第15話 落ち着けない
「あーあ、帰った。美少女に好かれないのは悲しいぜ」
「桜羽、もう次のホームルーム始まるから、席付きな」
「えっ、まじ?もう少し早く来とけば良かった。まぁ、また来ればいいか。また、な」
股を指差すが、察した朝比奈と歌代は目を逸らしている。いや、もしかしたら最初から見てなかったかもしれない。騒がしかったここも、ホームルーム1分前ということで静かになる。
大嵐を呼んだ秋人はルンルン気分。香月は目が合うと手を振るので振り返し、星中には鋭く睨まれる。個性が強すぎて、ここに残る3人でさえ手に負えないというのに、他の3人も重たいのは、少し今後が怪しく思う。
「あれが桜羽くんの普通なの?」
「まだ抑えてるほうだよ。発病したら誰も止められないからね」
実は3回ほど歌代との関わりのあった秋人だが、毎回質問されるという。「それが普通なの?」と。
「今年ははじめましてが多いんだよね。五百雀くんも、青海くんもそうだし、お嬢様と付き人もでしょ?変人もそうだし陽奈も。騒がしくなりそうだよ」
危惧していることは誰もが日々経験して来たこと。去年、まだ友人も少なかった時、冬羅の騒がしさと、秋人の下ネタはとても心に響いた。もちろんマイナスな方。
あれが友人でいいのか悩んだけど、クラスの人気者だったのでまだ助かった。陰キャのでしゃばりならば、俺は多分学校で1人を選んでいたはず。感謝していたが、今はもうそんなのはない。
「取り敢えず五百雀んと青海くんは大丈夫だから、そこは心配いらないよ。その他は問題だけど」
「関わる人を選んだ方がいいぞ。派閥争いは見ていたいけど、下ネタに敗北する歌代さんは見たくないから」
「歌代なら下ネタ大丈夫そうだけど、無理なのか?」
これは純粋に気になった。共に暮らして1週間が経過したが、下ネタを言い合うことはなかったし、好きか嫌いか判断出来るほどの情報もなかった。これはいい機会だと、あまり興味なさそうに目を逸らして聞いた。
「桜羽くんは好きじゃないけど、下ネタ自体はそんなに。でも、好きな時に好きなだけ言う人はちょっとね」
そんな人が首に噛み跡つけるかよ。違う方向の変態ってことか?
「多分そんな男子居ないぞ。みんな歌代さんから好かれようと必死だからな」
確かに。先程からずっと周りの視線が痛い。目つきも鋭くて、まるで俺との反目を望んでるかのように見てくる。席順なので仕方ないことなのだが、香月と離れた星中の視線が1番痛い。刺さるように気配をぶつけるので、そんなに何か癪なのか、聞きたいけど聞けもしないから困っている最中である。
「それは青海くんもなの?」
「もちろん。少なくとも朝比奈よりも歌代さんに好かれるために必死だからな」
「あれ?聞いといてなんだけど、殴っていい?」
ポキポキ関節を鳴らして、その女子の中でも飛び抜けて身体能力の高い体躯を活かそうと、顔は笑っても瞳の奥は笑わない。
「私はそんなに好かれてるとは思わないけどね。確かに可愛いけど」
「……なんで俺を見る?」
「五百雀くんって、私に興味なさそうだから」
逆に興味しかない。家でどう過ごすのがいいのかを考えるのも、何を作って食べるのかも、何を見て過ごすかも、何もかも歌代が中心にある。男女の生活ということで、困ることは多くあるし、常に意識してないと、風呂上がりに全裸で出そうだから、暇なく興味を持ってる。
「可愛いだけで興味は持ってる」
「五百雀ん、確か私にもそれ言ってたよね。去年の今頃、同じ席だったから話しかけて、盛り上がって聞いたら、朝比奈さんは容姿が整ってるから、って」
「そうだっけ?」
「それに朝比奈が喜んでニコニコだったのも覚えてるぞ」
「普通に嬉しいじゃん?可愛いっていい言葉だしさ」
1年前に浸るように、両手を合わせて天を仰ぐ。神からのギフト。それが朝比奈の学年総合2位の実力だ。運動も学力も性格も、何もかもが最大級。それでいて2位なのが驚きなくらいだ。
「このクラスには美少女って謳われるのが4人も居るのかよ。ホントに信じられねーな」
「青海くんには勿体ないから、誰も興味ないって」
「大丈夫。俺もお前に興味ない」
カウンターだ。可愛いに浸った朝比奈に、青海らしく鋭く厳しい言葉を浴びせた。しかし朝比奈はそれを聞こえなかったことにして、プイッと無視する。
「早速1番コンビは騒がしいな」
「2番コンビも騒がしくなる?」
眉を2回上げ下げ繰り返し、意思を伝える。
「噛み跡つけられそうだから、歌代さんとは騒がしくなるのはやめとく」
スリルを求めるなら、これくらいは朝飯前だろう。
「あははっ。月、五百雀くんに噛み跡つける癖、見抜かれたの?」
癖かよ。
「えっ、マジで噛み跡つけるのか?」
「歌代さんにならつけられたいな」
「黙って変態。今は五百雀んが癖を当てたことに驚いてるんだから」
「私も言われて驚いたよ。陽奈から聞いたのかと思ったけど、違うっぽいし。奇跡って凄いね」
満足そうに笑ってみせた。ドキッとしたのはこの時で、スリルよりも恋を味わいそうだった。
それから、担任が戻ってくると、俺たちはもちろん、クラスが静かになる。2年生最初のホームルームは、何気なく終わり、これから新しく1年を踏み出すことに、俺は様々な気持ちを抱いて、学校から帰宅した。
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