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第36話 逆襲




 何を言っている?持ってきてなかった……つまり?


 「お前……まさか……」


 「うん。そのまさか。チョコパイはほとんど正解だと思ってたし、間違えても被害はゼロ。だったらお遊びしてやろうかってね。五百雀なら、わざわざ山積みの中確認しないと思ってたし、見事にハマってくれたってこと」


 「…………」


 駐車場を過ぎて、ちょうど歩道に入ろうとする所で、俺は膝を曲げて座り込んだ。頭を抱え、自分が勝負を始めた瞬間から手のひらの上で踊らされていたということに、情けなく下唇を噛んだ。


 「ふぅー!!勝負は勝ちって言ってくれたし、男に二言はないよね?お手玉くん!」


 まじかよ……。


 「性格悪っ」


 「敗者の嫉妬は見苦しいぞー」


 屈んで触れやすい位置にある俺の頭を、人差し指か中指のどちらかで突いてくる。幼い頃、木の枝で昆虫や蟻の巣を突くようで、その対象が俺とは、我ながら単純すぎて笑える。


 「はぁぁ、気分悪いから、もうさっさと帰ってゆっくりするわ」


 「グラタンは?」


 「悔しいから自分のは自分で作る。後でな」


 「えぇー、私と作るんじゃないの?今もうお腹ペコペコなんだけど」


 「今回は俺が拗ねさせてもらう。悔しくて夜も寝れないからな。だからグラタンは自分で作れ」


 「性格悪っ」


 「怠惰は見苦しいぞ」


 両手に提げたエコバッグも、現にとても重く感じる。顔に照りつける陽光も眩しく、もういっそ、清々しく振る舞ってやろうかと思い始めるくらいには、手のひらの上で遊ばれた。


 「今日もデリバリーかぁー」


 「食費、増えるぞ」


 いつまでも座ってられないので、徐々に暖かみを増す風と空気感に流されるように立ち上がる。


 「その時は五百雀のを盗んでなんとかする」


 「それ犯罪な」


 「お金じゃなくて、ご飯をだよ」


 「俺が餓死するわ。身の回りのことちゃんとしないと、後々大変なのは歌代だからな?いつまでも甘えてられないって前も言ったけど、専属じゃないんだし、そこは課題だな」


 「専属になる可能性は?」


 「ありません」


 嘘だ。可能性ならある。歌代がそれに見合うだけの働きを家でしてくれるのならば、食事を作ることを当たり前だと思わせてくれるのなら、俺は簡単に専属になる。


 たとえ付き合うことになろうとも、それは絶対に変わらない。


 「泣きそうだから、青春っぽさを出すために、よく漫画とかアニメである、泣きながら『なんでもない。今日はありがとう』って涙声で伝えてダッシュで帰っていい?」


 「泣きそうなのに、説明から全く涙声聞こえないのは不思議だけど、好きにしていいんじゃね?」


 青春についてもよく分からないし。


 「あ、あれ……なんでだろう……涙が……ごめん、今日はありがと。またね」


 役に入り込むと、涙なんて1つも出ないし、声のトーンも喋り方も全て無。これが本気なら、絶対に役者は向いてないと確信するほどに、下手だった。


 しかも言い残してダッシュする速さが尋常ではない。涙で前が見えないどころか、学年1位の実力を発揮して、点字ブロックを避けて歩道を走る。流石は50m6.8秒。


 「そんな本気ダッシュで帰る、振られた女子が居るかよ。むしろ振られて嬉しそうじゃないか」


 もう20mは離れた先、急に止まってこちらを見ると、手を振り始める。設定を忘れたのか、満面の笑みで。


 「1つくらい持つよ!」


 「いや!重くないから、そのまま楽しんで帰っていいぞ!すぐそこだし!」


 久しぶりに大声と部類される声を出すと、喉に違和感を感じる。引きこもりではなかったが、人と話す時に大声を出すなんて滅多にないので、咳払いは必須だ。


 「ホントに?」


 「そもそも、そんな離れたとこから声かけるってことは、最初から持つ気なかったってことだろ?」


 「そういうと、鋭いよね!」


 ホントなのかよ。


 持つ気はないという歌代。しかし、走って戻ってくる。きっと罪悪感に駆られたのだろう。それにしても、やはり速すぎる。息切れすらも起こさない、謎の体力。無尽蔵なのだろうか。


 「うぃー。バレたら逃げるのも申し訳ないから、1つくらいは持たないとね」


 「俺から持つって言ったんだし、そんな気を使わなくても良いんだけどな」


 「ううん。我儘言い続けると、いつか痛い目見るだろうし、いい子ちゃんにしてないと、サンタクロースも来ないでしょ?」


 「サンタクロースって……いつまで信じてるんだよ」


 「ん?信じてる?いやいや、サンタクロースは居るでしょ」


 左側に立ち、左手からササッとエコバッグを取る一方で、本気で、純粋な気持ちからくる麗しき瞳は――サンタクロースをマジで信じてる人の瞳だった。首を傾げ、「何言ってんの?」と、直球で聞かれているよう。


 「いや、居ないぞ?」


 「居るよ!だってクリスマスにプレゼント置いてあるもん!」


 心底可愛い。これは演技ではないのだと、勝手に解釈したけれど、絶対に間違いではないと思った。口端も上がらないし、見つめる目はつぶらで愛おしい。まるで幼子だ。


 「それは、歌代の両親がプレゼントしてるだけだぞ。現実教えて悪いけど、スマホで調べてみろ。自分の今がどれだけ恥ずかしいのか知れるぞ」


 言われて、2度3度頷くと、手を動かして高速で調べる。


 「――なっ!」


 「何々?」


 気づいて俺も覗く。そこには『サンタクロースの42%が父親』と書かれ、その下に母、祖父、祖母、兄弟と、確率が続いてており、最後にトドメの『高校卒業でサンタクロースを信じている割合0.1%未満』と。


 「あぁー、スカッとするわー」

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