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1章〜難民〜

「うっ……。」


目を覚まして体を起こし、目をこする。

今までのは何もかも夢でした。

などとは思わせてくれないようだ。

しかし私がいたのは、意識を失う直前にいた教室ではなかった。

目の前に上に向かう階段があり、左手には長く続く廊下。

…突き当たりは見えない。

右手は行き止まり。

真っ白な壁だ。

他には誰もいない。

皆とは離ればなれになってしまったのか。

どうやってここまで移動したんだろう…。

誰かに運ばれたんじゃないだろう。

どうせならあの少女の元まで運ぶだろう。

まぁ、どうでもいい。

状況はちっとも良くなっちゃいない。


「ちくしょう…。」


思わず、ボソリと呟いていた。

私は座り込んだまま、しばらく自分の事を思い出していた。

私の名は相模さがみつかさ。

21歳、女性。

会社員で、恐らく会社帰りの途中だったはず。

うん、記憶は消されちゃいないようだな。

怪我もして無いみたいだしひとまず身体は大丈夫そうだ…。

しかし、なんでこんな事に…?

私の脳内にあのスピーカーの声が思い起こされる。

少女はあの教室にいた人達に対して、『生け贄』と言っていた。

生け贄って、あの少女の?

それとも、この学校の?

しかも食べるために閉じ込めたとも言っていた。

冗談じゃない!

私には帰る場所があるんだ。

絶対、生きて出てやるぞ!

私は立ち上がり、周りを見渡した。

上りの階段しかないなら、恐らくここは一階だ。

どうする?

とりあえず上にあがるか?

先の見えない廊下っつーのはなんか恐いな…。

しかし、あの少女を見つけなきゃならんのだろうし…。

とりあえず手当たり次第に調べるしかないだろう。

私は廊下を進み始めた。

右手には扉の閉まっている何かの教室。

左手には窓があるが、鍵も無ければ取っ手もなく開きそうにない。

窓から見える風景は…塗り潰したような暗黒の世界。

異空間。

そんな言葉が頭をよぎった。

どこの場所にも存在しない空間の中にいるんだ、と思った。

私は普段から口調も性格も男性みたいで肝も据わっているほうだが、こんな私でもやっぱり暗闇の学校は怖い。

得体の知れない場所にある学校とあらば尚更だ。

早く…誰かと合流したい。

心細い思いを抱えながら、廊下を歩く。

多分、あの教室にいた人達は私のようにこの学校のどこかに飛ばされているはずだ。

私だけ校内に残すというのも変な話だしな。

ちゃんと調べて行けば、そのうち誰かと会えるだろう。

私は近くの教室のドアを少し開け、中を覗きこんだ。

自然と音はたてないようにしていた。

中も暗く、状況は察しにくいが、細長い木製の机が並んでいるのがわかる。

図画工作とかそういうのをやる教室か。

木が削られた時のような匂いが鼻孔をかすめた。

キョロキョロと目だけを動かす。

…何も変わったものは見えない…。

しかし教室の奥の方から何か物音がするのに気が付いた。

ピタ、ピタ、と裸足で歩くような…そんな音。

人間か…?

でもなんで裸足?

私はもっと見えるようにドアを、もう少し広く開いた。

視界が広くなった事で、目に映るものが増え物音の正体もわかった。

それゆえ思わず悲鳴を上げそうになったが、ぐっと歯を食いしばる事でこらえる事が出来た。

な、なんだあれは…?

そこにいたのは、ブリッジをしたような体勢で歩き回る女性の姿だった。

人間の姿をしているが人間じゃない。

ボサボサの黒髪を振り乱しているあたり、年寄りじゃないだろうが、そんな事はどうでもいい。

目は白目を剥いていて、明らかに尋常じゃないのは確かだ。

もちろん、話なんか通じそうにも無い。

それは何かを捜し回るようにブリッジをしたまま、ペタペタと移動している。

見つかったらまずい…!

直感でそう感じた私は慌てながらも、ゆっくりと音を立てないよう慎重にドアを閉めようとした。

教室ならではのレールを添うスライド式の木製ドアは何事も無くすんなり閉まろうとしていた。

なのに信じられない事が起きた。

パキッ!

私の右肘の関節が渇いた音を響かせた。

同時にそのブリッジ女がピクッと反応し、こちらに向いた。

し、信じられない!

こんな時に自分の関節が鳴るなんて!

最近の映画だってこんな間抜けなアクシデントなんて起きやしないぞ!

自分の身体に苛立ちながら急いでドアを閉めた。

早く早く、鍵、鍵…!

私は手を伸ばし鍵を閉めようとした。

木製のドアの端に穴が開いており、そこに真鍮製の棒を突っ込んでネジのように回して閉める簡単な仕組みの鍵だ。

左手でドアを押さえながら右手で鍵を突っ込んで回していく。

ガシャァン!

ブリッジ女がドアに激しくぶつかりドアが揺れる。

あまりの唐突さにビクッと体を強ばらせた。

ちくしょう、早くしなきゃ殺される…!

中の奴がドアをガシャガシャと揺らし、こじ開けようとしている。

右手で閉めていた鍵にその力が加わり、鍵がうまく回せない。


「い、いやだ〜…っ!」


呻くように漏らしながら、左手にグッと力を加え右手の鍵にかかる負担を軽くし、じっくりと鍵を回していく。

くるくると回った鍵は、やがてきゅっと閉まり扉の開放を拒んだ。


「よし!」


鍵が閉まったのを確認すると、ガタガタと激しく揺れるドアから離れた。

諦めてくれ…!

祈るような気持ちでドアを見つめた。

私の心臓はばくばくと激しく胸を叩き、肌にはじわりと汗も滲んだ。

中でドアをこじ開けようとしていたブリッジ女は、やがて諦めたのか、それとも疲れただけなのか、ドアを揺らすのをピタリとやめた。

そして何も聞こえなくなった。

耳が痛くなるほどの静寂。

これはこれで怖いが…とりあえず助かったらしい。

私はへなへなと力尽きたように、その場に尻をついた。

な…なんだったんだ、今のは……。

幽霊?化け物?

判断はつかないが、あんなのがこの校内に潜んでいるのか?

じょ…冗談だろ…。

あんな化け物相手にしてたらいつか殺されるぞ…。

しかし、この空間にいつまでも閉じ込められるのも願い下げだな。

私は荒くなった呼吸を落ち着かせると立ち上がり、勇気を奮い立たせて隣の教室へと歩みを進めた。

教室には『被服室』という札がかかっていた。

先程の化け物が目に浮かび、身震いしたが無視するわけにもいかない。

私は丸腰なんだ。

ジーンズのズボンのポケットには財布と仕事で使っているメモ帳とボールペンしか入ってない。

少なくとも武器になるものを手に入れたいところだ。

そうなれば隣の教室はハンマーやノコギリが置いてあっただろうし、武器にもなっただろうが、あんなのがうろついているんじゃ入手は困難だろう。

被服室か…。

武器になりそうなものなんて置いて無さそうだが…まぁ、何か得られるかもしれない。

私は再び、慎重にドアを開けた。

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