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やりすぎて失われた技能を習得した

 穏やかな秋晴れの風が、王城の中を涼しく抜けていく。

 農作物の収穫が終わるまでが、平穏な時間だ。

 冬になると、分裂した各国が、互いに戦争を仕掛けはじめる。


 そんな季節の東方国セイヨンの王城から、白煙があがった。



「ゲホゲホッ…ううっ何故爆発なんてするのですか?!」

「すまん。化学物質的な付与をしようとしたからだな。中途半端な知識は危険だった」

「……? ソーマ殿下は、異世界からやって来たんでしょうか」

「ばれたか」

「天才と何とかは紙一重、という言葉がピッタリのようですね」

「それは素敵な褒め言葉だな!」


 ウツミ=デュエッタが城に来てから、あっというまに1ヶ月程の時間が流れていた。


 一般的な講義のあとに、セイヤが聖別の素材と付与内容を出して、ウツミと俺がやってみる。

 そんな楽しい時間を過ごした。


 結果。


「ともかくこの1ヶ月で、『伝説の魔剣』の効果を軽く凌ぐような品を生み出しているのは、確かです」

「そうだな。結構色々作れて面白かった」

「このような歴史的瞬間に巡り合わた私は幸せです。ですが、危険でもある。それは聡明な王太子殿が、よくお分かりでしょう」

「ん? ……たぶん?」


「……例えばこの技術が他国に渡って、セイヤ殿下の安全を脅かす可能性もあります」

「なっ……! そんなのは、絶対に駄目だ!」


 ウツミの言っていることが、やっとわかった。

 自分の作った道具で弟が危険になるなんて、絶対に、駄目だ。


 作っているのは、あくまで聖別した『道具』だ。

 最強の剣や堅牢な盾を突き詰めたとしても、戦乱や策略の中で敵の手に渡るような可能性が無いとはいえない。


「……効果を発揮する持ち主を限定することは?」

 じっと見守っていたセイヤの指摘に、ウツミは首を振る。

 「それにはモノが個人を判別する、という前提条件が必要です。道具は人を選べません」


 ―――個人固有の何かを鍵として認識させるための命令文を入れればどうだ?

 モノにとってわかりやすい個人情報。

 指紋とか静脈認証が登録できれば、いけそうな気がする。

 しかし特に武器は、素手で扱うとは限らない。

 それにその文章を感覚として書き込むには、結構手間取りそうだ。

 なのでその案は、一旦そのまま置いておこう。


「じゃあ人間はそのものに、聖別の魔法を付与することは?」

「おっ、それだ!」


 セイヤが結構良い事を言ったと思うのだが、ウツミの顔色がサッと曇った。


「……それは……」

「? 何かあるのか?」

「聖別ではなくて、呪術の扱いになります。文献も無く、継承者もいなくて、遥か昔に忘れ去られ、失われた技能です」



 なるほど。

 回復魔法や支援魔法は『人に魔法の効果をかける』ものだが

 『人に魔法効果を書き込む』のは、確かに呪いのようなものかも知れない。


「いい効果を付与できたら、それで良いんじゃないか」

「それはそうですが、呪術師はもう絶えていて……」


 この1か月、色々なものに聖別の付与魔法を書き込んでみた。

 その魔力を、すう、と自分自身に向けてみる。


『天と地の間において確定する 我が身に"物理防御"を―――』


 集中していた無属性の魔力が、ふわりと散る。

 まるで、書き込む対象が、みつからなかったような、感覚。



「ほら、ソーマ殿下がどんなに天才でも、流石に失われてた技能を再現は出来ないですよ。それに、呪術師が絶えたのは、その効果があまりに危険だから、と聞いたことがあります。別の方法を考えましょう」


「危険?」

「昔の呪術師は、剣を砂にも、城をただの水にも変えたとか。どこまで本当かは謎ですが」

「人に魔法を付与するだけではないということか…………う~ん、何か分かった気がするんだよな」

「え?」



 さっきと同じように、無属性の魔力を自分にむける。

 先日夢でみた前世の記憶では、死んだあとにもその場を見ていた感覚があった。

 つまりあれは、魂だけになった体感(?)のはず。

 この身体に宿るその魂の感覚を、魔法付与の書き込み対象にする。


『 ―――天と地と、生まれ星の間に確定する 

  我"ソーマ=シン=セイヨン"は 

  "真実の名を掌握する" 働きをもつもの

  これより後、すべての真名と霊魂をつかむ働きをなす 』


 つかんだ!

