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第25話 静かにしろ




 「始まったね」


 「マジで驚かすなよ?近所迷惑になるから」


 「それは……約束出来ないかな」


 「……だよな」


 正直もう求めてない。いつか驚かされるのだろうと、薄々と感じている。でもそれはそれで、楽しく時間潰しを出来たと思えるので、些末なことだと思うことにする。


 真っ暗で、遮光カーテンの僅かな左右の隙間から漏れる陽光が、唯一の救いだ。ホラー映画なんて、それ自体よりも隣の変人美少女を気にしてしまうとは、なんともバカバカしい。これぞサイコホラーなのでは?


 始まって少し。主人公なのか、手にぬいぐるみを持った少女が、僻地に建てられた家の中を走り回る。ドタドタと、それはうるさくも、実際は音量が大きいだけ。ギィッと軋む音さえも鮮明に聞こえるこの距離感と音量。既にビビる準備は万端だった。


 更に少しして、ガタン!と強めに物の落ちる音がする。それに驚くことはなく、俺は黙って見続けた。が、その時に意識は戻って来た。右肩に触れる、柔らかく大きな感覚。


 「どさくさに紛れて寄るなよ」


 「…………」


 「なぁ、聞いてる?」


 「…………」


 顔を向けず、ただ光とともにストーリーを進行するテレビを見ていた俺は、ほんの少し、本当に本当にほんの少しだけ怖くなった。ほんの少しだけな?


 答えないから何かと、ゆっくりと隣を見た。


 「バァ!」


 「…………」


 いや、そんな気がした。だから心臓はそんなに跳ねなかった。


 「あれ?……失敗?」


 「もちろん大失敗だ。でも許さんぞ。やろうとした罪は重いから」


 「それくらい、許してくれても良いのでは?器大きいじゃないですか、五百雀さんって」


 「そんな言ってもダメです。これから1週間、噛むの禁止な」


 「それは困る!」


 「自分の腕を噛んでくれ」


 「いじめだ!約束しただろ!噛ませてくれるって!」


 「なんのこと?サインしてないし、忘れた」


 「なぁぁに!」


 結構うるさい。ホラー映画の音量よりも、圧倒的に鼓膜を刺激する。近くだから、それだけ耳に届くのだが、轟いている。


 「自業自得だな」


 「何したら許してくれる?」


 「最後まで黙って見たら」


 「言ったね?黙るから絶対だよ?」


 「はいはい。約束約束」


 「よし!」


 きっと、守ることはないと信じて適当に。もし驚かさないならばそれでいいし、驚かしたら全身拘束してベランダに放り出すつもりだ。


 力の勝負なら俺の勝ちは絶対だ。なので、逃げられることは絶対にない。騒ぎ出されると迷惑だらけなので、口を最初に塞ぐのがポイントだ。


 再度、黙って見始める歌代。騒ぐ中でも進むストーリー。見逃した分、戻すことはない。早く終われとそう願うから。


 しばらくして、またもや肩に違和感が。歌代のことだから、「黙ってるから大丈夫」ということだろう。グイグイっと分かるように押し込んでくる。なので、両足に力を入れて、全力でソファから立ち上がる。


 「うわっ!」


 すると慣性の法則に従って、座っていた部分に歌代が。うつ伏せで寝転がったのが僥倖。俺は空いた歌代ソファに、軽く優しく乗った。


 喋れないから、長い腕を伸ばしてトントンと背中を叩く。重さ的に3kgもないだろうに、作戦失敗を取り戻そうと頑張って叩く。ペンギンのようで、ペチペチとホラーの恐怖を緩和する。


 「何?」


 「んー!」


 「分かんね。無視しよ」


 「んん!!」


 「喋らないと分からないって」


 「……ちゃんと映画観よう!」


 「こっちのセリフだアホ」


 「テヘペロ」


 もう中盤へと入るホラー映画も、それよりも面倒なことが起こって意識がそれどころじゃない。暇なのが嫌なのか、ホラー映画の100分程度、静かに観てほしいのだが。


 悪くないけど。


 これはこれで楽しいから、ありだとは思う。けど、厄介に厄介は、疲れる。


 「私怖いの苦手かも」


 「いきなり?」


 「五百雀居ないとビビって丸まってるもん」


 「そういうもんだろ。そっちの方が可愛げあるし」


 「私可愛い?」


 「俺の次に可愛い」


 「最高じゃん」


 スナック菓子を一口パリッと。全く雰囲気が雰囲気じゃない。映画を真面目に観ることは、歌代となら不可能だと知った。けど、ホラー映画なら、違う方向で楽しめるから、続けるのもありかもな、なんて思ったりもした。


 「これ、この先どうなるんだろうね」


 やっと中盤か。ぬいぐるみを持っていた女の子が、消えたぬいぐるみを探して、地下に続く扉を今開いたとこ。ガタンッ!!と激しく。


 「わぁお!!びっくりポンポン!」


 女の子は手に持った懐中電灯を落とし、隣の美少女は情けない意味不明な声と、スナック菓子を落とした。掃除はしてくれるから良いが、最初から落とさないようには出来ないのかと、内心思う。


 「それの倍怖くなる」


 「扉の音にビビっちゃったよ……怖っ。よく抱きつかなかったよね、私」


 「それが普通だけどな」


 スナック菓子を持った手で抱きつかれても、お風呂上がりに困る。しかもここ、俺の寝る部屋でもあるのだから、今更考えても遅いかも?


 「本格的に幽霊出るから、それにビビって、炭酸飲料だけは溢すなよ?」


 「もう飲まないようにする」


 「賢い」


 全く賢くない。けど、喜びそうなので適当に。言われて予想通りウキウキな歌代は、満面の笑みでキャップを締めた。


 「やっぱり真横ダメ?」


 「そんなに怖い?」


 「怖ぁい」


 両手を顎の下に、一時期流行ったぶりっ子ポーズ。


 「無理だな」


 「ちぇっ。いけると思ったのに」


 この猛獣の飼い慣らし方を、俺は大募集する。

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