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第17話 その癖どうする?




 唾液がつく感覚はない。ただ、噛み跡をつけようと歯の感覚だけが伝わる。


 「なぁ、人に噛み跡をつけることが癖なのか?それとも人を噛むことが癖なのか?」


 恥ずかしながら、噛まれて痛くても、不快感がないことは不思議だった。密着してるから、美少女だからという理由じゃなくて、単に噛まれることに。だけど、眉間にシワは寄っていた。その上で質問を。


 歌代は答えるために、そっと噛み跡をつけて離すと言う。


 「噛むことが癖なの。特に、首だったり腕だったり耳は噛みたくなる。吸血鬼の吸血衝動みたいな?」


 テヘッと頭を叩いて可愛こぶる。可愛いからウザくないし、もっとその姿を見たいとまで思う。が、答えは理解出来ない。


 「そんなことあるんだな。特殊性癖ってやつ?」


 「うーん、快感を得るためにしてるんじゃないけど、昔からだから多分特殊性癖になると思う」


 「へぇ。苦労するな」


 「うん。だからほら、今日も休み時間に1回噛み跡つけたの」


 右腕を伸ばして、内側を見せる。そこには薄っすらと、噛み跡が。歌代は噛み跡が残りにくい体質。つまり、それだけ強い衝動に駆られたということだろう。


 「大丈夫か?日常生活とか支障をきたしてない?」


 「今のところはね。でも、ちょっと厄介なことが最近あったんだよね」


 「厄介なこと?」


 「五百雀凜人って人を見ると、今までよりも強く噛み跡をつけたくなっちゃったの。引っ越す前は、1週間に1回、自分の腕に噛み付けば衝動は抑えられたし、授業中も問題はなかった。けど、隣に五百雀が居ると思うと、1週間前に噛み付いたのを思い出して強く駆られちゃってね。帰ってきてから噛んだけど、何故か五百雀を見ると衝動が走っちゃうんだよね……」


 「……マジ?」


 今日、隣りに座っていて一切そんな様子は見受けられなかった。今も、解放されたからか、抑えれてる衝動が本当かも分からない。


 本当なら、結構俺の生活が大変になる。噛まれるだけならいいが、それの頻度が増えるなら、体全体に噛み跡をつけられるのも遠くない未来、ありそう。


 言っていて、意外と落ち着いていない歌代。なんなら、俺へ噛み跡をつけるのを喜ぶように、出会った日の片鱗を見せている。


 「意図的に噛みたくなってるとかじゃないんだよな?」


 「うん。正直、五百雀を噛むことは嬉しいと思ってる。ラッキーって言うのが正解かな?取り敢えず、誰にもバレない相手で、衝動を抑えれるのは私からすればいいことだから」


 「なるほどな。だから元気なのか」


 そういうことか。確か同棲を頼む時、壺を買わされる人のように、私にも事情があると言っていた。それがもしこれ、若しくはライトノベルや漫画を買うための費用を貯めるためなら、めちゃくちゃ納得する。


 「私の性格もだけど、この癖は誰にも言わないでね。癖のことは陽奈にバレてるけど、本気で衝動に駆られてるとは思われてない。だから、絶対に言わないで」


 懇願するように、つぶらな瞳を向けてくる。これを断れるわけもなく。


 「全然良いよ。どうせ、ドキドキハラハラを楽しむってことで、この関係は秘密だし、それをバラさないでいてくれてるなら、俺も隠し事には協力する」


 「ありがとう。お礼に逆も噛ませて」


 「お礼じゃないだろ……」


 既に左から右に移動し、無抵抗の俺の首を噛む。歯並びも良くて、模型に噛まれたのか疑わしいほどの噛み跡は、綺麗だった。


 「でも、なんで五百雀には噛み跡をつけたくなるのか、いまいち分からないんだよね。同棲してるからかな?それとも心を許したから?」


 「本能的に、もうバラす方が楽だと思ったんだろ。隠し事はストレスになるし、それだけ同棲相手に負担もかかる。それを危惧した本能が、しれっと衝動を強くして俺に気づかせた、とかな。歌代は優しいし、人の気持ちに敏感だろ?だから余計に思ったんだろ」


 「なるほど。納得する説明だね。ってかそれしかないって思うほどだよ」


 我ながら完璧に近い説明っぽかった。頭の良し悪しなら、歌代の100倍は悪い。だから歌代に納得されたり、褒められたりすると、気分が良い。


 「五百雀は私が近くに寄っても、もう動揺しなくなったし、嫌だとも言わなくなったから、それだけでも助かるよ」


 「全力で逃げても、噛まれるのは阻止出来ないからな。それに、受け止められるのは俺しかいないし、ドタバタして苦情も貰いたくない」


 「しっかりしてるね。これなら卒業までなんとか暮らせそうだよ」


 「暮らせなくても暮らさないとだからな。せっかく半額の半額なんだから、それなりに悠々自適に暮らして、学生生活を過ごさないと」


 なーんにも目的なんてなかった。単に進学するために、友達と適当に過ごすのが、強いて言うならの目的。でもそれが今変わった。歌代との同棲生活を楽しむことに。


 「だね。家に帰れば、ライトノベルや漫画を読んで、好きな時に噛み跡をつける私。学校に行けば、天真爛漫って謳われて騒がしい私。それに加えて陽奈とお嬢様と付き人。青海くんに変態くん。これは色濃くなりそう」


 「少なくとも、家ではゆっくり過ごせそうな時間は確保出来る。それだけで十分だ」


 俺も歌代と似たようなもの。学校でも比較的静かだが、家ではおとなしい。逆に家でもうるさい人はそんなに居ないだろうが、同棲でもおとなしく出来る相手が居るのは結構助かる。

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