表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/43

第33話 扱い方



 歌代は我儘で贅沢で、その美少女という肩書きを悪辣に使う性悪女だ。しかし、それに抗えないのも事実。抗う、という意味を成すほど、俺には深い傷はないのだが、それでも冗談で、あれこれ作れと言わないところ、素直過ぎて良くない。


 他力本願は時として許されない。


 スーパーを半周し、具材の半分を買い終えた今、お目当てなのはマカロニである。


 「やっぱり、グラタンにはマカロニなのかな?」


 「一般的なのはそうなんじゃね?それぞれの家庭でアレンジはあるだろうけど、マカロニは嫌いじゃないならどこの家でも入るもんだと、俺は思ってるけどな」


 「私の家違ったんだよね」


 「へぇー、何入れてたんだ?」


 「マカロニ」


 「……ダル」


 思わず足を止めて、目を細めて言ってしまった。歌代にはぜひ、日本語の意味を熟知して話してもらいたい。無駄な時間と問いに頭を使うのは疲れる。


 ニヒヒと、悪辣達成を喜ぶ姿は、可愛いからこそ殴りたい。マスコットや可愛い子供を殴りたいと思う、特殊性癖ではなくて、ぶりっ子が本気でぶりっ子した時に作る握り拳で殴りたいと思うやつである。


 「そんな褒めないでよー」


 「マジでダルい」


 更に細める。呆れることを超えて、軽蔑の目を向ける。しかし、どれだけそれを感じても、冗談だと知っている歌代は、止まらない。


 「早く行こうよ。五百雀くぅん」


 手招きして、最近のメイド喫茶でも風俗でもないだろう、ババアの色気を増し増しにしたような、生温いネチョった声音と仕草は、心底不快だった。人差し指を口に、顎は限界まで引かれているのが、何よりも際立った。


 「なんでこんな変なやつが同棲相手なんだよ……」


 しゃがむと頭を抱えて独り言を呟く。ボソボソっと早口だったので、おそらく歌代には聞こえてない。だからか、不思議そうに俺を覗く姿が、顔を上げると映る。


 「早くぅ」


 「……はいはい」


 半ば諦めかけた俺。この歌代と付き合い続けるのも、学生生活の醍醐味となってくれるのだろうか。ならないなら、今すぐ引っ越しを検討する。


 「あはははっ。嫌そうなの最高に楽しいんだけど!」


 「なんでスーパーでそんなに楽しめる?人生何しても楽しそうだな」


 「でしょ。私って意外と普通の生活に適応した人だから、ストレスフリーに生きる方法も、これだって見つけてるんだよね」


 「あっそ。それは凄いですねー。そのままご自由にストレスフリーで生活してくれればいいと思いまーす」


 「言ったね?前言撤回なしだよ?家帰ったら楽しみだね」


 「……なんで突然人間に戻るんだよ」


 問題・不意の美少女の笑顔に、ときめかないことはあるか。答え・ある。たった今、呆れ果てて、ウザさの勝利している歌代に対して、俺はときめくことは予感すらもなかった。


 家に帰っての後悔よりも、今の感情に揺さぶられるのは、積み重なった歌代の癖の強いあれこれが、今になって噴火したからである。


 「最悪歌代の部屋に隠れるから、別に気にしてないけど」


 「変態」


 「好きに言え」


 「へぇんたぁぁい」


 「口塞ぐぞハゲ」


 「ハゲてねーし。塞げるもんなら塞いでみろ」


 「汚れるからいい」


 俺たちはスーパーに食材を買いに来ている。なのに、玩具にハマって抜け出せなくなった子供の相手をしなければならないのは、多分良い子にしている親の気持ちよりも悩み事は多い。こっちは来年成人を迎える歳だというのに、比較対象が赤ちゃんとは。「ふっ」と嘲笑っておく。


 「ったく、マカロニに着くまで、どんだけ疲れさせてくれるんだよ」


 ヘトヘト、とはいかなくても、前を歩いて進行ルートを邪魔して、その都度バカをしてくれるので、宥めるのに体力を使う。


 「どうせこれからゆっくりするんだし、関係ない関係ない」


 「いや、料理あるから」


 「料理なんてすぐだよ。私とイチャイチャするならね」


 「絶っっ対にしない」


 噛ませもしない。とは言えない。人には事情があるから、それを満たすための役割は、相手が嫌いになっても全うする必要がある。


 「そんな照れるなよぉー」


 「マカロニマカロニ……」


 無視が最善策だと、どうしてこんな遅くに気づいたのだろう。やはりネットでも現実でも、頭の狂った人間には無視が有効なのだ。何をされても気にしない。俺は切り替える。


 「あれ?無視?いいのかなー?無視しても」


 「どれくらい必要だっけな……」


 スマホを触って色々と確認を。本当にマカロニの量を確認するためだが、それを嘘だと思ったのか。


 「どれどれ?」


 スマホと俺の目の間に頭を重ねて見てくる。当然俺からは量の確認は不可能。多分、この世界で1番のカマチョは歌代月だ。オシャレで可愛らしい名前のくせに、性格と可愛い顔は全くだ。


 もう限界。俺は()()()()に出る。


 「おとなしくしろ」


 カゴを提げた腕とは逆の、左腕で歌代の口を塞いで体を密着させる。「んーんー」と静かになったので、構わずレシピを確認する。左腕の中がうるさいが、人は少ないので止めることはない。人通りの少ないとこを選んで歩くのは、面倒だが。


 「んーんー」


 喋っていいと口だけ開ける。


 「乱暴は良くないぞ」


 「その割には喜んでるっぽいけどな」


 「その通りー」


 喜べばそれを嫌って離してくれると考えているか、それとも普通に喜んでいるのか。総合成績学年トップだからこそ、それは定かではない。難しすぎる、この女子の扱いが。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