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第16話 歌代……?




 自宅に戻ったのは14時前。部活にも無所属で、今日は午前中で何もかもが終わるため、帰宅にしては遅いくらいだ。聞くとこによると、歌代も部活はしていないそうなので、帰ればきっと居る。


 先に教室を出たのを確認した俺は、それから15分後に教室を出た。だから、1人で寄り道をしていない限り、きっと自室にこもってるはず。そう思って俺は、玄関で挨拶はしなかった。


 ローファを脱ぎ、背伸びをしてからリビングへ。一本道に迷うわけもなく、扉に手を掛けるとすぐそこにはリビングがあった。しかし、それよりも以外なモノを見てしまった。


 「ただいま」


 言った先、そこには、ソファに寝転び、スナック菓子と炭酸飲料のようなものをテーブルに置いて、だらしない姿で、俺と見つめ合う眼鏡を掛けた()()がいた。


 歌代は、記憶する限り、天真爛漫で常識人。家事も出来て、才色兼備の権化ともいえる完璧な人。背筋も伸びて、冗談も通じて、たまに変になるけど、根はしっかりとした美少女だと。


 しかしそこに居るのは、ただの怠け者であった。


 その怠け者は、俺と目が合い続けても、スナック菓子を口に運ぼうとしているとこで時間が止められたかのように身動きをせず、ただ「あっ」という表情を続けていた。


 「……あれ?目が悪くなったかな」


 目を擦りながら、その何かを見間違いだと思って、扉を開けて出る。そしてもう1度。


 「ただいま」


 言って開けると、そこにはスナック菓子も炭酸飲料もテーブルにはなくて、ソファで背もたれに寄りかかってテレビを見る歌代が居た。眼鏡すら掛けていない、いつもの。


 「おかえり!」


 いつもと変わらない。元気すぎる歌代。やはり俺の見間違いだったらしく、先程見えた怠け者は何処かへ消え去っていた…………って。


 「いや、無理無理!えっ、え??俺が見たのは歌代?ホントに歌代だったのか?!」


 流石に信じられなかった。全く別人のように見えた歌代。あれはしっかりと歌代だった。見間違いなんかで済まされない、一瞬部屋を間違えたかと思うほどの姿だった。


 「いや……やっぱり無理かぁ」


 「無理って……え?何が?」


 「いやぁ、忘れてたぁ!!そういえば1人じゃなかったんだ。なんで忘れてたんだろう。()()()と住んでるんだった!」


 しれっと名字だけになるが、そんなことよりも俺の頭の中は気になることだらけだった。スナック菓子の破片や、滴る水の跡、何もかもが見たものは本当だと言っていた。嘆く歌代は手遅れを理解したようで、開き直ってるようにも見えた。


 「ごめんね、これが私の本当の姿。なんか中二病っぽいけど、これが素の私だよ」


 戸惑う俺の背中を押したのは歌代だ。


 「素の歌代?」


 「うん。私、天真爛漫とか陽キャのなんとかって言われてるけど、実は漫画とかラノベが好きな、おとなしい性格なんだよね」


 「……マジ?」


 衝撃の事実。そんなことがあるのかと、偽っていたことを認めて話しだした。


 「顔が良いとさ、人を集めちゃうんだよね。その結果、ワイワイしないといけなくて、毎日帰宅してからベッドにダイブして、疲れを感じて寝ることを繰り返してたの。土日はそんなことないから、普通に今さっきの私で居たけどね」


 「……えぇ……そんな人、ホントに居るんだな」


 「うん。普段はコンタクトしてるし、学校でも頑張って私の素がバレないようにしてたんだよ。けど、今それが崩れた。油断してたなぁ!もぉぉぉ!」


 ソファに頭を叩きつけて、いつもと変わらない頭のおかしな、基準のおかしな歌代が完成。何も違和感はない。


 「このことは誰にも言わないでね?まぁ、言わないだろうけど」


 「それはそうだけど、ドキドキしたいってやつはそれも全部嘘ってこと?」


 「いや、それはホント」


 「なんだよ。結局大きく性格が変わるわけじゃないのか」


 「そうだけど、家にいる時の私は少し静かになるよってこと」


 「なるほどな。なら首筋に噛み跡つけるのも、あれは学校テンションってことか」


 「ううん。それもホントだよ」


 「それもかよ!!」


 声を大にしてツッコんでしまったが、分かってほしい。なんで家でおとなしい性格の人が、家で突然首に噛み跡をつけるだろうか。理解が難しい。


 「なんで噛み跡つけるのか聞いてもいい?」


 「なんとなくだよ。ついつい噛みつきたくなるんだよね。だから今も、早く隣に座ってくれないかなって思ってる」


 「……嫌なんだけど。嬉しいけど嫌だ」


 「何それ。でも、噛みつきたくなるのは衝動的だから、絶対だよ。授業中なら耐えれるけど、家で耐えれてことはない。だからここに引っ越す前は、自分の腕に噛み付いてたし」


 早くと催促される澄んだ目に、俺は抗えなかった。どうせ噛むまで追いかけるだろうから、ドタバタして苦情が来るより噛まれることを選ぶ。


 「風呂入ってからじゃダメ?」


 「汗かいてないでしょ?」


 「見えるほどはかいてないけど、気にする」


 「私は気にしないから……早く!!」


 招き猫のように、ソファに足を載せて来い来いと手を素早く動かす。葛藤するが、それも無駄な時間。歌代が良いというのだから、俺は仕方なく歩いて寄った。


 「私も変だとは思うけど、噛みたい衝動は抗えないんだよね」


 ソファに座ると、そう一言溢して、次の瞬間には首に小さな痛みと共に、歯の感覚が走った。

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