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14話

目を覚ますと夕方になっていた。どうやら、数時間ほど眠っていたようだ。

客室にある窓から外の風景を眺める。心なしか、昔よりも寂れている気がする。

まだ夕方なのに、人出も少なく、獣のような唸り声も聞こえる。


私は先程、ケイシーからもらった情報誌を広げる。

村全体としては、15年前とそこまで変わっていないようだ。


村人が住むドゥーム地域、観光客は立ち入り禁止と表示されているストレイ森。

変わっている点としては、ノーラン城ができた点。そして、『魔獣注意』という警告が出ていた。

15年前は魔獣などいなかったのに。先程から聞こえる獣のような唸り声は魔獣の声なのか。


エマから教えてもらった情報も改めて整理しよう。

魔王と呼ばれるノーランは城に住んでいる。

家族は消息不明で城に一緒には住んでいないようだった。

代わりに側近が魔王と一緒に城に住みこみで勤務しているらしい。


オーウェンやパメラ、イーノクやハンクは無事なのだろうか?

側近の存在は原作にはなかったが、イーノクとハンクが傍にいるのだろうか?

ノーランが信頼している人物が側近として傍にいるのなら良いのだが……


あの後、ノーランはマリシャス洞窟からどうやって帰ってきたのだろうか?

破滅能力はコントロールできたのだろうか?原作通り、闇堕ちしてしまったのだろうか?……まだ、分からないことだらけだ。


この宿もずいぶん寂れている。こんな村に宿があること自体、違和感があるが、どうやら、この15年間で、この村は蝋人形の制作技術を伸ばし、独自の制作方法を確立させ、ちょっとした話題になり、たまに観光客が来るとのことで、村に宿ができたらしい。

情報誌に写真ではまるで人のように見える精巧な蝋人形が掲載されていた。


私はとりあえず、客室から出てみる。廊下には人がいない。

扉を開けた瞬間に、何かが足元に落ちたのを感じた。

メッセージカードのようだ。


『宿の隣にある酒場に居る。もし気が向いたら、おいで』


ケイシーのサインが書かれたメッセージカードだ。

酒場にパーティのみんながいるのか。まずは行ってみよう。

新しい情報も掴めるだろうし、“今”のパーティメンバーも知っておきたい。


「エマ!来たんだな、こっちだ。」


この村の酒場はかつてミアが働いていた情報収集のための酒場だった。

でも、当然ながらミアはいない。


客もまばらで、私の存在に気が付いたケイシーが大きく手を振ってこちらを見た。

ケイシーの声でケイシーと同じテーブルについていた3人がこちらを向いた。

私はいそいそとケイシーの方に向かった。


「顔色はだいぶ良くなったな。体調は大丈夫か?」


ケイシーは自分の隣に座るように促して、私の体調を伺う。


「ありがとうございます。おかげさまでだいぶ良くなりました。」


私がそう返すと、ケイシーは良かったと微笑んだ。

ケイシーとエマは私が思った以上に仲が良いのかもしれない。

私はケイシーの言動を見て、そう感じた。


「よかったな、ケイシー。ずっと今日一日、エマは大丈夫かなってうるさかったんだぜ、こいつ。」


「仲間なんだから、心配して当然だろう。」


揶揄うようにケイシーの肩に腕を回して笑う男は戦士のジル。

原作では、軟派な男性で、ミアをはじめ登場した女性を片っ端から口説いていたような人間だ。

でも、エマには口説く行為はしていなかった。それは、ケイシーの態度を見れば、薄々分かる。エマにちょっかいをかけたら、ケイシーが本気で怒りそうだし、チームの仲に亀裂が生じそうだからかもしれない。

へらへらしているが、いざという時には前線に立って、戦う、そんな青年だ。


「エマは何か飲むか?」


「えっと……じゃあ、炭酸水を。」


わかった、とバーテンダーに注文を頼む男性。ケイシーとジルのやり取りはいつものことだからか、気にせずにしている。

この男性は、武道家のクラウスだ。ジルと反対で硬派な男性だ。

冗談が通じず、いたって真面目。

他のメンバーと違い、パーティに所属している理由は、村をより良くする、誰かを助ける、という博愛精神に基づいて参加しているのだ。

仲間や村人が危険にさらされた時、身を挺して、助けるという自己犠牲の精神がある。


そして、もう1人のメンバー。

このメンバーを私は知らない。エマから聞いて初めて知った存在。


「エマもお酒が飲めなかったね。このパーティは健全だ。」


うんうんと私の知らないその男は頷く。


「俺達はみんなまだ酒が飲める年齢じゃないからなあ。俺達が飲めない分、ネオがたらふく飲むだろう。」


ジルにそう揶揄われ、ネオと呼ばれた男は笑いながら、ウイスキーを飲む。グラスに入っている氷がカランと音を立てる。


ネオ……原作に居ないパーティメンバー。

僧侶のネオ。最年長でお酒が好き。いつも一人でふらふらしていて掴みどころのない人だとエマは言っていた。目元はベネチアンマスクのような半面の仮面で覆われている。

ローブで身体を覆っており、体格もよく分からない。

私が思わずじっと見ていると、目が合ってしまい、私は思わず目を逸らしてしまう。


「酔っ払い、エマに絡むなよ?」


ジルがにやにやと冗談めかしながら制す。私の隣に座っているケイシーは警戒心からか、若干私を自分の方へ近づけた。


「酷い言われようだね。この程度じゃ、まだ酔わないよ。私達の姫様には手出ししないよ。」


ひらひらと手を振って、軽く否定する。

ネオ、彼は何者なのだろうか?


