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12話

花の匂いと謎の声に意識を奪われ、次に目が覚めた時には、ストレイ森の中だった。

それもストレイ森の中核であるマリシャス洞窟に気が付いた時には立っていた。


「ミア……?」


馴染みのある声に振り返ると、緊張と困惑で強張った表情をしたノーランがいた。

普段、見たことのないような表情をして、突然、私と遭遇したことに驚いているようだった。


「ノーラン!よかった、無事だったのね……」


私はとりあえず、傷一つないノーランに再び会えたことに安堵し、抱きしめる。

一瞬、ノーランは固まったままで、その抱擁を受け入れたように見えたが、すぐに引き離された。


「ミアはなんでこんなところに居るんだよ!?危ないだろう!?」


珍しく強い口調で咎めるように告げるノーラン。


「そういうノーランこそ、なんでこんな危険なところにいるのよ!?アタシ達、ノーランが急にいなくなってどれだけ心配したことか……!」


口論がしたいわけではなかった。

それでも、心配からつい反論してしまう。


「それは……」


ノーランは言い淀む。


「村で動いている計画のこと、アタシも聞いたわよ。もし、それでここに来ているなら、一度みんなところに帰りましょう?みんなで一緒にどうすべきか考えましょう?」


私はこれ以上感情的になってはいけないと、極めて冷静にノーランの方に手を伸ばし、諭すように言った。


ノーランが私の手に自身の手を載せようとしたとき、それは起こった。

何か黒い光線のようなものが、私とノーランを遮るように走ってきた。


『キャストが揃ったわね。当初の予定とはちょっと違うけれど、まあいいわ。』


先ほどの声が聞こえた気がした。しかし、それを咀嚼するほどの余裕はなかった。


かつてハンクの四肢の自由を奪い、最終的には命をも奪ったマリシャス洞窟の呪詛の力。

ノーランは私を庇うように、マリシャス洞窟を背にし、反対方向に走ろうとした。

でも、私はゲームで知っている。マリシャス洞窟の呪詛の力を発動させてしまったら、もう逃げられない。


マリシャス洞窟からおどろおどろしい気配が強くなり、レーザー光線のように黒い光線が私達を攻撃する。

私達は防御魔法を行うことで精一杯で退避することができない。


こんな状況でも私はどこか安心していた。

ここにはハンクもイーノクもいない。二人が傷つけられる可能性はなく、ノーランの心に深い闇を落とすこともない。


ノーランの祖父母もオーウェンもパメラもここにはいない。

ゲームのシナリオとは少し違う。なんとか、この状況を打破しなければ。

でも、攻撃はできない。ミアは元々魔力が低い。ミアの身体を守ることに専念しなければ。


「ミア!!!」


ノーランの声とともに、私の髪がばっさりと切られ、ミアの父親から貰ったリボンも地面に落ちてしまう。


「……っ!」


ここでは自己防衛が第一なのに、こういった危機的な状況で最優先事項を選べないのはなぜだろう。よせばいいのに、私はとっさに地面に落ちたリボンを拾おうとした。


ミアの父親がくれたリボン、それを恥ずかしそうに、それでも嬉しそうにしていたミアの表情を私は知っていたから。私はなんとかリボンを掴んだ。


「ミア!逃げろ!!!」


この咄嗟の行動が間違いだったと気が付いたのは、ノーランの悲鳴に似た叫び声だった。

ノーランが私を庇うように抱きかかえた。

それと同時に私の左腕からは血が噴き出る。


「ノーラン!」


「俺は大丈夫だから、早く逃げよう。」


一瞬、私に気を取られたノーランは次の攻撃に気が付くのがワンテンポ遅れた。

私は地面に半ば寝そべるような形で、ノーランと向き合っていた。ノーランは背を向いていた。私は次の攻撃が見えた。


「……だめ!!!」


私はノーランが攻撃に当たらない方向に突き飛ばした。

