身体を乗っ取り、ミアの精神をパートナーにし、この世界で四回目の人生を歩み始めた。


今度こそは、上手くいくと信じて。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 知識と身体の提供の条件が、ミアを「幸せにする事」というのが面白いです。 人を悪く言うだけのつまらない人生が、勝手に運命付けられているなんて悔しいですものね。 [一言] 白花先生 …
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