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プロローグ

毎日更新していきます。最後までお付き合いいただけますと幸いです。よろしくお願いいたします!

現実世界ではあり得ない髪色、剣や銃が当たり前のように所持している人々、そして魔法……どうやら、私はゲームの世界に来てしまったようだ。


『剣と魔法のサバイバルクエスト』

略して、剣サバ。

それは、かつての私が大好きだったゲーム。


娯楽は堕落した人間が行うことという考えを持つ両親のもとで、厳しく育てられた私。

大学に入って、一人暮らしを始めて、私は“とあるゲーム”にハマった。


特に剣サバの悪役には、就職活動に難航していた自分と重ねてしまったほどだ。


最初は勇者のようになりたいと願っていたが、あまりに自分の人生が上手くいかず、気が付けば主人公の勇者よりも悪役に共感するようになっていた。


ゲームクリアはもちろん魔王が倒されることなので、魔王も生きつつ、ゲームクリアできないか、何度か試したものだ。

当然、そんなことはできるはずがないのだが。

だから、何度も見た景色を間違えるはずがない。ここは、剣サバの村だ!


いわゆる、トリップというやつかもしれない。

夢でも見ているのかもしれない。

それでも良い。

この世界だったら推しを、魔王を助けられるかもしれない!


そう思った私は村を探索することにした。

店を見る限り、ここはゲーム開始時よりも十七年ほど前だ。


そして、服屋の姿見で見た自分の姿は、七十代くらいの老婆だった。

ゲームでは見たことがない、おそらくモブキャラなのだろう。


でも、老婆の身体になった割に、この身体で過ごしたという七十年間生きた記憶がない……これは、最近ネット小説で話題の転生ではないのだろうか?


結局、魔王を見つける手がかりもなく、私は近くの喫茶店を見つけ、休むことにした。

お金を持っているか不安だったが、幸い、お財布を持っていた。

私は、コーヒーを頼んで、テラス席でコーヒーを待つことにした。


……どうやって帰ろう。

家も分からない。私は今誰なのだろう?


ふと、音がする方を見ると、馬車から老夫婦と三人の子供が降りてきた。


私は思わず立ち上がった。

あれは、間違いない。スチルで何度も見た幼少期の魔王だ。


私は何かに導かれるように馬車の方へ向かおうとした。

すると、誰かの叫び声が聞こえて、衝撃が走った。


そして、すぐに、何かが割れたような音。

頭には、生温かい液体が伝う感触。


……何が起こったのだろう。

この短い時間に起きたことは私の理解の範疇をはるかに超えている。

そんなことを思いながら、私は痛みとともに、目を瞑った。



私は意識を手放した時、まるで走馬灯のように、かつて私が愛したキャラクター、魔王のシナリオを思い出していた。


かつて、村で『神の子』として崇められていた少年の末路……


世界中でも珍しいとされる治癒能力を持った少年は『神の子』として、村の大人に言われるがまま、能力を使った。


村の同世代の子達からは忌み嫌われ、村の大人達からは、異様な扱いを受けた。


少年の家には、様々な献上品が与えられた。


まるで、村の言いなりになる代わりに、良い待遇を与えると言わんばかりの扱い。


治癒能力があるとはいえ、一人の人間だ。


完璧ではないし、全員を平等に助けることはできない。


異常な待遇もあり、一部の村人達から反感を買い、ある日、祖父母、兄妹を殺されてしまう。


そして、少年はもう一つの能力を開花させる……破滅能力だ。

闇に飲まれた少年は破滅能力に身体を支配され、村を破滅に追いやる魔王となった。


魔王となったのも少年の意思ではない。

厄介者扱いをして、高台にある城に少年を追いやり、軟禁同様の扱いをしたのだ。


つい、自分の境遇と重ねてしまった。

親により厳しく管理された生活、就職氷河期で、企業に合わせて、自分を変える日々。


自分の将来のために、他人を蹴落とすようになった友人達。


こんな、二次元のゲームのキャラクターに自分の境遇を重ねて、カタルシスを感じるなんて……


私は一体、どうしたいのだろう。



「……なさい、ほら、起きなさい!いつまで寝ているの!」


しばらくの空白の時間を経て、私は女性の声で飛び起きた。


目を開くと目の前に女性が呆れた顔をして、私の顔を覗き込んでいた。


「ボケっとしてないで、いつまで寝ているのよ。学校でしょ、早く準備しなさい。」


未だ、状況が飲み込めない。

ここは……子供部屋?

