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第18話 日常




 「ところで、その五百雀って呼び捨て、それは性格が変わったから、呼び方も変わったのか?」


 来てから情報が多くて忘れかけていたが、しっかりと覚えていた。突然の呼び捨てに、歌代に似た人なのかと、本気で思ったくらい衝撃的だった。


 「そうだよ。元の性格が面倒が嫌いな性格だから、不必要なものは取り除いちゃうんだよね」


 「ふーん。結構面白い性格してるな。なんか、奥が深そう」


 ここに来て、騒がしい女子という性格が俺の中で消え去った。確かに学校ではそうだ。けど、今は全く別人だから。眼鏡を掛けて、怠惰な生活をする。これが学年1位なんて、幻滅するよりも好感高くて逆に好かれそうだ。


 「私と関わっていけば、何だこの女ぁ!って思う時あるかもよ」


 「それも含めて楽しそう」


 「ポジティブだね。でも、そんな人で良かった。この性格でも冗談は言うし、巫山戯るから、いつも通り接してくれて助かるよ」


 「こちらこそ。美少女の秘密を知れて嬉しい」


 「ふふっ。どーも」


 もう隠すことはないと、スナック菓子と炭酸飲料を出して、先程載せていたテーブルに載せ直す。包み隠さず、歌代は歌代で居てくれる。そう思うと、ホワッと温かくなる気持ちを覚えた。


 「もうシャワーか風呂入った?」


 「うん。見て分かるように、部屋着に着替えてるのでそういうことです!制服のままで寛ぎたくない性格なので」


 「分かる」


 だらしない生活をしていても、制服で転がることは避けてしまう。親が居るならば、親に何かと手伝いをしてもらえるが、文字通り二人暮らしの同棲。しかも出会って1週間。そんな関係に家事なんか任せるほど態度の大きい人ではない。


 「ならシャワー行ってくる」


 リビングにあるタンスを漁って、下着や部屋着を取り出す。もう下着を取り出して「あっ!」となる展開は3日前に終わっている。特にそれ以降、味のある出来事はなくて、よくあるシーンのようにテンプレにはならなかった。


 「うん。いってら。戻って来たらまた噛ませてね」


 「もう?インターバルがないんだけど」


 「冗談だよ」


 「ならいいけど」


 でも、どうだろう。俺はその衝動がどれほどか知らないから拒否している。出来ている。もし、それが苦しいのだとしたら、俺は助けるべきだろう。


 「冗談なら気にしないけど、本当に衝動が出たなら、遠慮なく言ってな?我慢するのは自分を破壊するのと同じだから、駆られたら寝てても起こしてから噛んでくれ」


 言われてぽかんと口を開ける。そんなに変なことを言ったのだろうか。


 「……いいの?」


 「え?良いけど……?」


 「分かった。ありがとう」


 反応からして、時々夜に駆られることがあるのだろうか。


 「夜とか、眠れないほど駆られることってあるのか?」


 「ううん。夜はそんなことないよ。衝動に駆られるのは突然だけど、21時以降には出てこないの。だから大丈夫。ありがとう、心配してくれて」


 「いえいえー」


 踵を返して聞いて良かったと、これほど幸せだったことはない。ニコッと感謝を伝えるのは何度も見てきた。しかし、歌代の不安が取り除かれたような笑顔は、心底恍惚とさせてくれた。


 やはり変だと思われてないか、それが心配だったのだろう。人とは違う、聞いたことのない癖を教えて、俺がどう思ってるのかが。


 十人十色。それを深く理解してるとは思わない。けど、人の違いは理解している。歌代にだって、完璧の中に人と違う特別な性癖があってもおかしくはない。


 むしろこれでもプラスだろう。噛み跡をつけることは悪いことだとは思わないし、歪んだ行為だとも思わない。人らしく自分を保つためのルーティンなら、それを受け止めるのが普通だ。


 歌代の悩みを解決出来たかな、と思うと、俺の足は軽くなった。首元を押さえるけれど、それは些末なこと。歌代の衝動に比べればどうだっていい。


 そうして、夕方に時間が傾きかける今、俺は歌代より遅く、世間一般より早く入浴を済ませた。


 ――「アイスとかって、風呂上り食べる?スナック菓子食べた後に聞くのもあれだけど」


 風呂上り、いつもアイスを食べる俺は、この1週間余裕がなく食べれてなかった。学校も始まり、歌代を知り、少し落ち着いた今、買い溜めしていたアイスに手を触れながら、テレビを見る丸眼鏡美少女に問うた。


 「食べても食べても太らないのが私だから、スナック菓子なんて摂取してないも同然!何があるのか教えてくれたまえ!」


 「いつも元気だな」


 部活に所属せず、運動能力は朝比奈と並んでずば抜けている。無駄な脂肪もなくて、筋肉だって平均以上あるらしい。胸は少し寂しいが。


 「えーっと、カップのバニラとチョコミント。コーンのチョコに、棒付きのイチゴ。商品名いる?」


 「あぁー、コーンのチョコで!商品名は大丈夫!」


 「はいよー」


 選ぼうとしたアイスを選んだので、小声で「わぁお」と呟いて、冷凍庫を閉じる。まだ春でも、暖かさは体を襲う。部屋もエアコンはつけてないが、温い部屋にはアイスが必須だった。


 「はいこれ」


 「ありがと。五百雀も同じのじゃん?真似した?」


 「真似した」


 「うぇーい。嘘つき」


 「え?なんで分かった?」


 「え?本当に嘘なの?真似してないの?」


 「……カマかけたのかよ」


 偶然のやりとり。動悸が激しくなるのは無理もない。

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