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第30話 甘々




 初めてのおつかい、ではないが、1人でスーパーへ入った時の、どこに何があるのか分からない、右往左往する時間は、誰も気にしてないのに恥ずかしかった。結構羞恥心に駆られる俺なので、下を向いて歩いた時に、柱にぶつかったのは歌代には言わない。


 「そうなんだ。実は私もなんだよね。5日前にあのスーパーに入ったのが、人生初の1人スーパー」


 既に見えた、剥がれた塗料もなく、最近出来たと思わせるほど艶のあるスーパーを指差して言う。実家に住んでいた時、両親と向かったスーパーよりも、少し小さめだ。


 「なら、これが2人で初のスーパー?」


 「それはそうだよ。同棲1週間だし。家族とかも入れるなら、違うよ?」


 「まぁ、そうだよな」


 普通に当たり前の事を聞いたのは、ボーッとしていたから。最近快眠も叶わず、疲れも完全回復とまではいかないから、夕方に眠気が来るのだ。外に出ると、冷たくひんやりとした風が包むため、睡魔を誘う。


 抗うように、頭に血と酸素を送るために深呼吸。そんな俺を変だと思ったのか、歌代も俺よりもうるさく大きく、深呼吸をしてみせた。


 「真似好きなのか?」


 「好き。楽しくない?」


 「反撃受けるから、それを幸せと思うなら楽しいと思う。今は徐々にそっちに連れて行かれそうになってるけど」


 「あははは。私にかかれば包容なんて当たり前なんだよ」


 そんな世界線あるかよ。


 美少女に抱きしめられて同棲。理想郷ですら思い描かなかった物語だ。それが現実だなんて、捨てたもんじゃない。


 談笑して、通り過ぎる人たちは俺たちに反応を示さず、内心ホッとしていると、もうスーパーの専用駐車場へ足を踏み入れる。最近舗装されたようで、国道よりも黒みが増していた。


 「グラタンのレシピって知ってる?」


 「簡単になら。最悪スマホで見れば解決だろ」


 「それもそっか。スマホ最強だぜぇ」


 「だぜぇ」


 「ほら、真似するの楽しいんでしょ!」


 隣へ振り向く速さが部活をしてない人のそれじゃない。鼓膜が振動した瞬間に振り向くのかと思うほど、音速である。


 「否定はしない」


 無意識に口に出しているほど、落ち着いているというか眠気に襲われているというか。取り敢えず真似することは、多分楽しいと思うのだろう。眠気凄くて正しい判断出来ないが。


 お互いに、サンダルで地を踏みながら、「楽しいと言えぇー」と楽しげで、騒がしくないギリギリのラインで投げかける歌代を、ノールックで妹のように頭を撫でて宥める。するとニンマリとするので、慣れる慣れるという俺の言葉と意思が、大言壮語だったかも、と前言撤回しようとする。


 慣れさせてくれよ……。


 「いざ、野菜コーナーへ」


 「入って目の前だ」


 うろ覚えだが、入口付近に野菜コーナーがあるとかなんとか。思ってたよりも消費者のことを考えているのには、初耳の時驚かされた。


 「何気に野菜コーナーって初じゃない?」


 「俺はデリバリーに甘えず、作って食べてたので初じゃないでーす」


 入口に置かれたカゴを手に取り、消毒を済ませて入店。途中で自分に甘々で怠惰の極み、権化である歌代をついでに煽る。


 「くぅぅ!なんで作ってくれなかったの?」


 「いや、各々作るって言ったの歌代な?」


 「私の性格察して、実は家では少しだけおとなしくなるって知って、気を使って作ってくれても良かったんじゃない?」


 「すっごい高難易度なこと言うんですね、歌代さん。マシでそんなん知るか、ですよ。いっつもギャハギャハうるさい歌代さんのことを察せとは無理難題です」


 俺が料理している背中では、デリバリーで頼んだ、お寿司やら牛丼、ラーメンやオムライスなどを心底幸せそうに、「ウメェウメェ」と食べる歌代が居たのだ。


 敢えて何も言わなかったが、実はこの1週間、歌代が野菜を補給しているとこを見たことがない。それでも健康に問題ないらしいので、細胞までも優秀らしい。


 ゴミ箱にサラダの容器っぽいゴミが捨てられていたので、全く摂ってないことはないはず。と、信じたい。


 「ヌァァー、そんなこと言うなよー」


 「どんな鳴き声だよ……。まぁ、心配するな。今後も2人で作れば、それだけ手間は減るだろ?」


 「えっ、私の分も作ってくれるの?」


 「耳ついてんのか?それとも、一緒に、の意味を知らないのか?どっちにしても、何か理由がない限り、俺は歌代の分は作らない」


 目を輝かされても、「うっ」と、ときめくだけ。流石に俺も暇人じゃないし、歌代のことまで管理は出来ない。自立をするためでもあったこの生活に、歌代が入り込んだことで狂ったのだから、それに耐えながらも自立を確実にしたい。


 「えぇ……仕方ないのか。私も作らないとってことね」


 「どうしても嫌ならデリバリーしかないな。若しくは常に風邪引くか」


 「毎日走って帰って熱38.0にしよっと」


 「それ言わなかったら、1回は使えたのにな」


 「あぁ!!聞かなかったことにして!お願い!」


 スリスリしながら、これでもかと懇願する。本気で料理は億劫そうで、少しでも楽をしたい気持ちが現れている。


 「……分かった。今のこと、忘れたことにする」


 「ホント!?やったぁ!あざっす!」


 俺もチョロいものだ。つい可哀想だと思って良心が働いた。冬羅や秋人には、絶対に嫌だと断り続けるのに。美少女って小悪魔だよな。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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