ふと、姿見を見ると十歳前後の少年が困惑した表情を浮かべていた。


この姿も私の姿ではない……これは、一体どういうことなのだ?

混乱している私は女性……おそらくこの少年の母親にせっつかれ、とりあえず支度をした。


「お、お母さん。今日は何年何月何日?」


「あんた、まだ寝ぼけているの!今日は……」


そう母親が告げた日は、自分が老婆の時に確認した日より半年ほど過ぎていた。

老婆から少年に変わった記憶がない。

そして、この少年の十年程の生きた記憶もやはりなかった。


これは夢?

でも、老婆だった時の最後の記憶、あの時の痛みは夢とは思えないほどの痛みだった。


私は少年が通う学校の道も分からないまま、外に出され、あてもなく彷徨うように足を動かす。


少しでも人通りの多そうな道へと向かうと、ざわざわと喧騒が聞こえてきた。声の方に歩みを進めると、何人かの人が誰かを囲っているような状況に出くわした。


目を凝らして見てみると、噴水広場で小学生くらいの少女が怪我をし、大声で泣いており、同い歳くらいの少年がそれをあやしている状況が分かった。


お兄ちゃん、痛いよう、と少女がその少年に縋る。


そして、兄と思われしき、少年が怪我している部分に手を翳した。


これは……もしかして、魔王の最初の治癒能力を使うポイント!


「……っ、だめっ!」


魔王の破滅フラグの一手を阻止すべく、私は大声で、その場に向かおうとした。

しかし、先程の老婆の時と身体の感覚がまた異なり、私はすぐに躓き、その場に倒れてしまった。


すると、右側から馬の悲鳴が聞こえた。

そして、男の怒号。

目の前に馬車が近づき……



「……死んだんだ。」


次に目覚めた時、私はまた違う人になっていた。

二十代くらいの女性だ。


今度は分かった。

あれは、馬車に轢かれた。

老婆の時は……おそらく植木鉢か何かが落ちてきたのだろう。

私はこの短期間で二回も死んでしまったのだ。


魔王と関わったから、シナリオを変えようとしたから、ゲームに出てこないモブは消されてしまったのだろう。


「……慎重にやらないと。」


まだ夢は覚めない。


夢とはいえ、何度も身代わりのように人が死ぬのは嫌だ。


死ぬ感覚はリアルで、現実のものと変わらない。


今度は、魔王に直接関与しない形で、少年が魔王になるフラグを折ろう。


「おう、起きたか。コーヒーでも飲むか?」


「あ……う、うん。」


女性の部屋のドアを開け、顔を覗かせたのは、二十代くらいの男性だ。


顔も似ていないし、私に対する男性の扱いも兄妹というよりは、恋人か夫のように感じた。


うまく言えないが、甘い、愛おしい人を見るような目で私を見るのだ。


……老婆と少年はどうなったのだろうか。

あの二人にも家族や大切な人は居ただろうに。


少年の母親はどうしているのだろう。

あの二人は……


ふと、窓を見ると森に続く道が見えた。

このカップルはこんな物騒なところに住んでいるのか。


この村……ブリトルヴィレッジは村人が住むドゥーム地域と迷いの森と呼ばれるストレイ森、そして高台にある人が住んでいない廃城に大きく分かれている。


魔王という存在が生まれる前は、ストレイ森の中にあるマリシャス洞窟は呪いの洞窟とされ、ストレイ森ごと、村人は滅多に立ち寄らない場所だというのに。

賃金の安さを優先し、住み始めたのだろうか。


部屋にある写真立てを見る。

老婆も少年も女性もこの世界に居て、思い出を紡いでいた。

それなのに、私は彼女達のことを何も知らない。


「……ごめん、コーヒーは後で飲むわ。少し出かけてくる。」


私がそう言うと、男性はおう、と空返事を返す。特に変に思われず、私は安堵の息を漏らした。

まだ、昼だから少しなら大丈夫。


魔王の力が解放されてしまった呪いの洞窟。

呪詛が溜まっているというが、原因を知れば、何か魔王の役に立つことができるかも。


そんなことを考えていた。

心のどこかでその考えは甘く、危険であることを分かっていながら。



結論から言うと私はまた死んだ。

理由はわからない。洞窟に向かい、気がつけば、意識を失っていた。


そして、私はまた別の人間になった。

今度は私も知っている。


ミア……このゲームの脇役だ。


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