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7章~捲土重来~

捲土重来:けんどちょうらい

一度負けた者が、態勢を立て直して再び猛烈に攻め寄せること

「おじさん、大丈夫ですか?」


危機感を感じ、早めにトイレから出た私達だったが、サラリーマンは頭を抱えながら壁にもたれかかっていた。


「…やっぱりあの放送の言う通り、学校に喰われてしまうのか…。」


男性は独り言みたいにそんな事を呟く。

あの放送…?

ああ、あのスピーカーの少女か。

そういや、そんな事も言ってたな。

化け物から逃れるのに必死で忘れてたな、そんなの…。

こんな状況だから深くも考えなかったし…。

ん?待てよ、学校が人を喰うって言ってたか?

あれは確か、少女が…


「…ねぇ、どうするの?」


私の考えがまとまるのを待たずしてアリスが迷惑そうな顔をしながらおっさんを見る。

私は何も答えずに彼女には首を傾げて返した。

どうするもこうするも、このおっさん次第なんだが。

完全に怯んでしまってる。

この様子だとおっさんは人が死ぬの、初めてみたんだろうな…。

私は哀れむ目でおっさんを見ながら、


「おじさん、これからどうします?私達と一緒に来ます?」


と、声をかけるとおっさんは


「いや、私は行かない。まだ生徒会室に子供をかくまったままだ。私は残る。」


とうなだれたまま答えた。

そうか、やっぱりあの子供達は自分の意志じゃなくこのおっさんの決定に従っていたのか…。

それにしても残念だな。

せっかく男性に、しかもアリスと違って普通っぽい人に会えたのに。

まぁ、この様子じゃ頼もしく戦えるとは思えないし微力ながら私達も武器を手に入れてるんだ。

未練はさほど無いかな。

しかしおっさんの持ってる懐中電灯がちょっと羨ましいが、貸してもらえそうもないだろう。

私は軽くため息をつきながら返した。


「…わかりました。でも気を付けて下さい。化け物に喰われていた人も見ましたから。」


私の言葉を聞いてもおっさんは動く気配を見せなかった。

返事もしなかった。

…だいぶ精神的に負担がかかってるらしい。

そりゃそうだ、無理も無い。

得体の知れない暗闇の学校で、いつどこで襲ってくるかわからない化け物に囲まれれば精神的にもおかしくなるだろう。

私が妙に平常心を保っていられるのは、恐怖を見せないアリスに感化されてるおかげだ。


「つかさサン、行きましょう。」


事の成り行きを見ていたアリスが私を促す。

おや?