そして、その攻撃は私の胸元を貫いた。



「ミア、ミア……目を覚ましてくれ。こんなはずじゃ……」


攻撃の衝撃で少しの間、意識を失っていたようだ。

攻撃はなぜか止んだようで、涙でぐちゃぐちゃになったノーランが私を抱きかかえ、私の名前を呼び続け、必死に治癒能力を使って治そうとしていた。

おかげで、貫通したと思っていた胸元に穴は開いていなさそうだった。


「ノーラン……」


私の掠れた声にはっとしたノーランは、ミアとまた名前を呼ぶ。

いつもポーカーフェイスなノーランはどこへやら、年相応の幼さの残る少年がそこにはいた。


「ここ、どこ……?」


「マリシャス洞窟から少し離れたところだ。攻撃は止んだ。今、治しているから。」


胸元だけではなく、ノーランは左腕の傷や髪と一緒に切れた頬も治そうとしているらしい。

とりあえず、ノーランとミアが死なずにマリシャス洞窟から逃げられてよかった……


そう思った瞬間、誰かが悪意のある笑みを浮かべた気がした。


最初はチリっと左腕が火傷のように痛んだ。


「……なんで……」


少ししてから真っ青な顔をしたノーランが私の左腕を凝視した。

全身が怠く、動くことがままならない私はなんとか視線だけ自分の左腕に向けた。

先ほど受けた攻撃とは違う、黒ずんだような跡が傷口だけではなく、左腕全体に広がろうとしていた。


私達は直感的にこの現象が何かわかった。

治癒能力が破滅能力に変わったのだと。


「なんで、なんで、今なんだよ!」


ノーランは癇癪を起したように、叫ぶ。

ノーランは能力を止めようとしたが、止められないのか、左腕の黒ずみはどんどん広がっていく。きっと、能力が暴走しているのだろう。


そんなことを考えていると、全身の怠さがどんどん悪化し、自身が鉛のように重くなるように感じた。単純に左腕だけではなく、ミアの身体全体にノーランの破滅能力の影響を受けてしまっているようだった。


「いやだ、いやだ!ミア、どうしたらいいんだ!!」


ノーランは自身を落ち着けようと深呼吸をしてみたりと冷静に能力をコントロールしようとするが、破滅能力は収まる気配がなかった。


……こんな状態ははじめてだけれど、天体観測は無理かもしれない。


私はそう思った。それだけではない、認めたくないが、この身体は死にどんどん近づいている。

ミアの願いは叶えることができなかった。

そして、目の前にいる大好きな人を泣かせてしまうような事態を作ってしまった。


私は最期の力を振り絞って、ノーランの頬に触れる。

涙ですっかり濡れて、冷たくなった頬。


「ノーラン……」


「ミア、大丈夫だから。俺がなんとかするから……」


ノーラン、あなたはまだ十二歳の子供なのよね。いつも大人びているから、ついつい忘れてしまう。そして、今も私を安心させようと頭を必死に動かしている。


「ごめんなさい……ノーラン、あなたとこうして一緒に会えて嬉しかった。」


イーノクもハンクもパメラもオーウェンも……そしてミアも。


「アタシ……幸せにしたかった。これだけは本当なの。」


この人生であった人々はゲームでは、死んだり、良い暮らしができなかったり、辛い思いをたくさんしてきた人々たちばかりだった。だから、この世界では、幸せにする手伝いをしたかった。


いつか、もし、また、あなたに会えたなら。


今度こそ、あなたを幸せにしたい。


天体観測をみんなでする夢も叶えてあげたい。


ミアの願いも叶えてあげたい。


みんなには幸せになってほしい。


あなたたちはたくさんの辛い想いをしたと思うから……


「もし……また、生まれ変わることができたなら……ノーランに、会いたいな……」


私は、そう言って、意識を手放した。顔に降り注ぐ、まるで雨のような冷たい雫を感じながら。


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