表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/43

第29話 買い物




  「よーし!買い物に出かけよう!」


 「……え?」


 お互いに、雰囲気が良くなった延長線上で、何故か急にソファから立ち上がり、右腕を天に伸ばす歌代。突然のことに開いた口が塞がらない。


 「五百雀、君も一緒に買い物に行くよ。今日は、夜ご飯の材料がないので買わないとだったし」


 「風呂は?」


 「また入れば問題なーし!正直デリバリーで良いかって思ってたけど、気分転換にね」


 「……左様ですか」


 風呂に入れば、外に出たくない、そして気怠げ病に罹るので、外に出るのは抵抗しかない。まだ夕方になりそうな時間帯なのが、唯一の救いだけれど。


 「料理か。何作るんだ?」


 「何が良い?」


 「んー、簡単なのが良い」


 「具体的に」


 「歌代の手料理」


 「具体的じゃないよ、それ。2人で作るから、半分私の手料理だけど」


 「なるほど」


 気づけば膝の上に乗って考えている歌代。慣れたこの関係も、ドキドキは次第に薄くなる。


 「それならグラタンでどう?」


 「好みですか?」


 「うん。結構作りやすいし、好きなんだけど、歌代は違う?」


 「ううん。私も大好きだから、同じなのかと思ってさ」


 「へぇ、そうなんだ」


 とは驚きつつも、聞けば納得するイメージだ。チーズが好きそうなイメージが強くて、だから、なのかもしれない。俺はチーズ好きだし、もしかしたら好きな食べ物だって合ったり?


 「だったらグラタンで決まりだな。そんなに食べないし、量も並でいいだろ」


 「うん。そうと決まれば、スーパーに行くぞ!」


 「行くぞぉ!」


 そう意気込んだものの、着替えるのが何よりも面倒。


 「1分で着替えるから、五百雀もすぐに着替えてね!」


 「はいよ」


 女子が外に出るというのに、寝巻きから1分で準備完了とは、それほど容姿に不足なしと思っているのか。まぁ、歌代の容姿ならば化粧なんて不必要だし、スーパーに着飾るわけもないだろうから、1分は理解ある。


 ドタドタと、これから娯楽施設に向かうかのようなハイテンションで自室へ消える。バタンと閉まると、聞こえるのはガサゴソ音。タンスを漁る音が大きくて、「いったぁ!」と悲鳴も聞こえる。


 その間に、俺は不細工にもリビングに置いたタンスから、短パンを取り出す。上は長袖のグレーのTシャツなので、変える必要はない。


 履き替えて、ソファに座って45秒。ガサゴソからガタガタに変わった荒々しい音は、RTAをしているのかと思える。そして時計の短針が回り終える瞬間に。


 「はい!完了!」


 ドンッ!と、ドアノブではなく、しっかりと閉まっていなかったドアを平手で叩き、勢いよく出てくる。少し伸びたが、膝上の短パンに、グレーの長袖の上着。


 「あっ!合わせたな!」


 「それはこっちのセリフだ。先に着替え終わってたんだし」


 上下、短パンも上着とTシャツの色も、お互いに示し合わせたかのように一緒だった。違うのは上着かTシャツかだけ。見た人全員、兄妹だと思うレベルに同じである。


 「ここでも同じとは、いい感じですねぇ。全く同じにしよっと」


 羽織るように着ており、ジッパー付きだったため、前のジッパーを上げることで完全に色彩が一致する。双子コーデというやつか、ジッパーがあるかないかの違いだけとなった。


 「外歩くの恥ずかしくね?」


 「大丈夫大丈夫。可愛いくて仲いい家族にしか見えないから」


 「それでも恥ずかしいけどな」


 同じ色合いというのを、見られることが恥ずかしいし、絶対に暴れるであろう歌代の隣を歩くのも落ち着かない。


 「まぁ、歩けば慣れるし、スーパーも歩いて2、3分でしょ?だから気にすんな」


 白い歯を口端を引き上げることで、キリッと見せる。親指もグッドと出されることで、イケメンがそこに現れる。女子であり、鷹揚とした歌代が普通の歌代だと知っていても、真顔とキメ顔の歌代は、怜悧そうな容姿と相まってクールにも見える。


 「そうだな、すぐそこだし」


 元よりバレる心配もしていないのはそれが理由だ。ここ近くに、クラスメートの家はないらしいし、スーパーにだってこの1週間誰とも会わなかった。2回しか行ってないけど。


 「そんじゃ行こうぜぇい」


 萌え袖をしても似合い、ぶりっ子と言われても好きになるレベル。横顔を見るだけで見惚れてしまい、1度開けっ放しにした冷蔵庫に頭をぶつけたこともある。


 そんな美少女と買い物。普通ならば「あわわ、どうしよう」なんて狼狽していただろうに、慣れとは怖いもので微塵もそんな気になれなかった。だって歌代のおかけで、距離感がバグったから。


 何とも男子が好み、嫉妬し、執拗に質問を投げかけるようなことを思っているが、1番それを聞きたくて、知りたいのは俺だ。別に、困ってないし楽しいからこの距離感で良いんだけどな。


 玄関を出て、エレベーターに乗って外へ。黄昏時には後1時間か、オレンジ色の陽光が薄っすらとマンションを照らす下で、俺たちは風吹き荒れることもなく、歩き出す。


 「1年生の時も、こうして1人でスーパーに寄ってたの?」


 実は身長差15cmと、気持ちいい間隔の俺たち。その差で見上げられると、靡く髪に魅了されそうになり、その奥に見える大きなつぶらな瞳に、吸い込まれてしまう。


 「いいや、1年生は親と暮らしてたから、こういう時はなかった。だから6日前の買い物が、初めての1人スーパーだったな」

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