表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/43

第8話 疑似家族?




 声に出して伝えたら問い詰められそうな気もするので、心の中に秘めておく。しかし、同じ家に住むのなら何が起こるか分からない。ただの理想なんてすぐに崩れてしまうのだから。


 「歌代なら、逆に興味ありそうなイメージだったけどな」


 「そう?まぁ、陽気とかって言われるし、イメージだとそうかもね」


 「恋に興味ないって、それはそれで関わりやすくていい」


 「五百雀くんも興味ないの?」


 「いいや。興味あるよ。けど、歌代が興味ないって思ってるなら、気にすることもないかなって。そんなに意識することはないけど」


 男女、知らない人同士の家族のような生活。その上思春期であり、気にすることは多い。少しでも減ってくれるのなら、それに越したことはない。だからこれからも歌代のことを知って、気兼ねなく暮らせるように尽力はしたい。


 「ふーん。だったら私が急に抱きしめたりしたらどう?」


 「それはその瞬間に好きになる」


 「ほう。試していい?」


 対となる椅子から飛ぶように出ると、俺の隣へ走ってくる。


 「止めろ止めろ!抱きつかれるのは嬉しいけど、好きになったら生活しづらい」


 手で抑止し、一旦状況を整理する。時間の止まったかのような静寂は、夜に響く車の音とテレビでしか惑わせない。


 「いいじゃん!好かれてる気持ち味わいながら暮らしたいの!」


 「無理無理!楽しくないぞ?気を使うだろうし、面倒も増えるし」


 「だったら、そうならないよう抵抗する五百雀くんを見て楽しんで暮らすから、どの道抱きつくよ!」


 俺の言うことなんて聞かず、好き勝手追いかける。家の中だと、どれだけ長距離短距離に自信があっても、掴まれるのは時間の問題。必死に逃げ回り、俺はソファを隔てて会話を続ける。


 「落ち着けって!気まずくなるの嫌じゃないのか?」


 「全然!こうやって追いかけ回してる時点で、気まずい関係になることはないよ!」


 寿司の影響か、テンションが高いのは意味が分からない。家でもこんなに暴れまわるのなら、もしかして一人暮らししろって追い出されたんじゃないだろうか。そんなことが過る。


 しかし、確かに気まずい関係になるとは考えにくい。実際今、そんな雰囲気にはならないし、むしろこの状況を楽しんでいる。ここからどうやって雰囲気を悪くしろと言うのか。


 「一旦抱きつく考えはなくしてくれないか?」


 「なんで?せっかく同じ屋根の下、一緒に暮らすんだから、スキンシップは大切でしょ?」


 「スキンシップまではいらないだろ」


 「家族ならスキンシップありでしょ?」


 「いつから家族になったんだよ」


 「疑似家族!それならスキンシップとってもおかしくないよ」


 「めちゃくちゃ理論やめろよ」


 止まらない猛獣の猛攻。普通なら男が襲う立場なのに、逆転している。これが貞操観念逆転というやつか?よく分からないけど、それよりもこの状況がよく分からない。


 左から来ようとすれば右に、右から来ようとすれば左に逃げる俺。無限に続くそのやり取りで、なんとか説得を続ける。


 「取り敢えず、抱きついたら初ハグが俺になるんだぞ!」


 「別に良いよ。好きな人にハグした時は、好きな人って新しい区別出来るから」


 「区別するなよ」


 「良いでしょ?私と仲良くなって、疑似家族とか疑似恋人になれば、家中でもラブラブ出来るんだから」


 「確かにメリットしかない。けど、そうなったら俺が困る。恋愛興味ない人に恋するのは嫌だし、暮らしにくくなるのは避けたいんだよ」


 そう。これは歌代が俺を好きならば可能とする話。歌代が好きでないならば、俺は傷つくだろうし、傷つけ続けて罪悪感を感じるのは歌代だ。だからどちらともにメリットはあっても、デメリットは少なくて大きい。


 「んー、そっか。私が好きになればいいって事?」


 「……は?まさかそこまでするのか?」


 「でも、好きにならない可能性は低いよね。同じ家に住むんだし。それに五百雀くんは、顔も性格も良い。なら、ありかも」


 「……やめといた方がいいぞ。人の悪いとこは、一緒に暮らしてると嫌ってほど見る。だから、今からその決断はいけない」


 アルコールでも摂取したのか、初めて話すが、元からこんな暴れるような人ではないと知っている。血迷ったように求めてくるのに、何かしらの意味があるのかだろうか。全く答えに辿り着けない。


 「まぁ、恋愛には興味ないしね。好きになったらなったで、その時はその時かな?」


 逃さない目つきから、諦めたと、節電モードに切り替わるように落ち着く。一瞬の変化だからこそ、二重人格なのではないかと、俺の中で疑う。


 「はぁぁ。そうだな。好きになるのは時間の問題かもしれないけど、それまで楽しく普通の暮らしをしたい。スキンシップは何も感じなくなったら好きにしていいから」


 「その時は言ってね。そうしないと五百雀くんで遊べないから」


 「……遊ばれないよう善処する」


 ため息を溢して、ゆっくりとソファに座る。無駄に疲れた無意味な追いかけ。こんな気分は小学生以来だ。なんて思っていると。


 「隙ありぃ!!」


 「うわっ!」


 キッチンに近い方に座っていた俺に、キッチン側から倒れ込むように抱きついてくる。てっきり寿司を食べたあとを片付けるのかと思ったが、そんなことはなかったらしい。


 相変わらず雨とテレビは騒がしい。そして、体の上に乗る謎の美少女も騒がしい。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