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9章〜獲物〜

私達の様子を見て男子高生2人も近くへ寄り、様子を見に来た。

やがて廊下の奥から歩いてくる人体模型の化け物を目に留めると、その顔はみるみる恐怖に強ばっていく。


「うわああぁぁ!アイツじゃねぇか!」


黒髪の男子高生が悲痛に叫ぶ。

おやおや、お知り合いでしたか。


「マズいですって!逃げましょうよ!」


アルビノ君も私にそう呼び掛けるが、もちろん応じるつもりは無い。

確かにアイツは姿が人間に近い分、マズそうな相手だ。

勝てないような気さえする。

かと言って逃げ切れるとも思えない。

ここは一人が犠牲になって被害を少なくした方がいいだろう。


「アリス、キミだけでも逃げた方がいいかもしれない。」


視線を外さないようにしながらアリスにそう話し掛けたが、彼女は鼻で笑った。


「何言ってるのよ。この学校に逃げ場なんてないわ。」


最もだ。

どこに逃げようが化け物の巣窟なんだからな。

それでも男子高生はなおも私達に呼び掛ける。


「ぜってー殺されるって!もう何人かアイツにヤられるのを見たんだって!!」


黒髪君は今にも泣きそうな声で叫ぶ。

それを聞いて、なるほどと思った。

という事は、一緒に行動してた人がいたんだな。

彼らが目の前で殺されたなら相当ショックだったろうな…。

可哀想に…。


「だったらキミらだけでも逃げろ。ここは私と彼女で持ちこたえる。キミらはその間にそこの階段を使って逃げるんだ。」


私が怯えきった彼らにそう言うと、すぐに黒髪の男子高生が階段へ駆け寄った。

化け物はまだ離れた所にいる。

不気味なほどゆっくりと近付いてくる。

今のうちに早く…早く逃げるんだ…。

私は化け物を見据みすえながら男子高生達の無事を祈っていた。

ところが、だ。


「だったら俺も残りますよ。」


なんとアルビノ君がビニール傘を剣のように構えて、私の隣に立った。

意外だ。

絶対逃げると思った。

現に彼は微かに震えている。

彼だって怖いはずなんだ。

でも、共に戦う事を選んでくれた。

こんなに心強い事は無い。


「ハル!お前、何やってんだよ!!殺されっぞ!!」


黒髪君の怒鳴り声がハルと呼ばれたアルビノ君に浴びせられる。

しかし彼は動じようとはしない。


「んな事言ったってよ!どっちみち逃げ切れやしねぇんだよ!怖ぇーならセージだけでも逃げろよ!」


ハル君も声を張り上げる。

あっちの黒髪はセージっつーのか。

チラリとセージ君を見ると明らかに迷っている様子だった。

1人じゃ怖いんだろう。

当たり前だ。

逃げてる途中で他の化け物に遭わないとも限らないからな。

そうこうしているうちに人体模型野郎はだいぶ近くまで来た。

薄暗い闇の中、奴はニタニタと気味の悪い笑みを浮かべている。

ちくしょう、余裕かましやがって!


「この化け物が!気持ち悪いんだよ!!」


見るに耐えられなくなった私はライターを点火し殺虫剤のノズルを握り、勢いよく火炎を放出させた。

そこにアリスの火炎も加わって炎は大きくなった。


「グアァァァッ!!」


人体模型の低い雄叫びが廊下に響く。

やったか?

しかし奴は咄嗟とっさに後ろに飛び退いたらしく、身体も燃えていない。

奴は身を屈めてこちらの様子を伺っていた。

私とアリスは一旦、手を止め相手の出方を待つ事にする。

唯一の武器である殺虫剤を無駄に使わない為だ。

しかし次の瞬間、化け物はそれを待っていましたと言わんばかりに、素早く天井に飛び移りこちらに向かってきたのだ。

な、嘘だろ!?

予想だに出来なかった展開に私の体はすぐに反応出来ず、


「うわぁぁっ!」


飛び掛かってきた人体模型を避ける事も出来なかった。

人体模型は私の首を片手で締め付け持ち上げた。


私の足が廊下から離れる。

手からは殺虫剤の缶とライターがこぼれ落ちた。


「ぐぅっ…!」


ちくしょう!苦しい!

バタバタと抵抗するが、まるで逃れられそうもない。

すごい力だ!

狭い視界の中で、化け物の腕を引っ張ろうとするアリスの姿や、やめろ!と叫びながら傘で化け物に攻撃するハル君の姿が映ったが、化け物はいとも簡単に振り払っていた。

化け物は臭い吐息を私に吐きかけながら、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。

ヤバイ、今度こそダメっぽい…。

目が霞んできやがった。

血液がうまく流れないせいか、目に涙が滲む。

口の中に溜まってのみこめない唾液がだらしなく口の端から流れる。

息が…続かない。

嫌だ、死にたくない!

