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第5話 淡々と決まる




 歌代がシャワーを上がったのは、それから10分後だった。お湯に浸かるわけでもないので、妥当な早さ。俺は欠伸をしながらも情けない声でおかえりと言い、今に至る。


 「さっぱり!いやー、雨で気分悪いのを吹き飛ばすのは気持ちいいね」


 まだ春の上旬と言える時期。それでも歌代は、半袖とショートパンツの見るからに寒そうなスタイルだった。エアコンで暖房冷房つけることはないため、雨に足元が濡れた俺はそこだけ少し寒かったり。


 「寒くないのか?」


 「今はまだね。多分後から寒いって思い始めると思うよ」


 「その時用の服は?」


 「もちろんある。忘れてたら、その時は借りてるベッドで、布団に丸くなる」


 「それはいい考え」


 もう部屋は聖域だ。俺が許可なく入ることを許されない絶対の部屋。欲に駆られて入ってみれば、飛んでくるのは拳だ。


 「うわぁー、五百雀くん。ドライヤーどこにあるかご存知?」


 タオルでカバーしているものの、乾かしてはいないようで、艶のある黒髪が俺の色々を危うくした。改めてこんな美少女と同じ家に住むのは抵抗しかない。理性総動員で対応しても危ういというのに。


 「ドライヤーは洗面所の下か、隣に掛けてると思う」


 「おっ、マジ?見逃してた。あんがとー」


 ササッと踵を返して洗面所へ。気さくだから、そんなに緊張することもない。話しやすいし、関係も柔らかい。嫌悪されてたり、遠ざけられることもなさそうなので、幸先好調である。


 少しして、「あったぁ」と俺の「おかえり」よりも情けない声で耳に響く歌代の声。明るくて絡みやすい、そんな印象を与える、鈴のような声音。


 ドライヤーの音が聞こえると安心する。静かな今を忘れて、同じ家に住む人がいることを理解出来る。一人暮らしを始めたかったのは、単なる俺の興味。だから実家を離れて、2年生からここへ引っ越した。


 そして、理由は今は分からないが、歌代も似たように引っ越した。そんな偶然で、更に同じマンションの一室を借りるとは、どんな確率だろうか。もしも訳あり引っ越しなら、少し気を使うが。そこらはいつか聞けるだろう。


 しばらくして、ドライヤーの音が途絶える。ショートカットの髪を靡かせる歌代はそう時間は必要ないのだろう。若干赤のショートカットヘアに、黒の双眸。整った容姿以外に、外見に特出したものはない。それでも魅力的なのは、やはり顔が全般を占めているからだろう。


 美少女……か。心配だな。


 「ほーい!2度目のただいま」


 「2度目のおかえり」


 「ノリ良いねぇ。次は五百雀くんがシャワーの番だよ」


 「それは、何も考えることなくなって浴びるから、まずは色々と決めよう」


 「ほうほう。家事とかだね?」


 「大正解」


 ノリに付いていくのは余裕。むしろ大好きだ。仲を深めるには、それが手っ取り早いし、気を使うか使わないかをその段階で判断出来るのも大きい。


 そもそも俺はおとなしいのが好きなだけ。苦手ではないので、平均的なコミュニケーションはとれる。口ごもることもないので、それは誰からも好かれる天真爛漫な歌代には相性が良いかもれない。自画自賛だが、間違いではないと思う。


 乾いた髪でも、肩に掛けたタオルは取らない。そのまま、先程座っていたソファへと腰を下ろす。2mの距離はあっても、ふわっと香るお風呂上がりの匂い。甘美だった。


 「よっと。家事っていっても、多くはないよね」


 「そうだな。洗濯は個人で分けてするとして、掃除とご飯がメインになるかな。いや、掃除は俺がリビング、歌代が自室でいいか。だとしたら、ご飯だけか?」


 「掃除だと、キッチンとか玄関、トイレとかあるからそこも決めないとね」


 「あぁ、そうだな」


 「ご飯は作れるもの少ないし、食べさせれるほどの腕前はないよ」


 「やっぱ食事面だよな」


 突き当たる壁は摩天楼だ。自信があったり、そういう系統の学科に進んでいる人なら、ご飯なんてイージーなのだろうが、残念ながらその道を歩く俺たちではなかった。


 「早速直面しちゃったね」


 「一応、俺も自分が食べるだけなら料理は出来るけど、歌代が美味しく感じるのはちょっとな」


 「私も。それぞれ自分のだけ作る?」


 「あぁ、その手があったか。でも、毎日作ってると、そのうち片方に頼みたくなる欲が出てくるぞ。面倒なの苦手っぽいし」


 「ご明察。だけど、1回やれるだけやってみない?」


 「チャレンジ精神高いな。そう言われたらやるしかない」


 鼓舞するのが得意だからこそ、取り敢えずやってみるという考えに辿り着く。面倒は嫌だけど、それでもやらないといけないことを知っているから、解決策が思い浮かぶまで挑戦する。結構好きな考えだ。


 「解決ー」


 「掃除はこまめにしとくから、自室の管理だけよろしく。って言いたいけど、自室でも怪しい感じ?」


 「いいや、多分大丈夫だよ」


 「その言葉信じる」


 1週間後荒れてる未来が見えなくもない。なんでも出来る人は、身の回りが汚かったりする。偏見だが、割と的を得ていると思う。だから部屋が汚いこともあり得る。いや、不思議と汚くする人でいてほしいと願っていた。


 「意外とあっさり決まったね」


 「これでゆっくりシャワーに行ける。次々片付くって楽だわ」


 「ねー。ゆっくり出来る時間あるのいいよね。シャワーいってら!」


 「はいよ」

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