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第14話 カオス




 「……あんたも今年同じクラスなの?地獄の始まりじゃん」


 「名前を見た時から吐き気が止まんない理由、やっと来たんだね」


 朝比奈、歌代と続いて嫌悪感を顕にする。若干赤の髪色をしたショートカットヘアの歌代、そして茶髪にショートカットヘアの朝比奈。それに対してこの2人、歌代と人気ランキングを競る生粋のお嬢様――香月透(かづきとおる)は、真っ黒の艶髪にポニーテール。もう1人、その香月の付き人――星中夢(ほしなかゆめ)は、唯一染めて金髪のロングヘア。


 1年生の頃からずっっっと続く、女子の頂点を争う人気勝負。それに巻き込まれてきたからよく分かる。この2人は冗談とガチの混ざり合いでこの勝負を続けているのだと。


 「あら、今年も同じクラスね、凜人くん。よろしく」


 歌代たちを無視して、軽く手を振ってくる。その笑顔には裏がありそうで、香月の読めない気持ちには何度か困らされたことがある。


 「よろしく」


 「あれ?俺には?」


 「ん?居たのね、青海くん。一応よろしく」


 「扱い雑じゃね?」


 「お嬢が決めたことに文句あるの?退学したいのか?このアホ面が」


 「いや、あっ……すんません」


 朝比奈の、思ったことを口にするに対抗するかのような口の悪さ。星中は、無理難題とも言える香月のお願いにも、難なく頷き遂行する、これまた変人である。それだけ忠誠心が高いため、お嬢である香月への非礼は絶対に許さない。


 「おい、無視するなよ人気ランキングも成績も運動も下の分際で」


 朝比奈の鋭い切り出し。それに応えるのは星中だ。


 「あぁ?無視されない程度の存在感見せろよ。金魚のフンが」


 「あんたも変わんないでしょ?」


 「私はお嬢の付き人。しかしお前は月の威を借るバカだ。大差しかない」


 「止めなさい、夢。こんな低俗の相手をしてはいけないわ」


 「あれ?止めるの遅くない?お嬢様ぁ。まぁ、学年3位で、運動も私たちより出来なくて、気品さでしか勝負出来ない哀れな人だから、遅いなんて考えに至らないだろうけどぉ」


 「言うわね、月。今度のテスト、恥をかかないように頑張りなさいね?そうでないと、大口叩いたことになりますわ」


 「そうだね。変態ババア」


 ヒートアップする悪口の言い合い。次第に罵詈雑言の投げ合いに変化するのは時間の問題だった。お互いに負けず嫌いで、その争いはどっちも毎回同じ終わり方で終わる。


 「いい加減に――」


 「痛っ!」


 香月への失言を撤回させようと、星中が何かを言おうとした時だった。いつもの終わりを知らせてくれる男がやってくる。同時に、俺は耳を塞いで何も見ないことにする。


 「いてててて……キン◯マぶつけたわ。よっ、今年も同じクラスだな、お前たち」


 塞いでも貫通するほど大きな声で挨拶を交わすこの男。病気を患っているのかと疑うほど、下ネタを声に出して言う男でもある。名前を桜羽秋人(さくらばあきと)といい、男女ともに人気はあるが、歌代、朝比奈、香月、星中には嫌われている変人の頂点である。


 「なんか楽しそうにしてるから来てみたけど、もしかして邪魔した?」


 「……下衆が。家の地下に死ぬまで監禁してやろうか」


 星中のガチトーンでの嫌悪感。蔑む一歩手前だった。


 「気持ち悪っ。桜羽、邪魔。消えて」


 「うわぁお。確か1年生の2学期3学期も同じこと言われて始まったよな。慣れてしまえば可愛いもんさ」


 「桜羽くん。卑猥なことはお家で言ってちょうだい」


 「同感。気分悪くなるよ」


 「つくづく批評なんだけど、そんなに下ネタは嫌なのか?」


 「……秋人、分かるまで、ここには来ない方がいいぞ」


 ここで唯一の助け舟。冬羅がこの空気感に耐えられず、諭してやろうと共感性羞恥を覚悟して言った。無自覚で言ってるのではなく、意図して言っているのが気持ち悪さを際立たせている。


 「はぁぁ。相変わらず邪魔されますわね。これだから変人の多い友だちは困りますわ」


 「私の友だちじゃないから。勘違いしないでよ」


 「俺には冬羅と凜人だけが友だちか」


 「……なんで友だちなのか、分からなくなってきたぞ」


 「青海くんはまだしも、凜人くんは違いますわ。勘違いしないことね」


 「だからなんで俺だけ?」


 「不満か?」


 「…………」


 これが俗に言うカオスというやつ。個性の強い人たちが、なぜこのクラスに全員集まったのか理解に苦しむが、これからもっと苦しむことはあるだろう。


 春なのに寒い空気感。秋人が来てからどうも、この教室の出席番号1番2番辺りが冷える。特に女子の列が。


 「今回は挨拶だけするつもりでしたから、正直変態の乱入はどうでもいいですわ。月、陽奈、貴女たちは今年、苦汁を飲むことになりますわ。そこ、よろしくお願いね」


 「あっそ。さっさと戻りなよ」


 「言われなくても。では低俗の皆様、そして凜人くん、また今度。ふふふふっ」


 「……毎回特別扱いだよな」


 ゆっくりと視線を集めながら戻る香月と星中。本当に、歌代、朝比奈派閥と僅差の人気度を持つので、それなりに人望も厚い。その美を纏った背中を見て、思わず思っていたことを溢した。


 「透こそ、変人だよ」


 「プライドバトルをしたがるのが、お嬢様らしくていいけどね」


 2人には不評でも、このプライドバトルは結構人気であり、学校行事で勝負をする際は途轍もなく盛り上がる。


 何故不仲として知れ渡らないか、それは単にお互いの性格が良いからである。何だかんだ親友と呼べるほど仲の良い4人。この喧嘩も、1つのお遊びと捉えられているのだ。

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