第37話 料理
ネットの情報であり、それを鵜呑みにすることが賢くないのは歌代だって分かってる。でも、このサンタクロースを信じてるか信じてないかの問題で、信じてる派閥は圧倒的に少ない。故に今の歌代フォローすることは、ネットですら無理であり、サンタクロースの存在は胡乱ではないことが証明されたも同然だった。
「……嘘ぉ……」
「信じたくない気持ちも分かるけど、こればかりはどうしようもないな。ホントのことだし」
「……なんか、知って損した気にもなるし、良かったって安心もするよ。これ以上恥をかかなくて済むのはね」
「だな。でも、もう俺の中では一生いじれることを知れたから、それに関してはデメリットなんじゃないか?」
「確かに。これまで優勢だったのに、一気に劣勢に押された気分」
学校行事終わりの、お風呂上がりのようなテンションだ。今にも足を崩して倒れそうな脱力感に、溶け始める表情。支えてあげないと立つことすらままならない姿は、相当なダメージを受けているのを伝えた。
「めちゃくちゃスッキリした。ほら、帰るぞ」
全く触れず、支えることすらしない俺は、スライムとなった歌代に早く来いと催促する。言うことを聞いて、立ち上がると「ぐわぁ」っと、意味不明な言葉をため息と共に吐き出す。
「良い子にしてると、サンタクロースも来るからな」
「うわぁぁぁぁ!!うるせぇー!」
「お前だよ」
車も然程通らず、人通りも少ない。しかしマンションは建ち並ぶため、声はそれなりに反響する。
「良いこと教えてくれたし、今回は俺が持つから、ゆっくり恥じらいながら帰ってくれ」
「……感謝なんてしないからね」
「求めてないからな」
拗ねてるわけではない様子。自分の中でも、この状況が楽しいようで、頬を膨らませながらもクスッと笑っている。
なんとない道を、なんとない日常のように歩く。既に緊張で意識することがなくなった今、俺には気にすることは1つとしてなかった。
家に着いたのは、それから5分後。のっっそり歩く歌代に合わせてると、気づけばそれなりに経過していた。
「ただいま」
「おかえり、ただいま」
「おかえり」
俺の挨拶に返して言って、俺が返すという謎。それすら、変だとも「何?」とも聞き返すことはない。2日に1度は清掃する廊下を歩き、リビングへと続く扉を開ける。
「うはぁー、疲れたね。荷物持ちありがと」
「いえいえ」
早速ソファに、と思ったが、買ったものを冷蔵庫などに入れる俺の側で、珍しく手伝ってくれている。
「明日雪降るのかもな」
「そんなこと言われると、お菓子だけ貰ってソファ行きたくなる」
「ははっ。それでも良いんだけどな」
いつもの、ありのままで居てくれて、その延長線で手伝ってくれてるのは分かっている。罪悪感が、とか、使命感が、とかじゃないことも。
「グラタンに使うのは入れないよ?」
「助かる。もう拗ねてないし、ササッと作って明日のために、苦あれば楽あり精神でな」
「いえす!」
人は皆、楽を求める。楽して苦を得るよりも、絶対に苦を先に得る方が、後々幸せだ。だから、俺たちも、面倒を先に終わらせる。
それから、慣れない手付きでも、俺と歌代は作業を続けた。お皿は割りそうになるし、オーブンの使い方に首を傾げるし、素手で出来上がったばかりのグラタンを取ろうとするし、歌代はホントは料理出来ないのでは?と、口に出したりした。
「てってれー!完成でーす!」
喜ぶ歌代は花柄刺繍のエプロン。そして恥ずかしながらも、小学生の頃から愛用している、ドラゴン?か何かの、男子小学生の感性で選びそうなエプロンを纏った俺。どちらも小麦粉が薄っすらついていた。
「グラタンにここまで苦戦するとは……」
「作れたんだし良いっしょ!美味しければその過程も楽しかったってことになるし!」
「まぁ、そうだな」
多分俺は、調理実習ではこんなに感情を表に出しはしないだろう。嬉々として幸せそうに作る姿に感化されて、終始騒がしくも笑顔の絶えない調理時間だった。
「食べようか」
片付けを考えると、それだけでグラタンのことは頭から離れてしまう。でも、今回はそれで良かった。なんだかんだ手伝ってくれた歌代だが、なんだかんだこれが初の2人揃っての料理でもある。そう思うと、別に片付けなんていつでも出来るし、なんて、明日やるを繰り返す怠惰マンのような思考になる。
テーブルに移動して、2人で向かい合って食事をする。初日出来たことは、1週間経過した今も余裕だ。この後襲われるのがオチなのだろうが。
座ると、「いただきます!」っと、空腹に抗えない歌代は、笑みを咲かせて食べ始める。「熱い熱い」と言えば水を出してないことに気づき、慌てて冷蔵庫に向かう。
落ち着きのない、けど幸せな家族のようで、案外疑似家族なんてのも、ありなのかもな、なんて思ったりする。
早いのに丁寧。汚いと微塵も思わせない所作は、きっと性格が関係しているのだろう。
「んん」
「ん?」
見て、というイントネーションで、俺の視線を求めたようだったので、スプーンを止めて見ると、既に食べ終えて空の容器がそこにあった。
「……まだ半分残ってるんだけど」
頬を膨らませ、ニンマリとリスになる相好。それほど空腹だったらしい。
「食べたなら洗って片付けて、先にゆっくりしてろ」
「ん」
コクッと頷いて、口の中のグラタンを全て嚥下し、「ごちそうさま!」と、キッチンへ駆けた。
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