この子、やっと私の名を呼んでくれたな。

なんだか嬉しい気持ちを覚えながら私達は階段を降り、渡り廊下を渡り別棟校舎に向かう事にした。

アリスに


「図書館は調べなくていいの?」


と言われたが、


「どうせあのおっさんが調べつくしただろ。どっちみち大したもんは見つからんよ。」


と返した。

アリスはそうね、と返事をするのみ。

もう別のことを考えているみたいだった。

まぁ、殺虫剤の缶を振っているあたり早いとこ化け物を燃やす瞬間が見たいのかもしれない。

その瞳にはその時の光景でも浮かび上がっているのだろう。

…少なくともあのおっさんより頼もしい存在なのかもしれない。

彼女との間に流れる無言のひと時もだいぶ慣れてきた。

というか、発する言葉がいちいち不気味だから黙ってる方が安心できる。

階段を下る際も踊り場にある姿見の鏡を見て、


「決まった時間に合わせ鏡をしたら…ふふ、何が起きるのかしらね。」


などと意味深な笑みを浮かべながら私に話しかけてきた。

しらねーよ、黙ってろよと思いながらも口には出さず、ため息で返したが。

これさえなければなぁ……。

そうこうするウチに私達は一階へと降りてきた。

目の前には渡り廊下に続くガラスのドアが見える。

さっきは1人だったから渡ろうとは思わなかったが、アリスがいるなら話は別だ。

1人がこちら側のドアを開けておいて、もう1人があちら側のドアが開いているかどうか調べに行けばいいのだ。

これで追い出されるような格好になることだけは避けられる。

早速、アリスにガラス扉を開けて待っててもらう。

この子は素直に私の言うことに従ってくれるあたり、本当に付き合いやすい。

そんな事を思いながら渡り廊下の先の別棟校舎の扉に手をかける。

ドキドキしながら、扉を引いてみた。

…………。

お~…開いたよ~…。

ガラスの扉はあっさり開き、まるで私達を手招いているかのようだ。


「アリス!開いたよ、おいで!」


私が彼女にそう呼びかけるとアリスは小走りでこっちに向かってきた。

小走りなんてしちゃってまぁ…なんだかんだ言いながら怖がってんのかな。

くすりと笑みを浮かべたが、すぐにその考えは間違いだと思い知らされる。

彼女の後ろから何かがやってきていた。

…見覚えがある。

あぁ、なんてこった。

あのブリッジ女じゃないか!

ぎこちなく手足を動かしながら、アリスの後からついてくる。

あまり俊敏な動きではないがアリスは今にもつかまりそうだ。

あぁ、やっぱり工作室の扉が破られたのか!

自分の体から血の気が失せるのを感じた。

再びぶり返す恐怖。

あまりの衝撃にアリスを見捨てて扉を閉めたくなった。

どうする?

まだ間に合う、アリスを囮にすれば私は助かる。

いいじゃないか、あんな不気味な女。

友達でもなければ親戚でも無いだろ?

扉を握る手に力が入る。

どうする…どうする…。

目の前がぼやけ口の中が干上がる。

しかし次の瞬間


「つかさサン!」


アリスが私の名前を叫ぶのを聞いて我に返った。

いいや、駄目だ!!

あんな子でも見捨てるわけにいかないだろ!?

私は校舎から身を乗り出し、アリスの手を思い切り引いて校舎の中にひっぱりこむと急いで扉を閉めた。

が、ブリッジ女の腕がはさまり扉が閉まりきらない。


「くそ!この!!」


なんとか蹴り飛ばしたり踏みつけたりして引っ込めさせようとしたが、化け物は 諦める気配を見せない。

ぐぐっと腕に力を込め、扉をこじ開けようとする。

その顔の不気味な事といったら。

まるで楽しんでいるかのようにブリッジ女の表情はニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべ、唾液の糸を引く汚らしい牙を覗かせている。

私はこんな化け物に喰われるのか!?


「させるかぁ~…!」


私も必至で抵抗し、扉を閉めようとする。

ガタガタと音を立てる扉。

だめだ、ちくしょう!

体力が持たないし向こうのしぶとさはさっきも経験してる。

やられるのは時間の問題だ。

もうだめだ、力が…!

そう思ったときだった。


「つかさサン、どいて!」


アリスの怒鳴る声が聞こえた。

なんだと…?

彼女の方を見やると何か構えている。

それが何か把握できた時、私は手を離し急いで扉から離れた。

次の瞬間、アリスの手元から炎が吹き上がりブリッジ女の体を包み込んだ。

私が彼女に与えた殺虫剤を使った武器だった。


「ギャアアアァァァァァァァ!!」


悲鳴のような雄たけびの様な叫び声をあげた化け物は扉から離れ、体を焼く炎にのたうちまわった。

今だ!

アリスが放出する火炎が止むのを確認した私は急いでドアを閉め、錠を回した。

化け物の肉を焼く匂いが鼻をつき、私は思わず顔をしかめた。

化け物はまだ苦しんでいる。

あたりが炎で明るくなっているにも関わらず、周りの闇が払われる事が無いのがとても印象的で不気味だった。

あの闇といい、化け物といい、一体私達はどこにいるんだ…。

苦しむ化け物を見ながらぼんやりとそんな事を考えた。


「間一髪だったわね。いい気味だわ、あの女。」


アリスが笑みを浮かべながらブリッジ女を見てそう言った。


「そうだな……。」


自分にとっては特に、な…。

化け物もそうだが、なぜ、アリスを見捨てようなどと一瞬でも考えてしまったんだろう。

あの時の考えを実行していたらきっと後悔しただろう。


「ふふ、なかなかスリリングだったわね。」


こんなに素敵な子だっつーのに。

ニヤニヤと笑うアリスに私は苦笑しながら、そうだな、と返し壁にもたれかかって座り込んだ。

2人とも無事でよかった…。



最近、悪夢をみるようになりました。

芋虫に喰われる夢とか、戦争にあう夢とか。

この小説の影響であることは、まぁ思い過ごしではなかろうに。

それでも続ける。最後まで。

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