薄れゆく意識の中で、私は必死で助かる手段を考えた。

何か…何か無いか…。

あれこれ考え尽くして、私はやっと自分のポケットに入っている物に気付いた。

これだ!

私はそれを手に取ると残された力を振り絞って、化け物の目に突き刺した。

そう、ボールペンだ。


「ギャアアアアァァッ!」


人体模型の化け物が苦痛に顔を歪める。

私は素早くボールペンを引き抜くと、もう片方の目にも突き立てた。

ブシュッと目から出た液体が私の手を濡らす。

途端に化け物は私を締め上げていた手を離し床にうずくま


「ギャアァァ!!グゥァアア!!」


と目を抑えながら悶絶し始めた。

化け物の手から逃れ、床にしりもちをついた私は久し振りの呼吸に咳き込みながらも、手についた液体をジーパンで乱暴に拭った。

気持ち悪い!

しかし、間一髪だった!

私が化け物から離れたのを見て、再びハル君が傘で化け物に襲い掛かった。


「死ね!くたばれ!!」


ハル君はうずくまる化け物の背中に何度も傘の先端を突き刺している。

何度も、何度も。

その度に、ブシュブシュと音を立てて血が飛び散る。

化け物も、その都度にギャアギャアと呻いていた。

もう十分と思われる頃、今度はアリスが、ハル君を下がらせ化け物の傍に寄り、口を開いた。

手には殺虫剤とライター。

…おいおい、まさか…。

その、まさかだった。


「闇の中で踊りなさい。」


彼女は静かにそう言うと至近距離で火炎を放射した。

すると化け物は真っ赤な炎をまとい悲痛な叫び声をあげたかと思うと、ゴロゴロとのたうち回り始めた。

…なんて光景だろう。

悲鳴をあげながら苦しみ藻掻もがく化け物を見て、アリスは高笑いをあげながら化け物を焼き払っていく。

肉がこげる匂いが鼻をつき、私は顔をしかめて手で鼻を抑えた。

…アリスは敵に回したら怖い子だと思う。

私は彼女を止めはせず、好きなようにさせておいた。


やがて、化け物は力尽き動かなくなった。

もうその体は真っ黒に焼け、ボロボロと剥がれ落ちる箇所がある程だ。

先ほどとは違って酷い有様だな。


「…大丈夫ですか?」


ハル君が静かに私に問いかけ、手を差し伸べてくれた。

私はその手をとりながら立ち上がり、


「ああ、ありがとう。平気だよ。」


と彼に微笑んでみせた。

するとハル君も安心したように良かった、と笑みをこぼした。

そういや、セージ君はどうしたんだ?

チラリと彼がいたはずの階段に目をやるが、どこにもいない。

…逃げたみたいだな。

良かった、と思った。

別に逃げた事を薄情だとも思わなかったし、むしろ無事に逃げきって欲しいと思った。


「つかさサン、体は大丈夫かしら?」


化け物の息の根が止まったのを確認したアリスが、私に歩み寄る。

へぇ、アリスみたいな子でも人の心配してくれんだな。

ちょっと嬉しいや。


「首にあざが残ってるわよ。」


そう言いながら手を伸ばしたアリスが私の首をなぞる。

うーん。

心配してくれんのはありがたいが、これはちょっとゾッとするな。

私は彼女の手をゆっくり引き離しながら、


「平気だって。」


と笑いかけた。

彼女なりの配慮なのかもしれない。

私の言葉を聞いたアリスは笑みをたたえながら、そう、と呟いた。

さて、と…。

これから、どうするかな…。

私はハル君に声をかけた。


「ハル君、だっけ?」


ハル君はビックリしたように私を見た。


「あ、はい。俺の名前、ハルキって言うんですよ。君とかつけなくて全然構わないですから。」


「そっか、女みたいな名前だと思ったけどハルキって名前だったのか。私はつかさだ。そっちがアリス。」


私は顎で差しながらアリスも紹介してやった。

ハルキはども、と言いながら会釈している。

アリスは妖しく笑うだけだ。

私は構わず続けた。


「それで、ハルキ。キミとセージ君は私達と会う前は何をしようとしてたの?」


そう訊ねると、ハルキは思い出すように目線を天井に移して泳がせた後、はっと閃いたような表情へと変わった。


「ああそうだ俺達、職員室に向かう所だったんです。職員室に行けば、なんかわかるかもと思って。」


なるほど職員室か。

確かに色々と得られるものがあるかもしれない。

アリスも殺虫剤を使い果たしたみたいだし、職員室なら殺虫剤の備品も手に入るだろう。


「よし、職員室に行こう。」


私達3人は化け物の焼死体を尻目に、職員室へと向かった。

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