第34話 お菓子
「乱暴云々、気になるなら後で罰は受ける。今はおとなしくしてもらうことが最優先だ」
「ドMちゃんだね」
「迷惑がかかるからな。別に今はドMでもいい。家に帰ったら手足縛って部屋の中に放り込むくらいはやりたいな」
「その後何するのぉ?」
「さぁ。その時のお楽しみで。抵抗しても止めないからな」
もちろん止めるし、それ以上は行きたいと思わない。けど、本気で言ったように目は偽りなき眼で伝えた。これで少しは冗談の言い過ぎに抑制効果があればいいのだが。
言われた歌代は「了解です!」と、冗談と捉えたか本気と捉えたか、曖昧な返事をした。
「それで、やっとだぞ。やっとマカロニ買えたんだけど」
手を伸ばして必要分買うと、ホッと長旅の疲れを吐き出すように溜息を溢した。溜まりに溜まって、爆発寸前だった気持ちも、今は落ち着いている。
「いぇーい。これで大まかな材料揃ったね」
「本当ならとっくに帰ってる頃なんだけどな。まだチーズとかの小物たちが残ってる」
「ならさっさと買って、帰って料理してだらけようぜ!」
「そう言うなら、だらけさせてくれよ?」
「任せて。今日はもうここで暴れたから、家ではゆっくり過ごすよ」
信じる気はないが、きっと有言実行して、部屋にこもってくれるだろう。明日から学校が本格的に始まり、2年生という挟まれた学年として、そして何より、騒がしいクラスメートたちと学校なんだ。休ませてくれるだろう。
「そのために、私は買いたいものがあります!」
「スナック菓子と炭酸飲料です」
「流石!」
「絶対に余計なもの加わると思ってた」
メモした商品だけ買うなんて、そんなこと、歌代が我慢出来るはずもない。自由人で、好き勝手動く歌代に、家でだらけるための商品は必須である。太らない体質なのは羨ましいが、今日何個目かと、買い溜めにしてもお菓子好きな意外な面も見せてくれる。
「五百雀はチーズ買っててよ。私は五百雀の好きそうなお菓子と飲み物買ってくるから」
「試されてるからな?もし苦手とか好みじゃないの持ってきたら、歌代のお菓子を1週間禁止する」
「ふふっ。いいだろう。ではもしも買ってきたら、帰ったら私に、噛み跡つけさせてね」
「……分かった」
ここで引くのは恥である。考えたが、どうせ当たらないと高をくくって決めた。
「一応、言い逃れ出来ないように、私の連絡先にお菓子の名前送ってて。私、スマホここに置いていくから。もしも戻ってきて、送信取り消しとかしてたら、その時は五百雀の負けね?」
「了解」
フリック操作を慣れた手付きで行い、ササッと好みのお菓子を歌代に送った。すぐにピコンと音を鳴らすと、歌代は確認することなく、「行ってきます!」と敬礼込みで、走らず行ってしまった。
「チョコパイ、当たるかな」
送った内容はチョコパイ。商品ではないのは、どのチョコパイを選んでも、正解だという少しの優しさだ。まぁ、当てられるとは思わない。数ある選択肢の中で、チョコパイを当てるなんて……いや、ないよな。
少し、ほんの少しだけ、ざわついた胸があった。
その胸を知らないこととして片付け、俺は深呼吸して残りの商品を買いに動く。歌代のように、キャッキャッとはしゃぐことはない。静かに、ざわつく胸を見ず知らず。
それからしばらくして、歌代はどこかと菓子パンがずらりと並べられたコーナーへ足を運ぶと、そこでばったり会った。手に持ちきれなかったのか、カゴをいつの間にか手に提げて。
「ただいマンモス!やっと見つけたよ」
「量、バグってね?」
「えへへー、当てればいいんだから、これかなっていうのを全部持ってきた」
「……脳筋かよ」
彼女――歌代月は、学年で最も賢い生徒である。それは成績として表れているため、疑いようはない。しかし、実はバカでもある。普通に考えて、カゴ一杯になるだけのお菓子を詰め込むなんてこと、迷惑極まりない。
「脳筋でも、買うつもりだから、実はどれこれも賞味期限はまだまだのを選んできたんだよー」
「はぁ?!お前これ全部買うの?!」
本当に失礼極まりなかった。利益とかよりも、今の自分の気分を優先する店員さんがほとんどだろう。だからこそ、毎回種類別のお菓子をピッピピッピしてたら、多分ムカつく。
モールに行けば、ピッピから支払いまで全てをセルフレジで完結させることが出来る店は多くある。しかし、現代日本でスーパーの完全セルフレジは、未だ浸透はしていない。これは確実に、店員さんのストレスを溜めるな。
「買います。今から戻すのも常識としてダメだろうし、悪いけど、今日は私の勝負の餌食になってもらいます」
「こんな客、卒業までの2年間見続ける店員さん、可哀想だな」
「いいや、大学進学しても、通える距離なら再契約であの家に住み続けるよ」
「……店員さん、仕事辞めそう」
「仲良くならないとね」
仲良い悪いの前に、人間性をしっかり整えた方がいい。学業に於いて、右に出る者はいなくとも、プライベートの常識云々では、右に出る者しか居ない。
「さっ、そんな話よりもするべきことがあるよね!私と五百雀の勝負、どっちが勝つか」
「こんなん俺の負けだろ」
「そう?諦めるには早いんじゃない?チョコパイ買ってないかもしれないし!」
「……は?」
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