第27話 集中
ストーリーは終盤へと向かう途中。いや、まだまだ中盤だろうか。地下室へと追ってきた父親と女の子の兄が、ゆっくりと女の子の襲われた場所へと足を運ぶ。
その間、黙って見る俺は、お腹の前にスナック菓子を頬張る小動物を抱え、いつ先程の幽霊?が出てくるのかを楽しみに見ていた。
見たところ、懐中電灯で曖昧だった地下室の形状も、次第に分かるようになってきた。おそらく地下牢だ。鉄格子が網目状に組み込まれて、それは鉄素材で間違いない。
『こんなところが……』
『父さん、あれ!』
触れて、この場所に引っ越して始めて見た地下室に、少し驚きながらも興味を示す父に対して、息子である女の子の兄は肩を叩いて先を指差した。
『……灯り?』
薄っすらとだけ見える灯り。
「女の子のかな?……あっ、ごめん」
両手を口に運んで「やらかした!」と。けど、俺は気を取られず、集中切らすことなくテレビを見ていた。シュンとする姿に、少し注意しすぎたかなと反省をすると、その後はもう中に引き込まれるだけ。
俺はその灯りに向かうのはよろしくないと思った。しかし、その予想が正解するからこそ、演者はそこへ向かう。いや、演者でなくとも向かうか。娘と妹だもんな。
若干小走りに、狭い通路を父と兄は走る。同時に、スナック菓子を食べる小動物も静かに。これで何も気にすることはなくなり、更に作品の中へ引きずり込まれる。
辿り着いた親子は、それが娘の懐中電灯だと確信する。家にあった唯一の懐中電灯だから、と。そしてそこには、女の子が倒れていた。
『フレナ、大丈夫か!フレナ!』
女の子の名前はフレナらしい。父が体を揺するが、全く反応はない。手にはぬいぐるみが持たれていて、それに気づいたのが兄で隠れたカメラワーク、そして心理を揺する効果音と共にだったので、心臓が結構高めに跳ねた。
ってかカランって音どこから?
フレナを抱えて、父は息子の手を引いて走る。こういう時の親の心強いこと。安心感があった。懐中電灯を手に持ち、間違いのない一直線を駆け抜ける。
何か起こるかと思っていたが、何事もなく3人は無事、地下から戻る。姉と母とも合流し、合計5人の家族が揃った。
するとその瞬間、パチッと電気が消える。夜になりかけの時間帯。夕焼けは心許なく、ホントに薄っすらとオレンジ色の明かりが入り込むだけ。
『ブレーカーを頼む』
父は冷静に対応する。ほぼ真っ暗な部屋の中で、4人が固まっていても、兄のいない今では、少し精神的にも苦しい。そんな時は、不幸なことが積み重なるのが定番である。
『ん?』
父が突然、床を触りだす。
『フレナはどこだ?!』
『え!?』
消えていた。寝かせたはずのフレナは、いつの間にか消えていた。真っ暗とも言える部屋の中で、3人しか固まっていない。2人は行方不明で、落ち着けるわけもなく。
『フレナ!どこだ!フラット!居るか!」
フレナの兄はフラットというらしい。しかし、フラットからの返事はない。絶対に聞こえる声量だったというのに、反応はない。気配すらもない。
『クソっ!どうなってる!』
『どこに行ったの?』
『分からん。だがおかしなことが起きているのは間違いないだろう』
言ってすぐに、暗闇の中で微かに漏れる光が3人の目を奪う。リビングの奥、洗面所から情けなく。
『なんだ……?』
『私が行こうか?』
『いや、母さんとここで待ってなさい』
懐中電灯を持ち、リビングの奥へ。母視点に切り替わるのが怖くて、瞼を閉じそうだったが、なんとか堪らえようと目を凝らす。歩く先、小さく音が聞こえる。カランっと。
父の顔つきが変化する。余裕のない精神面に、焦りが加わる。これ以上だと爆発しそうなほど、汗は滴り呼吸は荒い。忍び足が慣れない足取りで、床の音を鳴らす。
そして扉の前、洗面所に続く廊下の扉をゆっくりと開く。そう。開いたのだ。なのに、真っ白な誘うような光は消えていた。
『何?』
途端に。
『ギャァァァ!』
『――フレナ!?』
後方、そして2階からフレナの叫び声が。そして、踵を返すように後ろを振り返ると、その瞬間、父の背中に白装束を纏った女性の、顔とは思えない顔が映る。
「――うっ!」
思わず目を逸らした。まさか後ろにいるとは思わないから。すると集中ももちろん途切れる。深呼吸して、これから面白くなるだろうストーリー。最終盤へと一気に駆け抜けると思った。
しかし、俺の目には別のものが映った。今まさに、自分の右腕を噛もうと、口に近づける歌代の姿が見えたのだ。多分、噛み跡を付けるということを知らなければ、今頃心臓なんてバクバクしていただろう。
俺はそれを見て、映画よりも噛み跡をつける歌代を優先した。俺の右腕をそっと伸ばし、今噛もうとした自分の右腕と交換するように前に出す。当然それにきょとんとすると、「いいの?」という指差しを。喋ったらいけないを、今も尚続けているようで、それは映画よりも見る価値のある表情だった。
「良いよ」
いつ噛んでもいいと許したけど、映画中は流石に抵抗があったのか、ニコッと感謝の笑みを咲かせると、遠慮なく噛んだ。痛みは首よりもない。けど、これまた人に見つかるところを噛ませてしまったと、悩みが増えてしまうことになった。
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