表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/43

第28話 これから




 映画の方は、只今混乱の真っ只中。だけど、気づけたことと、無理をさせていたことを考えて、別にこの程度見過ごしてもいいと思った。ストレスよりも、いつでも観れる映画を中断する方が何倍も良かった。


 もう、映画が終わるまでは大丈夫だろうと、意識は歌代に割くことはない。大混乱で、フレナ視点、母と姉が2人、そして父、フラット、フレナ、がそれぞれ1人の状況に変化する。


 ポルターガイストも入ったオカルトホラー。続編があるので、いつか暇な時にもう1度観て続編を観ようと思い、ここからは別に気にすることなく会話する。


 というか、そうして、映画中でも遠慮なく関われるようにしたい。


 「噛むの、我慢出来なかった?」


 突然の質問に、映画中ということもあり、答えていいの?というようなつぶらな瞳で目を合わせる。


 「映画はちょこちょこ観るから、そんな気にしないで喋っていいぞ」


 「分かった。なら喋る」


 「悪いな。縛るつもりはなかったけど、喋りながら観たいタイプとは真逆だから、つい強く言ってしまって」


 「ううん。結構我儘聞いてもらってたし、大丈夫」


 「これからはホラー映画も、喋りながら観るから、その時は相手してくれ」


 「いいの?合わせちゃって」


 「そっちの方が楽しいからな。小動物抱えて観るのも、ビクッてなるのも、噛みたくてウズウズするのを見守るのも」


 集中して観るのは、映画館だけでいい。ここは家だし、家ならではの楽しみ方が出来る。仲のいい人と、あれこれ考察したり、先を読んだりして、外れて当たって、そんなこと出来たら、結構楽しいのでは?と今更ながらに思う。


 「そっか。私も、毎回態勢変えて観ようかな」


 「暇な時、ずっとお腹の前に居そうなんだけど」


 「多分上下左右が変わるだけだよ。お腹の前は、結構居心地いいから、今のベスポジ」


 テレビでは、騒がしい家族が、1人の幽霊か何かに襲われていて、悲鳴と物が崩れる音が鳴り響いているというのに、目の前の美少女は、その真逆の幸せそうな笑顔を見せる。


 「もうすぐ終わっちゃうね。もう1時間15分くらい?早いね」


 「そうだな。噛まれる間隔も狭まって来た気がする」


 「それはそうかも。甘えてるから、少しでも、ほんのちょっと噛みたいと思ったら、衝動なくても噛みたくなるんだよね」


 「少しは我慢しろよ」


 「ストレス溜まるもん」


 「……なら仕方ないか」


 人には人の乳酸菌。人には人の限界がある。それには理解があるので、ストレスを溜めさせないためにも、噛まれ続けるしかないか。でも、大学に行ったら、困りごとになるだろうから、今のうちから抑えるのも練習する必要はありそう。


 「嘘嘘。ちょっと我慢する。最近、快眠出来てるし、ストレスも感じてない気がするから、我慢は出来ると思う。だから、五百雀も私が苦しそうにしても、甘やかさないでね?」


 「分かった」


 けど、分かってない。きっと、お願いと上目遣いで、甘えるように懇願されたら、俺は絶対に頷くだろう。だから、これから慣れるべきは、歌代の可愛さだな。最優先だ。


 こう約束はしたものの、上手くいくのか心配だ。これから先、何度も衝動に抗うためにも、必要とはいえ、苦しいことには変わりないのだから。性癖を抑えろなんて、中々厳しいだろうに。


 俺には特に性癖はないと思うから、共感出来ないのも、心苦しいものがある。


 「ってか、よく快眠出来るな」


 「ベッドが気持ちいいので」


 「引っ越しの違和感とかないのか?慣れないとか寝付けないとか」


 実際俺はそう。未だに慣れないのは、歌代にではなくて部屋に、だ。ベッドじゃないし、リビングっていう部屋の感覚もあって、寝られないのは分かる。けど、環境の変化に対応するにしても、俺視点では早すぎるのだ。


 「今はもうないって言っても過言じゃないよ」


 「マジか。適応力も高いのかよ」


 「適応力っていうか、遠慮がないんだと思う。五百雀がなんでも許してくれるから、それに私が甘えてるだけ」


 「それでも、ストレスフリーに生活出来るのは、1つの長所だろ」


 いうて、我儘なんて思わないし、お互い不慣れな同棲でこれまで良好に関係を築けてこれたのは、他でもない歌代のおかげだ。


 「これから迷惑かけたらごめんね。私、好き勝手暴れるだろうから」


 「改まって何かと思えば。気にしなくても、そしたら俺も暴れるから、同罪だな」


 「ふふっ。そういう優しさも、大当たりの同棲相手だって思うよ」


 部屋は暗く、画面の中も真っ暗な世界であるここで、すぐそこに、明るい笑顔がある。物理的に光を照らして、安心感を与えるような明かりではないが、間違いなく、誰もが欲する明かりだった。


 大当たりだなんだ、そんなの嬉しいに決まってる。ただ、普通に生きていて、それで大当たりなんて言葉を本音でプレゼントされると、これまでこの性格で良かったと、心底思う。


 「こちらこそ、大当たりを超える当たりだな」


 「幸せってこと?」


 「じゃないとでも?」


 「出会った日は、あれだけ避けてたのに、今は幸せって言ってもらえると、少し距離縮まった気がして嬉しいね」


 「そうだな」


 幸せと言えることが、何よりも嬉しい。噛まれることにも、距離感にも、完全には慣れていないけれど、きっと時間が解決してくれるだろうから、俺はそんなに気負わずに、歌代のように気楽に過ごすのもありなのかもしれないな。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