第4話 部屋は不要
実は積まれたダンボールはほとんど歌代のだと、多分歌代は知らない。俺の荷物はダンボール3つで、その他の必要なものは父が先に適した場所へ配置している。
食器やタンス。テレビやソファの他に、テーブルやカーテンも。ほとんど俺も他力本願の怠惰マンだった。だから手伝うのは確定だ。
「ありがとう!よし!なんとか18時までには終わらせよう!」
現在14時半を過ぎたとこ。不器用な俺1人ならこの量、余裕で夜遅くまでかかる。これまで完璧を見せつけてくれた歌代だからこそ、ここでも力を発揮してくれると信じて、俺も歌代に続いて部屋へ入った。
――荷解きを終えたのはそれから4時間後。18時までには終わらなかったが、18時以内には終わった。ダンボールはまとめて、今はリビングの端に置いている。電気も水道も通り、普通に住むには不足なしの状態にまで整えれた。
テレビの位置を変更することもなく、食器はそれぞれ必要な分だけ用意し、タンスは未だにリビングにあった。歌代も面倒が嫌いなタイプだったので、運んだ時点でタンスの中に着るものはまとめていたらしい。正直助かった。
下着取り出すなんてあるあるをしなかったのは安心でも、やってみたかったとは思ってしまう。一緒に住むのを解消されそうな発言は控えるが。
そして俺たちは今、何よりも重大な問題に直面していた。
「ここって、1LDK。部屋が1つしかないから、それをどうするか決めないとじゃない?」
そう。ここに使える個人の部屋は1つしかなかったのだ。男女2人住むならば部屋が1つ足りない。忘れがちなことを思い出し、ゆっくりソファに座って、テレビもつけず、雨音が響く中で考えていた。
こうなった以上、俺の頭は自己犠牲を考え始める。部屋がなくて困るのは俺よりも歌代だ。それは思春期の女子として気にして、夜も寝れないほどのことだ。知らないけど。
「歌代が使ってくれ。俺はリビングで寝るし、コンセントがあるならどこでもいいから。見られて恥ずかしいものもないし」
「え?それは申し訳ないよ。日替わりで使うのは?」
「そしたら俺が歌代の私物を覗く。それでもいいなら日替わりで。嫌なら俺をリビングに追いやってくれ」
「ええ……確かにキモいけど、しないでしょ?」
「するぞ。五百雀くんならしないよ、なんて言っても、男である以上、女子の私物は常に舐め回したいって思ってるから。それに、見られたくないだろ?それを尊重したい優男だから、ここは部屋を使うことに頷いてくれ」
流石に舐め回したいは嘘だ。覗きたいとは思うが、触れたり探したりはしない。そもそも鍵がついている部屋なので、中には簡単に入れない。つまり、犯罪は犯しにくいということ。
「……無理矢理押されるのも嫌だけど、何言っても変わらないっぽいから、分かった。けど、何か不満あったら言ってね?」
「もちろん。歌代も、何かあれば聞くから、気楽に言ってくれ」
「うん。本当にありがとうね」
「どういたしー」
解決したが、歌代の心の中には引っかかりがあるだろう。だけど、俺はそれでも使えなかった。同じ部屋を使うのも嫌だし、俺が使うと毎日リビングで不満を抱いてないか確認してしまう。心配性なりに、デメリットが多かった。
良い方向に進んでくれたらいいんだけど。
取り敢えず解決したので、俺たちは2人横並びにソファに腰を掛けた。間に距離はあっても、それほど離れてはいない。欠伸をしそうなほど疲れた様子の歌代は天井を見ながら言う。
「先にシャワー浴びてもいいかな?制服シワになるから、選択して干すためにも」
「どうぞ。好きな時に好きなだけ」
「ありがとう」
春休みなのに制服。学校に忘れた課題を取りに行ったらしく、実家を出てからずっと荷物を持って移動していたらしい。そこで休憩中、たまたま俺と出会って今に至る。偶然が重なり続けた結果こうなるとは、奇跡もあるものだ。
もしあそこで会わなかったら、警察に通報されてたかもな。危ない危ない。
細くて長い、乳白色の足を露出させた歌代はソファを離れて、自分の部屋となった場所を1回覗いた。すると。
「あっ、ベッド!私忘れてたかも!」
「えぇ?ベッド?」
「うん。あれ、五百雀くんのだよね?ベッド見て思い出したよ。移動させるのも面倒だから、やっぱり部屋は大丈夫だよ」
「忘れたなら使えば良い。これソファベッドだし、大きさもちょうど良くて寝心地いいから、忘れてくれて良かったかもな」
実家から運んだこのソファ。何度もベッド代わりに使わせてもらったが、快眠出来てすぐれものだ。腰も首も痛くなることはなかったので、問題はない。
「えー。なんでも良い方向にもっていくじゃん」
「それだけ部屋を使ってほしいってことだな。遠慮するのも良くないぞ」
「んー……本当、何もかも頭上がらないよ。ありがとね」
「はいよ。風邪引く前に温まって、ゆっくりしてくれ」
「うん。行ってくる」
今日は何度感謝されても微笑みが生まれる。歌代の感謝は気持ちが籠もっていて、慣れそうになかった。それからまだ部屋の外のタンスから服を取り出す音だけを聞いて、俺はテレビをつけながらスマホを触った。
静かなのは好きでも、部屋の中で1人静かなのは苦手。だからスマホやパソコンを操作する時は、集中しないならいつもテレビと一緒だ。
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