第7話 ごちそうさま
歌代も俺と同じで、そんなに食べないと聞いたので、頼んだのは2人前のお寿司。歌代の大好物らしく、届いた時の笑顔は愛おしかった。目を輝かせて、箸を握る今も可愛さ満点の美少女として不足なしだった。
「いただきます!」
テーブルに座って、テレビと雨音が微かにする空間で頬張る。パクっと効果音がなりそうなほど、小さな口を大きく開けて一口で食べると、瞼を下げて言う。
「うまぁ!!」
「はははっ。めちゃくちゃ美味しそうに食べるな」
笑ってしまうほど健気。心の底から出たその感想は、きっと食べられるお寿司も嬉しいだろうと、ニコニコして眺めていた。
「五百雀くんも食べて食べて」
「はいよ。いただきます」
目の前で、テレビで映る食レポよりも上手い食レポをされては、飯テロだった。空腹なのも相まって、よだれが過剰に分泌されてしまう。
サーモンを掴み、久しぶりで慣れない手付きで口に運んだ。
「美味しいな」
「でしょでしょでーしょでしょ」
歌代のように、全力で感想を言える性格じゃないし、似合わないからやらないが、確かにはしゃぐほどの味だった。
「歌代は寿司、よく食べるのか?」
「んー、お父さんお母さんが、ご飯面倒!って投げ出した時には、よく食べてたかな。最近食べたのは3週間前?くらい」
「なるほど。だからそんなに美味しそうに食べれるんだな」
「任せて。食レポなら私、誰にも負けないから」
「だろうな」
こんなに疑わなかった自慢はない。実際15秒前に感じた食レポの上手さ。いや、単に美味しそうに食べただけなので飯テロと言うのが正しいが、それでも食べたいと思ったのは間違いではない。
それにしても、未だに目の前でご飯を食べるのが歌代というのが信じられない。違和感というか、夢を見ているよう。何故か気にしないと言われて受け入れられ、すんなりとこの状況だが、普通なら嫌だと拒否されてもおかしくないはず。それほど面倒が嫌いで、お金に貪欲なのか、これから知っていけるのは大きい。
「このタイミングなのも変だけど、なんでこの時期に引っ越したんだ?」
話の内容をガラリと変えて、気になったことを問う。
「1人暮らしに憧れただけだよ。友だちとお泊りとか出来るし、好きにしても怒られないでしょ?だからいいなって」
「全部出来なくなったけど、いいのかよ」
「うん。初めて話す男子とドキドキな同棲体験って、結構面白そうだなって思ったから、全然問題ないよ。それに、お金が浮くのは、私の趣味に使えるからいいことなの」
「……問題しかないだろ。こっちは美少女と同じ家なんだぞ?落ち着けない」
「慣れるまで茶化して遊ぼうかな?」
「耐えられないからNGで」
勝手なイメージでは、どんなことでもグイグイ押して攻めそうな歌代。距離感もバグっていると、俺の理性が危ない。犯罪に手を染めないためにも、全力で対応するしかない。
「どうせ、時間が慣れさせてくれるよ。いつまでもはじめましての私たちじゃ居られないしね」
「だとしても、それまで自分のペースで行きたいけどな」
「遅かったら手を引っ張る」
「手加減してくれるなら大歓迎だ」
歌代の優しさには少し触れている。遠慮をする時としない時のタイミングが完璧だから、気を使うこともなくて助かる。自分のことは自分で出来る人らしいから、無駄な手間も省けてノンストレスでもある。
お寿司を目の前に、食べ進める速さは違えどもう残り1つ。満面の笑みで完食した歌代に続いて、俺もパクっと最後の1つを食べ終えた。
「美味しかったね」
「たまに食べるのと、疲れてシャワー浴びた後だと、結構美味しく感じるな。歌代の飯テロも相まって」
最重要なことだ。毎日歌代とご飯を食べれるのは、最高の調味料であるため、今後も重宝したい。苦手な野菜や果物も、歌代が食べてくれれば食べれるようになったりして。なんて、ありそうでないことを思っていた。
「明日から作るのかぁ。面倒だよね」
「早速、作ってもないのに出てるぞ」
「五百雀くんは嫌じゃないの?私は無理だよ」
「まぁ、デリバリーした後ならそう思うのも分かる。めちゃくちゃ面倒って思うし。でも現実は許してくれないんだよな」
半額の半額になったとはいえ、毎日デリバリーは食費がかかる。それは大きなダメージであり、何度も聞くように、お金は大切にしたいという歌代の願いを聞くなら、仕方なくも作るしかない。
「家政婦さん雇いたい」
「そんなお金はありません」
家政婦さんがどのような仕事か知らないが、身の回りの世話をしてくれるのなら、それは他力本願で怠惰を極めてしまいそうだ。人生、甘い蜜ばかり吸えないものだ。
「毎日夜ご飯だけ作りに来てくれる人雇いたい」
「それならギリギリ……でも現実的じゃないよな」
「めちゃくちゃクールなメイドさんを雇いたい」
「それは願望だろ。そういうのは有能なイケメン執事とかじゃないのか?」
「あぁ、私男には興味ないんだよね」
「えっ!……そういう人?」
「いや、そういうことじゃなくて、恋愛感情は男子に抱くけど、そんな興味ないってこと。まだクールでカッコいい女性の方が関わりやすいし、興味湧く」
聞いてなんだが、とても共感出来る内容だった。可愛い人ももちろん、近づいてこられたら好きになる。けど、タイプとして出すならば、俺もクールで落ち着いた女性がいい。
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