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第1話 はじめまして




 「この雨でその荷物。持とうか?」


 傘に当たる雨音よりも、地面に当たって散り行く雨音が気になる今。俺はゆっくりと手を差し伸べた。誰に?それは同じ高校の制服を身に纏った、名を知らない女子生徒に、だ。


 一応傘は右手に持たれているが、両足の隣にそれぞれ2つの荷物が置かれていた。それを見た俺は、この雨の中で大荷物を持って帰るのはしんどいと思って声をかけたのだ。


 ネクタイの赤色から見るに、同じ2年の生徒なのだろうが名前は知らない。他クラスとは顔も合わせないので、知り得ないのだ。つまり初対面。迷惑かと思いながらも、居ても立っても居られなかった。


 声をかけられて女子生徒は、ん?と俺の顔を見て言う。


 「……五百雀(いおじゃく)くん?」


 「えっ、俺のこと知ってるのか?」


 当然驚く。俺は知らないのに相手から認知されてる。そんなことがあるのかと、ストーカーに追われる気持ちを理解したように見開いた。


 「うん。知ってるよ。珍しい名字だからって、いつの間にか覚えてたから」


 「なるほどな。それでか」


 五百雀。俺の家族以外に出会ったことのない名字。個人的にはレアでカッコいいと気に入っているが、同じ名字の人に会えないのは少し寂しかったりする。


 姓を五百雀、名を凜人(りんと)。それが俺だ。名前もそんなに聞かない、名字に沿ったようなフルネームだ。


 「なら悪いんだけど、君の名前を教えてもらってもいいか?」


 「私を知らないなんて、結構学年のことに疎いの?」


 「それほど有名人?」


 「私は歌代月(うたしろつき)。これで分かる?」


 「歌代……歌代……あぁ!確か19日連続で告白された記録を持つ才色兼備の美少女さんか!」


 少ない記憶を辿る。途中で引っかかったのは歌代月という人がどんなことで有名だったのか。答えは端的に言って、美少女ということだった。成績も優秀であり完璧の権化が、この歌代月。


 「思い出してくれて良かった。まだ私も周知されてないのかと、高校2年目で泣き出すとこだったよ」


 性格も明るく知られており、友人の数も多い。誰とも分け隔てなく接する人気者だ。顔をしっかり見るのは初めてだが、これは男子もイチコロなわけだ。手のひらほどの小さな顔に、ぱっちりとした瞳。二重に加えて長いまつ毛は顔面の完璧を名乗るに不足なしだった。


 スラッと伸びた足に、制服の上からも分かるウエストの細さ。見えた肌に傷はなく、人形のように白くて美しい。美少女とは簡単に片付けられた褒め言葉と思うほど、目を奪って美しいと思っては次の部分、と、情報が完結しなかった。


 「……そんなじっと見つめられると恥ずかしいんだけど」


 「あぁ、ごめん。噂通りの可愛さだと思って」


 「ははっ。よくそんな恥ずかしいことを淡々と言えるね」


 「思ったことは言うタイプなんでね」


 考えたらすぐに口に出る。心の声漏れてるぞ、と友人に何度も言われたことがあるほどだ。


 「っと、忘れるとこだった。それ、持とうか?流石に女子1人でその量は、この雨の中だと厳しいだろうし。家は知られたくないだろうから、近くで帰るつもりの提案だ」


 俺が逆なら、興味も、関係もない女子に家を知られたいとは思わない。女子はそういうのに敏感だろうし、少し手伝う程度が1番いい。


 歌代は顎に手を置いて考える。「どうしようかな」と独り言を溢したりと、見ていて飽きなかった。が、見すぎるとキモいと思われるので2秒眺めて視線を逸した。


 「それじゃ、お願いしていい?」


 「もちろん」


 答えは承諾だった。快く了解し、置かれた荷物を2つとも両手に持つ。


 「重いのは2つずつ持つから、傘を持っててくれ」


 「いいの?4つも」


 「思ったより重くないから大丈夫」


 「そう。ありがとう」


 ニコッと感謝を伝えられる。この笑顔を見れるだけで腕に何も持ってない感覚になれる。美少女からの応援は力になるとは、本当だったらしい。


 ぐっと力を入れて持つと、それ以降重さは感じない。何が入ってるか気になるが、覗くなんて変態行為はしない。欲を抑えて歌代に合わせて歩き出す。


 「五百雀くんの家って、ここから近いの?」


 「近くないし遠くもないかな。実は今日引越しでさ、だから手ぶらでここに居るんだけど、これからその部屋に行くんだよ。だから正確には分からない」


 「そうなの?実は私も引越しなんだよね。だからこんなに荷物多いの」


 「へぇ。そんな奇跡あるんだな」


 荷物の量は真逆だが、引越し日が同じなのは奇跡として驚く。俺たちは共に今日――4月1日に高校2年生になったばかりだ。1年生なら分かるが、高校在学中に同じ地区で引越しなのはどんな確率だろうか。


 「方向って合ってるか?」


 「うん。五百雀くんの部屋もこっちにある?」


 「あるよ。まだ先だけど」


 スマホで確認しながらも、濡れないよう傘は差してくれている。大きな傘でも1つなので、結構密着している。緊張してしまうほど女子に耐性はないため、道のりが長く感じてしまうのは避けられない。


 「もしかして同じマンションだったりして」


 「そんな奇跡あったら運命を信じる。まぁ、ないから俺に部屋バレすることはないさ」


 俺の住むマンションは全部屋で唯一空いていた部屋だ。俺が住むならそれ以外に空き部屋はない。向かい同士のマンションの可能性ならあり得るが。もしそうなら、気軽に仲良くなれそうで良いんだけどな。

 少しでも面白い、続きが読みたい、期待できると思っていただけましたら評価をしていただけると嬉しいです

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