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第21話 よく分かんね




 「噛まれた感覚も少なかったし、舐められないとチョコはつかないよな」


 冷静に考えると、噛み跡とともにチョコがつくことは少ないのでは?と、そんなこともないことが思いつく。


 「そうかな?もう1回やってみる?」


 「いや……今日はもういいでしょ」


 「疲れたもんね。まだ夕方でもないけど」


 夜のテンションで何もかも対応していたが、外はまだ明るくて、遮光カーテンですら貫通する、熱を含んだ陽光は床を照らす。


 「何しよっかー」


 その陽光に、微かに右足だけを照らして歌代は背もたれに掛ける。日々怠惰を極めたという、その歴戦の猛者に、力というものは一切感じられなかった。


 「何するって、好きなことしてて良いんだぞ?部屋の中にこもってテレビ見ても、漫画とか読んでも」


 「それでいいの?寂しくない?」


 「別に?」


 「えぇー、寂しいって言ってよーつまんなーい」


 口だけが、ホントに口だけが動いて最低限の運動を嫌うように意思表示をする。大仰なんかでは全くなくて、どこからその声が聞こえてるかすら怪しいくらい、分かりにくい。


 「することなくて、1人が好きなら部屋にこもればいいのに。俺のことが大好き過ぎてここに居るのか?それとも嫌いだから居座ってやろうとしてるのか?」


 「どっちだと思う?」


 「分からん。けど、どの道ここに居る理由は変わんないからどっちでもいい」


 嫌われてはいないだろうし、悪い方向で居座っているとしても、そんなに気負いすることではない。そんなにメンタル弱くないし、受け入れるべきだと、それは知ってるから。


 「何それ。ちなみに、何か面白いことが起きそうだから居座ってるよ。だから、何か起こることをずっと期待してる」


 「そうしてたらいつ噛み跡つけられるか気が気でならないんだけど?」


 「その時は遠慮なく噛み跡つけるよ。そう言ってくれたから」


 多分、俺を見ることで噛み跡をつけたくなる衝動が湧き出るのではなく、歌代の中で、リミットが壊れることで湧き出ている。それに俺が関係してるだけで、根本的な原因ではないのは、分かる。


 でなければ、学校で激しく駆られない理由の説明がつかない。奇跡だとしても、ここ最近なかった噛み跡をつけたくなる衝動が、今日で何度も起こるとは思えない。おとなしい性格のことを知られたから、遠慮なく噛めるようになったから、の可能性もあり得る。


 よく分かんね。


 「大変だなぁ。俺よりも歌代が大変だけど、俺も中々だよな。学校で駆られないだけましだけど」


 「やっぱり嫌そう」


 「その、大丈夫?って聞いて大丈夫しか答えられないような雰囲気にするのやめろよ。嫌じゃないってしか答えられないだろ」


 「ってことは嫌なんだ」


 ウルウルっと、わざとつぶらな瞳に刺激を加え、涙を生成しようと目頭を熱くしている様子。


 「……家でも十分おとなしくないじゃないか」


 「それは五百雀が私に遠慮なく接することを許可したからだよ。噛み跡をつける癖を、バカにしないで、寄り添ってくれたから、別にありのままの、少し学校よりおとなしい私で居てもいいかなって」


 「なるほど?なら、その感謝として俺に情で訴えかけるの止めてくれ。罪悪感に苛まれるから」


 「仕方ないなー」


 プクッとフグよりも丸い。小顔で、綺麗に縁取られた輪郭の中に、それでも大きな双眸をした歌代は、頬を膨らませるだけで丸みを帯びる。


 美しいよりも、まだ可愛さの残る10代の女子っぽくて、それはそれで歳相応に惹かれる。懸想を抱く男子が多いのも、当然のよう。


 「それで?結局、落ち着いてるのが本当なのか、騒がしいのが本当なのか、その狭間が本当なのか、どうなんだ?」


 「多分どれも本当なんだろうけど、1番近いのは真ん中かな。家では落ち着いてるのが私の性格で、それが好きだったけど、今は家に騒がしくなるための要因が住んでるから、少し変わったよ」


 「つまり、俺が居なかったら静かだったってこと?」


 「そういうことになるね」


 「なんかごめん。性格曲げたかもしれない」


 「いやいや、むしろ今の方が楽しいから全然だよ」


 絶対的な壁。それが男女の壁だ。しかしそれを容易に取り除いてくれるのが歌代だった。気にしない、ただ、自分の好きなように生きる少女。それにただ美がついただけの、普通の女子。


 生活しやすいわけだ。


 今の方が楽しい。この言葉にどれだけ幸せを得られて、これから気にすることが減るか。嘘を言ってる可能性はある。しかしそれは、俺の中では0に等しかった。気を使う相手ではないから。


 「美少女の優しいお言葉は和むな」


 「お礼に噛ませてあげるとか?」


 「衝動に駆られた時限定な?今はそんなないだろうし、駆られそうなら部屋に戻ってもらいたいんだけど」


 「1時間に1回のペースでここに来るけどいい?」


 「何?俺の隣に居ないと衝動に駆られるとかいうやつですか?」


 「そういうこと」


 「ヤバいな……」


 嘘だろうけど。


 「衝動に駆られた時は、我慢しなくていいって言ったけど、何かしらの対策を立てるために少し我慢は必要かもな。常日頃から甘えてたら、咄嗟の時に対応出来ないかもしれないし」


 「我慢苦手だけど、そうだよね。そうしないと五百雀に迷惑かけることになるよね……」


 こればかりは仕方ない。いつか、もしもを考えれば妥当な判断だろう。

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