「それにしても、魔王は村から相当嫌われているのだな。破滅能力だけではなく、魔獣を操って、村を破滅に導こうとしている。村は蠟人形制作をはじめとして、なんとか村を活性化しようとしているようだが……」


他愛もない会話に区切りがついた時、クラウスは淡々とそう告げた。今日の村での情報収集の結果、そう感じたのだろう。

魔王の話題になった瞬間、みんなの雰囲気が変わった。

冷たい、ひりついたような緊張感のある空気になった。


「あいつはクズだ。人を不幸にしている。嫌われて当然だろう。」


先程まで私をあれだけ心配し、優しい目をしていたケイシーは、冷たい表情で吐き捨てるように言う。


原作通り、エマからの情報によると、ケイシーは13年前、この村で暮らしていた年の離れた最愛の姉を魔獣によって殺されているとのことだった。


元々、正義感の強いケイシーは、大切な家族を殺された怒りは相当のもので、何が何でも報復として、魔王を倒したいと思っているようだった。


ケイシーの言い分が本当であれば、その怒りはごもっともだろう。

でも、ノーランを知っている私は誰かを殺めることが想像できない。

破滅能力が暴走したのだろうか、それでもノーランが人を殺したとは思えない。


「情報収集するまでもないね。」


ジルが肩を竦める。

ジルも魔王のことをよく思っていない。破滅能力の影響で家族が貧しい暮らしに追いやられ、辛い思いをしたのだとか。

これも、エマの情報と原作の内容は合致している。


クラウスとネオは感情が見えない。ただ、現状を重く受け止めている、というような様子だった。

意識空間で、エマ自身は、魔王に個人的な恨みや感情はないと言っていた。ただ、ケイシーに従っているというような回答を示していた。


酒場にいる人々も魔王の悪口を肴に酒を飲んでいた。

まるで、この世の理不尽は全て魔王のせいだと言わんばかりに……

私はそれを聞いて、諦めや悲しみ、負の感情でいっぱいになった。


私は負の感情を表に出さないようにしながら、なんとかその場をやり過ごし、客室に戻った。

その日の夜は寝付けなかった。昼間に寝すぎたのだろうか。


私は酒場から客室に戻る時に、客室フロアにバルコニーがあることを思い出した。

年に数回、外で宴会をやるときに使うらしく、通常は24時間、宿泊客のみ出入り自由らしい。冷たい夜風にあたって気持ちを切り替えたかった。


バルコニーに向かい、私はそこにあったベンチに腰掛ける。

ふと空を見上げると、星が肉眼でも見えた。

私はかつてノーランと約束した天体観測のことを思い出し、胸が痛んだ。


「いくら宿のバルコニーだからといって、魔獣も多くて、人も少ないこんな村に、夜一人で外に出るなんて感心しないな。」


ふいに声がして、驚いて、私が振り返ると、そこにはネオがいた。


「ネオ……すみません、夜風にあたりたくなって」


「酒場の空気はエマには合わなかったかな。……眠れないのかい?」


「そんなことは……ただ、日中に寝すぎて目が冴えてしまったみたいです。」


私が苦笑いしながら、返すと、そうか、とネオは私の隣に腰掛ける。


「エマは魔王のことをどう思う?」


ふいにネオがそう問いかけた。


「……よく分かりません。私はケイシー達と違って、魔王に個人的な恨みはありませんから。」


本当はノーランは良い子だと言いたい。

でも、空白の15年になにがあったか分からないし、何よりも今、私はエマなのだ。魔王を退治するためのパーティに参加しているヒーラー。

そんな立場の人間が魔王に肯定的であってはならない。


「クラウスは村を良くしたい、ケイシーとジルは過去の恨みを晴らしたい、エマはどうしてこのパーティに来たのかなと思ってさ。」


「……ネオは魔王のことをどう思っているのですか?」


私はエマ本人ではない。なるべく、エマ本人の意見を求められたときは明言を避けるべきだと思った。かつては、ゲームの1キャラクターだと思っていた。

でも、もう、エマも目の前にいる正体不明なネオも1人の人間として扱うべきだと感じていたから。


私がそう尋ねると、ネオはうーん、と少し悩んだような素振りを見せてから答える。


「私も分からないな。私も魔王に恨みはないからね。もし、魔王が私達が思っているような悪者じゃなかったら、どうする?」


ネオはまるで私の心の中を見透かしたような問いかけをする。


「その時にならないと分かりません。ですが、きっと、その時は……みんなが納得できるような解決策を考えます。話し合いとか……むやみに殺生することは望まないと思います。」


きっと、エマだったらそのように言うと思う。


「そっか、エマは良い子だね。私も話し合いで解決できるのなら、それに越したことはないと思う。」


浅はかな考えだと思われただろうか。でも、ネオは馬鹿にしたような素振りはなく、肯定的に受け止めているように感じた。


ネオは一体何者なのだろう。魔王が悪者でなければ、なんて質問をするあたり、中立的な立場にありたい、もしくはあらゆる可能性を探りたい、そういった性格の人間なのだろうか。


「私はもう戻るよ。エマも客室に戻ろう。女の子一人で夜に外に出るのは控えたほうが良い。」


私は頷き、ネオと一緒に室内に戻る。ネオという人物像を掴みきれずにいながら。



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