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第26話 ビビリ




 画面の中は、今では大混乱。消えた女の子を探して、家族が右往左往しているところ。お母さんなんてパニックで、息が荒々しくなっている。


 「こりゃー、ヤベー雰囲気しますね」


 「常にな」


 お前だよ、と言いたくなるが、襲われるのは避けたいので言わない。よく、心の中に秘めることが増えた俺だが、そろそろ面倒なので吐露しても良いかと思い始めている。


 いつかこの関係が更に奥へと進むのならば、俺は気遣いなんて皆無で、思ったことを口に出したいと思っている。もちろん常識の範囲内で、だが。


 「あの子の側になったら、私絶対その場にしゃがんで助け求め続けるなぁ」


 「そもそもそんな部屋行かないだろ?」


 「確かに」


 女の子視点へと進むと、未だ懐中電灯を使って地下を捜索。迷宮と題するだけあって、僻地の空き家は、やはり地下に何かしらの意味不明な通路があるらしい。


 そんな家に住みたいとも思わないけど、楽しそうではある。30人の大所帯で向かったら、幽霊も諦めて仲良くしてくれるのでは?なんてユートピアを描いたり。


 女の子は懐中電灯を頼りに、自分の据わった気持ちを武器に先へと止まる気配はない。もしかしたら、もう取り憑かれていて、止められないのかもしれないが。


 すると、先からカランッと、缶詰の容器が落ちたような、そんな効果音がする。当然女の子にも聞こえていて、足を止めると、「誰?」と声に出す。


 あの声優さんか……。


 ここに来て、妨害ない中で聞こえた女の子の声。華奢で矮躯に似合った声。すんなり、違和感なく入り込む。


 「これ、絶対に誘われて行くよね。ホラー映画あるある」


 「うん。分かるけど、めちゃくちゃ喋るな。黙って観れないタイプ?」


 「だって離れてると怖くて、五百雀の声聞かないと取り憑かれそうだもん」


 しっかりと言われたことを守って、ソファの真反対へと座っている。距離はそれだけ離れてるし、意識しないと声も聞こえない。


 「黙って観てほしいなら、私を側に寄らせる。それが嫌なら、定期的に受け答えしてもらう。答えないと、噛む」


 「……なんで俺が脅されてんの?」


 映画館ではないから、些末なことだと思うが、それでも映画中に定期的に話しかけられては、集中して観れないし、醍醐味であるストーリーすらも頭に入らない。故に怖がることも推察することも出来ないので、面白さが半減してしまう。


 折角観てるし、面白くなってくるから、ここは折れるとする。


 「分かった。肩だけな?」


 「わーい、ありがとうございまっす」


 175cmある俺と比べると160cmは低い。だからそれだけ華奢で可愛く映る。我儘言っても妹のように、疑似家族が頭の中を過るから、そう思う。


 「あっ、やっぱり隣は何回も寄ったから別のことにしよ」


 許可なんてしてないのに、有無を言わさず俺の膝の上に乗る。


 「何してんの?」


 「これなら安心感あるかなって」


 「……お好きに」


 隣を許したのなら、もう我儘は受け入れるしかない。膝の上だと、足が長い歌代でも、俺の目線までは頭がある。だから、膝を開けて、その前に歌代を座らせる。


 「好きな姿勢で観れないの、結構大変なんだからな?」


 「優男に付け込む性悪女だから、許して」


 腕を掴んでお腹の前へ。


 「なぁ、集中して観れなくね?」


 「大丈夫。慣れるから」


 「ドキドキするんだけどな?違う意味で」


 「いぇーい。惚れろ惚れろー」


 後ろからハグしているような態勢。歌代は全く気にしてないのか、触れられることに無抵抗を超えて、自分から腕を巻きつけるとは。距離感バグってるのに、更に拍車がかかってしまっている。


 歌代が良いのなら、俺もそれでいい。いつもならギャーギャー言って抵抗するが、もうその気力もなかった。ストーリーも面白くなってきたとこだし、邪魔されないよりもマシだった。何よりも、すぐに集中するだろうから、気にしなかった。


 首を横に軽く曲げて、歌代の横から顔を出して観る。家族がやっと地下室へ向かい、遅めの救助へとなる。即切り替わり、女の子視点。呼ばれた先へ、怖がりながらも懐中電灯を味方に進む。


 するともう1度、今度は近づいたことを証明するかのようにカランッ!!と跳ねるように音が鳴る。ビクつく歌代に、笑いそうになることもなく、集中していた俺は無言でテレビを見つめていた。


 『誰か居るの?』


 女の子は言う。


 『ティリー?』


 女の子はまだ6歳ほど。ぬいぐるみを生きていると思い込むには普通の年齢。そしてカランッと。3度目は大きい。


 『ティリー、そこに居るの?』


 音的に、もう目の前だ。しかし、そこは――壁。


 『あれ?ここから――』


 「キャッ!!」


 言ってる途中、突然背中に顔の見えない女性の姿が映って、視点は切り替わる。そして歌代の声で、俺は集中が途切れる。


 「……うるさ」


 「怖い怖い。あれは驚くって……ちょっと、強く抱きしめてよ。怖いんだから」


 腕を掴んで、半ば無理矢理ソファの背もたれに掛ける俺を起こすように引く。やはり、そんなに歌代が前でも意識しない。すぐに集中してしまう。


 「普通怖がる側が抱きしめるんじゃないのか?」


 「仕方ないでしょ?こうするしか思いつかなかったし。今日はこれで行くの」


 「だから抱きしめろってか。我儘聞いてやるの、優しいと思えよ?ホントに」


 「マジ感謝してる」


 今日は……か。休日が恐ろしい。

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