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第41話 誕生日




 再びリビングに戻る。行ったり来たりを繰り返し、ついに俺にも休憩が出来る時間がやってきたのだが、早速隣に座る頭のネジが外れた美少女は、そんな俺の時間を奪う。


 「ねぇねぇ、噛ませろよー」


 「噛みたいならそれ相応の対価が必要だ」


 タオルを首に掛け、シャワーとはいえ温水を体に浴びたことが影響し、体温も上昇している今、喋ることでさえ面倒だと思ってしまう。


 「例えば?」


 「分からん。欲しい物もないし、してほしいこともないからな」


 「それだと永遠に噛めないではないか」


 「どんまーい」


 歌代の噛みたい場所は二の腕。つまり、半袖だとしても、服を僅かに退かさなければならない。強制的に噛もうとすれば、力尽くで逃げられることを知っているため、この前のようにはいかない。


 テレビはつけても見ないし、だから動画配信サービスをつけようとしても、リモコンは奪われる。仕方ないからと、スマホを触りながら体をソファの上に寝かせる。


 「ふぁぁ……眠っ」


 久しぶりの学校。そして騒がしい日常。体力的に疲れていないような1日を過ごしているが、思ったよりも体力は枯渇しているらしい。呼吸も正常で、血液も酸素も脳に送れているのに、欠伸は連発される。


 「ねぇねぇー」


 「眠っ」


 「ねぇねぇねぇーーー」


 頭を背もたれの頂点に載せ、脱力した体を軽く揺すり続ける歌代。少なくとも衝動に駆られてないのは分かっているため、今はまだ噛ませるのは先延ばしにしている。


 「我儘だとサンタさん来ないぞ。いいのか?」


 「どうせ来ないもん」


 「一応家には同棲してる男が居るけど?」


 「えっ!プレゼントしてくれるの?!」


 一喜一憂する姿は、それだけ歌代の性格を表していた。常に楽しみ、自分の気持ちに素直。だからサンタさんも信じてたんだろう。


 ちょっとしたとこは可愛いのにな……。


 「さぁな。良い子ならあげたいって思うかもしれないし、逆なら、迷惑なプレゼントをするかもしれない」


 「どっちでも面白そうではあるけど?」


 「そうか。そんな感性の持ち主だったな」


 きっと俺が何かいじわるをしても、それをいいことに変えてしまうほど、ポジティブで自分勝手。なのに、人には不快感を与えず、誰からも好かれてしまう。天賦の才だ。


 「その時はその時だな。多分、その頃には歌代に感謝してるだろうし、プレゼントするんじゃね?」


 「おぉー、期待してるよ」


 今のとこ、プレゼントするとしても500円くらいだな。


 それでも、誰かにプレゼントということはしたことがなかったので、それだけやってみたいと思えたことに、我ながら人間関係の成長を感じる。


 「って、それよりさ、いつになったら噛ませてもらえるのかな?」


 「忘れてると思ってたんだけどな……」


 人生は簡単に思い通りにならないらしい。


 「ほら、好きにしろ」


 「えぇー?もっと優しく言ってよ」


 「お好きにどうぞ」


 「ありがとうございます」


 俺たちの関係に、優しさなんて込めて言ったことはない。だから相手を気持ちよくさせるための言葉遣いなんて、気にしてすらいないのだから、答えを見つけられない。お気に召したようだが、歌代がアホなだけで助かったようなものだ。


 腕を掴まれることで、必然的にリモコンに届く手はなくなる。手に取って適当に映画か、アニメを垂れ流しにしようかと操作をする。その間、リモコンに意識が割かれていた俺は、噛まれてる感覚を忘れ、どれにするか迷っていた。


 「そういえば」


 ふと、操作しているとプレゼントのことが頭を過る。


 「歌代って誕生日いつ?」


 「ん?いふはほほほう?(いつだとおもう?)


 そうだ、と、噛まれてることを思い出す。


 「知らね。明日とか?」


 ガシッと噛む力が強まる。


 「ハズレか。んー、8月」


 更に強まる。


 「これ以上間違えると噛み跡残り続けるから、教えてくれ」


 まだ先だが、近々夏服への移行期間となる。動きが激しくなると、チラッとでも見えたりするので要注意。「分かった」と答え、二の腕を満足げな表情で噛み終える。


 「全部同じ数字だよ」


 「全部同じ数字?7月7日?」


 「4つ」


 「あぁ、11月11日か」


 「正解」


 親指を逆さまにして、やっと当てたことにご不満の様子。そんなの365通りある中で、3回で正解を当てる方が難しいというのに。


 「じゃ、俺の誕生日当ててくれ」


 「8月22日」


 「は?キモ」


 なんと大正解である。


 「うぇーい」


 「なんで知ってんの?」


 「五百雀のことが好きだから」


 「ホントは?」


 「陽奈と五百雀について話してたら、誕生日の話になったから、そこで」


 俺のことが好きだということを否定されたのは、少しだけ傷つくが、そんなことよりも誕生日を知られていたことへの驚きが勝っていた。


 「俺も人気者か」


 「否定はしない」


 冬羅と秋人、歌代と朝比奈、香月と星中、この6人と関われてる時点で、絶対におとなしい人とは言えない。これまで1年生の頃から関わってきたのだから、それを見てる人は確信しているはず。


 「それで?誕生日を聞いた理由は?」


 「気になっただけ。クリスマスプレゼントをするとして、それに近い日だったら、まとめて渡せるなって考えてた」


 吝嗇野郎のようなことを言うが、普通にプレゼントは分けて渡したいと思う。折角お近づきにもなれたのだから、それくらいは。


 「それでも嬉しいけどね。私は物欲もそんなにないし」

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