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15話

「ケイシーを裏切らないでください……」


意識空間に入った瞬間、エマは詰めるようにこちらに来て、懇願した。


「裏切るつもりはないわ。ただ、ノーランが、魔王が本当にケイシー達が言っているような人物だと思えないだけで……」


「私はケイシーがいるから、このパーティに参加しました。不純だと思うかもしれません。でも、私は命の恩人であるケイシーの役に少しでも立ちたかった……」


エマはそう言って、顔を伏せる。過去、エマは原作通り、魔物に襲われていたところをケイシーに助けられ、命を救われたことから、エマはケイシーを命の恩人として、慕っているらしい。それは、時に盲目だと思うくらい、エマはケイシーに傾倒している。


「ケイシーの家族が犠牲になったのは真実です。ケイシーを裏切るような行為はしないと約束してください。それが私との約束です。」


ミアとの約束の存在を知ったからか、エマはあえて約束と口にした。

もちろん、ケイシーを裏切るつもりはない。ただ、エマの理想通りの行動をとることはできないかもしれない。


「………もちろん、ケイシーを裏切るつもりはないから、善処するわ。」


私は苦し紛れにそう答えた。エマは納得していないようだったが、それ以上の追求はしなかった。とりあえず、様子見をしようと思ったのだろう。


ふと、ミアの方を見る。

ミアは、現状、エマの身体だからか、前より発言をしなくなった。

ただ、この空間の外に繋がる枠を見る機会が増えた気がした。


私は予定より早く、意識空間を抜け出し、目を覚ました。

ミアの様子が気になったからだ。

きっと、ミアはミアの家族のことが気になっている。

今日は夕方まで魔獣退治の予定がある。

夜はエマの身体に危険が及ぶかもしれない。だから、早朝に行動することにした。


ミアの家はもちろん、ノーランの家も行ってみようと思った。

ハンクとイーノクの家は知らないので、行くことができない。

もっとも、限られた時間で行けるのは、ミアの家とノーランの家の2軒くらいだろう。


フロントも早朝だからか、無人だった。

私はなるべく物音を立てずに、静かに宿を後にした。


エマ達が魔王退治について話をすべく、村の会議に出た時、イーノクの父親と思われる人物はいたが、イーノク本人はいなかった。

現在、ミアの身体で出会った人々とは会っていないに等しい。


私は記憶を頼りに、ミアの家に向かった。

ケイシーにもらった情報誌が役に立った。

地形は変わらずとも、15年という月日は街並みを変えるのに十分な年月で、記憶では補えない部分は情報誌に掲載されていた地図を頼りに向かった。

そもそも、15年前は、今、私達が泊っている宿すらなかったのだから。


幸い、宿はミアの家から比較的近く、片道、十数分で着くことができた。

15年も経ったからか、新築だった家は、少し寂れていたが、変わらずそこにあった。

怪しまれない程度に、玄関の数歩手前で立ち止まり、中の様子をこっそり伺う。

カーテンは閉められておらず、人の気配がした。


……ミアの両親だ。

15年の年月が経っているからか、少し老けたように思うが、すぐに分かった。

朝食の準備をしているミアの母親とダイニングテーブルに座り、新聞を読むミアの父親。

どこか寂しげな顔をしている、そんな気がした。


あまり長時間、家の前に立っていたら、気が付かれるだろう。

私は足音を立てないように、そっと踵を返し、その場を後にした。


ミアの家からノーランの家に行くのは造作もなかった。

ミアの身体で何度も訪れた場所。風景が少し変わっていようとも、身体で道順を覚えていた。


ノーランの家は少し雰囲気が変わっていた。

家というよりは工房なのだろうか。改築したのか、別の人間が住んでいるのか。


中を覗くと、作りかけの蠟人形があった。蠟人形が名産品という前知識がなければ、身体の一部が無造作に置いてあるホラー現象だと思ってしまうだろう。


「うちに何か用かしら?」


「……ひゃあ!」


蠟人形と15年前と変わっている家に気を取られたのか、声の主が気配を消して近づいてきたからか、急な女性の声にびっくりしてしまった。


「あらあら、驚かせてしまったわね。」


苦笑いしながら、女性が手を差し伸べる。

私はその女性の顔を凝視する。


髪色や瞳の色は違う、それにあの子はこんなに大人じゃなかった。


(パメラ……)


思わず、声に出しそうになる。

パメラが生きている。大人になっている。ここはパメラの工房なのだ。


その事実が嬉しくて、つい名前を口にしてしまいそうになった。

私は今の自分はエマなのだと、ハッと我に返り、手を借りずに立ち上がる。


「す、すみません……この村の名産品が蠟人形と聞いて、散歩をしていたら、こちらの工房に辿り着いて……」


「そうだったの。こんな朝早くに若い子がうちにいるから、どうしたのかしらと思って。びっくりさせるつもりはなかったのよ。よかったら、少し見ていく?」


きっと、まだ営業時間ではないだろう。それでも、私は大人になったパメラと少しでも話をしたくて、パメラの厚意に甘えることにした。


「今日、この村でお祭りをやるの。蝋人形祭っていう、この村で最大のイベントといっても過言ではないわ。だから、あいにく、大物は催事場の方に持って行ってしまっているのよね。もし、等身大サイズの蠟人形に興味があるなら、お祭りを見たほうが良いかも。今、ここにあるのは、作りかけがほとんどね。」


パメラはそういって、蠟人形の作り方について、サンプルを手に取りながら、説明をしてくれる。


あんなに小さかった少女が手に職をつけて、仕事をしている。

原作では、死ぬはずだった少女が生きている。

それだけで、感動で胸がいっぱいだった。


「そんなに真剣に聞いてくれると説明しがいがあるわ。」


蠟人形の説明を終えたパメラは私の表情を見て、嬉しそうに笑う。


「ここには何をしに?」


パメラの何気ない質問に思わず顔を強張らせてしまう。


「って、蠟人形祭りよね。この村の見どころなんて、そのくらいだし。」


パメラはそう言って、笑った。

パメラは私が魔王退治をしにいくことを知らないのだろう。


「蠟人形祭り、楽しみです。私、そろそろ宿に戻ります。朝方なのに、案内してくださってありがとうございました。」


私はエマとして、笑顔を作って、そう答えた。


「とんでもない。こんな村に、そして蠟人形に関心を持ってくれて嬉しいわ。」


パメラの笑顔と言葉に罪悪感で胸が痛む。

私は軽く頭を下げて、足早にその場を後にした。

何もできない自分が情けなくなる。どうしたら、みんなが幸せになれるのだろう。



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