 無属性の魔力が、ゴッと身体に、収束する。


 ―――まずい。

 モノを聖別するよりもはるかに大量の魔力が必要―――




 「殿下!」「兄さん!」


 ふっと魔力の消費が楽になる。

 落ち着いて、付与魔法の文字を、魂の感覚に描き切る。





「殿下! 今どんな無茶をしたんですか?! 魔力の使いすぎです!」

「いきなり何してるんです! そんな勢いで魔力使い果たしたら死にますよ!」


 感覚が元に戻ると、ウツミとセイヤに両手を掴まれて、滅茶苦茶怒られていた。



「……ふたりとも、魔力を貸してくれたのか。ふふ、俺は愛されてるな」


「少しは反省してください! こんなことで倒れられたら、安心して王座をお任せできません!」


 本気で怒るセイヤに、ふわっとした青色の光が見える。

 "セイヤ=シン=セイヨン"

 彼が生まれたときから知っている名前だ。

 それが、その存在から滲むように、把握できる。


「わかったよ、悪かった。もう無茶はしないから」


 自分の魂は見えないから模様の確認はできないが、魔法の付与は成功しているようだ。

 流石に自分でも、これほど魔力を使うとは思っていなかった。



「それで、今、何を聖別したんですか? ……成功されたように見えましたが」


 怖い顔で迫ってくるウツミの存在には、濃い緑が滲んでいる。

 "ウツミ=デュエッタ=セイヨン"

 どうやら彼女にも、セイヨン王家の血が流れているらしい。


 王太子に対して遠慮なく手を掴んだり怒ったり……

 まるで、前世で従兄弟だった、フェイゼルのようだ。



「自分の魂に、"真名を掌握する"という聖別をしたんだ。"人の本質である魂"を模様を描く対象にすれば、いけそうな気がして。それがどうやら、アタリだったようだな」



「……まったく、殿下はどこまで天才なんですか……」

 ウツミは呆れたようにため息をついた。


「そもそも自分の魂の感覚を掴むなんて、普通ありえないですよ。しかもその聖別だと、他人の魂も掴めるようにしたんですね?」

「流石、よくわかったな」

「ちょっと、陛下が呪術師になったなんて、国家機密級のとんでもない事件です」

「ん? そういうことになるのか」


「もう……! これは本当に歴史的大事件なんですよっ! こんなにあっさり成功させてしまうなんて! おもしろ……嬉しくて泣いちゃいますから!!」


 少しずつ真っ赤になって興奮するウツミが、見ていて面白い。



「ウツミ、でもさっき、危険だから絶えた技能だって言ってたよね。今ので魔力量が死ぬほど大量に必要なのは分かったけど、危険っていうのは、そういうことかな?」


 セイヤの少し落ち着いた声に、ウツミもはっとする。

「確かに……それと、聖別を付与する対象が人の魂ということは、対象者は命を握られるのと同じです。人を触れずに殺すことも……」


「その通りだが、魔力消費で自分が先に倒れるだろうな」



 彼女は俺の顔をじっと顔を覗き込んで、そっと手を離した。


「……ともかく、今日の研究はおしまいです。実際、魔力消費量は激しかったのですから、もう今日は何もしないで、しっかりお休みください」

「ああ、そうするよ。今日は助かった」


 ぱっと部屋から出て行ってしまったウツミの後ろ姿が、何故か、気になる。



「兄さん……本当に大丈夫?」

「セイヤに心配して貰えるなら、弱っておいた方がいいかな? ―――ごめん、冗談だよ」

 折角心配して声をかけてくれた弟が、たちまち怒った顔になってしまった。

 そんな顔も、可愛い。


 いや、それじゃ駄目というのは、わかってはいる。

 どんなに何度生まれ変わったとしても、俺の子供、というのは、生まれたことがない。

 だからこうして年少の弟妹に愛着を募らせてしまうのは、一種の、病気だ。



「僕はこの後、冬の出兵の為の認可処理があります。兄さんの分もやっておくので、ちゃんと休んでくださいよ」

「もうそんな季節か。そういうのはセイヤの方が得意だし、任せるよ。いつもありがとな」


 弟の綺麗な黒髪を撫でて、自室に足をむける。

 魔力の使い過ぎで休まなければいけないのは、事実だ。

 弟の前では平気そうに見せていたが、じわじわとダルさと目眩がやってきてきる。



 ―――まともに呪術を使いこなす為には、工夫が必要だ。




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